知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)模倣品を税関で止めるには?

2017年04月12日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.103)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生(特許庁出向者)

模倣品の流通を防止するためには、その供給源を絶つことが必要です。韓国における模倣品の大半は、中国から国境を越えて流入していると言われているため、税関での取り締まり、いわゆる水際対策が重要となります。本稿では韓国における水際対策について紹介します。

模倣品流入の実態

まず、韓国における模倣品の税関での差止件数(2015年)を仕出国別に見てみます(次表)。

順位 仕出国・地域名 輸入差止件数
1位 中国 9,276
2位 香港 629
3位 タイ 72
4位 フィリピン 70
5位 ベトナム 28
6位以下 その他 79
合計 10,154

全体的な差止件数は日本(3万件弱)より少ないですが、日韓双方とも、仕出国の割合は中国が9割強、香港を含めると95%を超えており、日韓で同様の傾向を示しています。
次に、差止の根拠となる権利別に見てみると、商標権が9,958件、著作権が17件、その他知財権179件となっており、商標権が98%以上と圧倒的多数を占めています。
品目別に差止件数を見ると、カバン類(29.0%)が最も多く、履物類(24.0%)、衣類・織物(15.4%)、時計類(6.7%)、機械・器具類(2.6%)と続きます。2014年から2015年にかけては、カバン類、履物類、時計類の取締増加が目立ちました。
また、貨物の種類別にみると、郵便物と特送貨物(DHLやFEDEXのような業者が扱う貨物)の差止件数の合計が全体の97.4%(ただし、重量ベースでは27.2%)を占めており、このような小口貨物の差止件数は増加傾向です。大口貨物が取り締まられやすいことから、個人輸入を含め、小口貨物で韓国国内に輸入しようとする例が増えていることが窺えます。

効率よく税関で取締りを受けるためには?

(1)知的財産権の申告

自社製品の模倣品を取り締ってもらうために、製品に付随する知的財産権を税関に事前申告しておくことが出来ます。
税関への申告は取締りの必須要件ではないものの、商標権だけで毎年10万件以上が新規に特許庁に登録されており、そのような膨大な権利の全てを税関でチェックすることは事実上不可能であることから、水際取締を受けるための知的財産権の事前申告は極めて重要と言えます。下表からわかるように、ほとんどが著作権か商標権で占められています。著作権は取締件数は少ないですが、申告は最多となっています。ちなみに、著作権で差止になる商品で最も多いのはサンリオのハローキティグッズということです。
また、特許権、デザイン権、品種保護権については、税関において正品か模倣品(権利侵害品)かの判断(真贋判定)を行うことが極めて困難であるため、過去に侵害の事実があったという証拠と共に申告することが必要となります。

権利の種類 件数
著作権 10,691
商標権 4,324
デザイン権 27
特許権 13
品種保護権 6
地域的表示権 1
合計 15,062

(2)オンラインシステム(IPIMS)の利用

関税庁は、2009年から知的財産権統合情報管理システム(IPIMS)を構築して運用しています。関税庁のインターネットサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにアクセスし、監視してほしい商標権や著作権などをオンライン申告しておくと、権利侵害の疑いのある物品が通関したときに、SMS及びEmailで迅速に権利者への通報を行い、権利者はオンラインで偽造商品の鑑定結果を登録することが出来ます。また、鑑定結果や偽造商品関連情報のデータベース化を進めることにより、水際取締の効率化・迅速化を実現しています。

(3)税関職員向け教育プログラムへの参加

精巧な模倣品が製造されるようになってきている昨今では、正品か模倣品かを見分けるポイントを知らないと真贋判定が困難です。
関税庁傘下の貿易関連知的財産保護協会(TIPA)は、毎年教育プログラムを開催しており、企業の担当者を講師に招いて真贋判定のポイントを税関職員に教育しています。このようなプログラムに参加することで、自社の模倣品を高確率で取り締ってもらうことが期待できます。プログラムへの参加はTIPAの会員(年会費500万ウォン)となっている企業が優先されますが、空きがある場合は弊所を通して申し込むことも可能です。

上述のように近年小口貨物での模倣品の輸入が目立ってきましたが、関税庁によると、以前は商業用の目的で搬入しない自己使用の物品は、品目当たり1個、最大2個まで通関が可能だったところ、2015年以降は自己使用の物品であっても侵害物品に該当する場合には輸入不可としているとのことです。模倣品の手口は多様化していますが、取締りの手段もそれに対応して進化していますので、本稿も参照の上効率的に対応していただければと思います。
なお、本稿で用いた水際取締データについては、韓国関税庁「知識財産権侵害取締り年次報告書(2016.7.1)」から引用しました。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 笹野秀生(特許庁出向者)
95年特許庁入庁。99年に審査官昇任後、情報システム室、審判部審判官、(財)工業所有権協力センター研究員、調整課品質監理室長を経て、2014年6月より現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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