知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)第4次産業革命時代における知的財産政策の方向
―新政権の知的財産分野のマスタープラン―

2018年01月17日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.112)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)

韓国特許庁は2017年11月1日に、新政権の知的財産分野のマスタープランとして「第4次産業革命時代における知的財産政策方向」を発表しました。本政策は第4次産業革命時代を迎える中で知財の創出・保護・活用の「知的財産好循環プラットフォーム構築」を通じて、革新成長と雇用創出に貢献することを目的として、知的財産政策全般の大枠を決めたものとなります。
本稿では、この「第4次産業革命時代における知的財産政策の方向」の概要について、ご紹介します。

基本方針

本政策は第4次産業革命時代に見合った「品質中心の責任行政」、「中小・ベンチャー企業におけるIP保護のための制度革新」、「政府事業の民間への開放」、「将来に備えるIPエコシステムづくり」を基本方針としており、具体的には、「知的財産で第4次産業革命を先導する」をビジョンに掲げ、以下の4大重点推進課題を盛り込んだものとなっています。

重点推進課題1:革新成長を主導する強い知的財産の創出

特許審査品質を革新し、特許が無効になった際には特許登録料を全額返金します。また、第4次産業革命における主要技術に対する中核特許の確保に積極的に取り組み、22年までに知的財産貿易収支を黒字にします。さらに、特許品質を高める取り組みを、R&D・出願など特許創出の全段階へと拡大し、産・学・研・官のスキルアップを目指します。

重点推進課題2:公正な経済を支える知的財産保護の充実

中小・ベンチャー企業における知的財産保護の実効性を高めるため、悪意のある特許・営業秘密侵害行為に対し、懲罰賠償制度(3倍以内)を導入し、下請けからの、あるいはビジネスを提案する段階でのアイデア奪取や使用行為などを不正競争行為の類型として新設します。また、韓国特許庁所属の特別司法警察隊の業務範囲をデザイン盗用・侵害行為捜査まで拡大します。

重点推進課題3:質の高い雇用を生む知的財産の事業化を進める

知的財産サービス業の投資ファンド、IP投資ファンドなどを助成して知的財産サービス業に対する投資を強化し(18年700億ウォン規模の新規ファンドを助成する予定)、特許管理専門会社の育成を積極的に支援します。また、従来の知的財産保証・担保貸出中心から、スタートアップ企業が将来の価値に基づいて資金を調達できるよう投資型IP金融を拡大し、知的財産金融を22年までに1兆ウォン規模に拡大するとともに、IP需要者・供給者・投資家・仲介者間の知的財産活用ネットワークを、VR(仮想現実)などの第4次産業革命における中核技術を中心に強化し、大学・公共研の優秀な特許取引を促し、知的財産取引規模を現在の2千億ウォンから22年までに3千億ウォンへと拡大します。

重点推進課題4:将来に備える知的財産の基盤づくり

特許技術が含まれたソフトウェアのオンライン上での流通も侵害行為に含めることで保護を受けられるよう法改正を進めるとともに(18年)、AI、ビッグデータなどの未来技術を活用して特許行政を効率化します。また、17の広域自治体に「広域発明教育支援センター」を設置(~22年)するなど、青少年発明教育に向けた基盤を構築するとともに、職務発明補償金の非課税限度額の引き上げなど、税制改正を進め、R&D従事者の発明意欲を高め、企業の職務発明制度の導入を拡大します。

期待効果

本政策の実行により、国全体で年間12.6兆ウォン、5年間で計62兆ウォンの付加価値が生まれるものとし、産業財産権に関わる知的財産サービス業の売上高は2.1兆ウォン(17年)から2.7兆ウォン(22年)へと5年間で6千億ウォンが増加(計27.4%、年平均5%)し、1.2万人(18年~22年)の雇用が生まれる効果が発生するものとしています。

このように韓国特許庁では、第4次産業革命に対応した知財政策を積極的に提案しており、その速さには大変驚かされます。特に、特許・営業秘密侵害行為に対する懲罰賠償制度については現在国会で法案が審議中であり、今後注視していく必要があります。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)
98年特許庁入庁。情報処理分野の審査官・審判官、国際課課長補佐、審判課課長補佐、知的財産活用企画調整官等を経て、17年6月より現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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