知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国におけるFD用高分子基板素材の特許動向

2016年05月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.92)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生(特許庁出向者)

プラスチック(高分子)基板素材は、LCDやOLEDなど平板ディスプレイのガラス基板の代わりになるものであって、画質の損傷や低下なく、曲げたり巻いたりできるフレキシブルディスプレイ(FD)を実現するための核心素材です。ディスプレイは韓国勢が強い分野であり、当該分野で競争力を生み出す素材の開発には日韓の主要企業が力を入れています。本稿ではその高分子基板素材の韓国における特許動向についてご紹介します。

高分子基板素材の特徴

高分子基板素材は、フレキシブルであるということの他に、金属箔やガラスに比べ軽い(1/2~1/7)点、衝撃にも強い点、また加工が容易で形態/厚さの制約が殆どないという点、産業的においてもフレキシブルディスプレイの低価格化実現のための連続工程(roll-to-roll工程)に最も適した素材であるという点等でメリットがあります。
ただし、従来のガラス基板では問題にならなかった耐化学性、耐熱性、吸湿性、透過度などについて多くの問題点を有しており、このような問題点の克服が研究開発の主眼といえます。
基板を構成する高分子材料の候補としては PI(ポリイミド)、PC (ポリカーボネイト)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等が挙げられます。

高分子基板素材を巡る韓国政府の施策

韓国政府(産業通商資源部)は、国内の部品素材産業の飛躍を目指し、世界市場を先占する10大素材(World Premier Materials)と20大核心部品素材を選定しています。そして、フレキシブルディスプレイ実現のための高分子基板素材についても、WPM事業を通じてフレキシブルディスプレイ用基板素材事業団を組織し、政府が積極的に投資をしています。
事業団は、サムスンのグループ企業である第一毛織を総括主管機関とし、細部課題として「1.透明高分子フィルム(第一毛織)」、「2.バリアや機能性コーティング素材(LG化学)」、「3.透明電極(インクテック)などを開発しており」、1、2の課題については中小企業やベンチャー企業が共同参画しています。

高分子基板素材の特許出願動向

高分子基板素材に関する韓国特許出願動向を見てみると、2003年まで出願件数はそれほど多くなかったものの、2004年から急増し、金融危機時に一時的に減少した後、2010年以降再び増加しています。
材料別の出願動向を見ると、最も多いのはPIで全体の約40%を占め、続いてPC(約20%)、PET(約11%)の順で出願されています。

高分子基板素材の韓国特許出願動向
2000年は7件だったものが右肩上がりで2013年には114件になった。

出願人国籍別では、韓国出願人が全体の約79%と圧倒的に多く、続いて日本(約12%)、米国(約4%)の順となっています。
企業別出願数を韓国企業/外国企業別に5位まで示すと下表のようになります。韓国ではやはりサムスン・LGのグループ企業の出願が多いことが目につきます。下表にはありませんが、韓国中小企業のインターフレックスという会社が全体でも8位の18件出願していることも注目されます。東レ尖端素材は、日本の東レが韓国で設立した現地法人であるため、韓国企業に入っていますが、外国企業についてはやはり日本企業が目立つランキングとなっており、韓国のディスプレイ市場を巡り、韓国財閥系企業に次いで日本企業が開発及び特許出願に力を入れている様子がわかります。

順位 韓国企業 外国企業
企業名 件数 企業名(国籍) 件数
1 LGディスプレイ 64 信越化学工業(日) 11
2 サムスンディスプレイ 62 住友金属鉱山(日) 10
3 サムスン電機 33 新日鉄住金化学(日) 9
4 LG化学 31 カネカ(日) 8
5 東レ尖端素材 31 3M INNOVATIVE(米) 6

なお、この記事で引用したデータ等は弊所が2015年度に実施した調査に基づいています。該調査の報告書は 弊所HP新しいウィンドウで開きます から参照できます。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 笹野秀生(特許庁出向者)
95年特許庁入庁。99年に審査官昇任後、情報システム室、審判部審判官、(財)工業所有権協力センター研究員、調整課品質監理室長を経て、2014年6月より現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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