知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)国際裁判部制度の導入と展望

2017年12月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.111)
法務法人広場(Lee & Ko)IP-GROUP パートナー弁護士 郭富圭(カク・プキュ)

法廷において外国語で弁論することができ、外国語で作成された資料を翻訳せずに提出することができるという内容の国際裁判部制度が最近、国会で成立し、施行を控えている。外国人に有益な内容を周知し活用すれば、訴訟で有利な地位を確保できるだろう。

1. 国際裁判部制度の内容と趣旨

大韓民国国会は、2017年11月24日、いわゆる「国際裁判部」制度の導入を議決した。国際裁判部の要旨は、韓国語以外での弁論や証拠提出ができるということである。法廷では韓国語だけを使用するが、通訳はできるという法院組織法第62条と外国語で作成された文書には必ず訳文を添付しなければならないという民事訴訟法第277条の例外を知的財産訴訟に限って認めたのだ。対象法院は、特許法院と知的財産訴訟を担当する5の地方法院である。

国際裁判部の導入をめぐる議論は、2014年にさかのぼる。当時、国会のIP HUB-国家委員会及び大法院のIP HUB-COURT委員会で議論が始まり、その背景には特許法院の事件の約33%が外国人事件という事情、韓国のIP訴訟をアジアの中心、世界の中心にして法律的、経済的跳躍を成し遂げるという意志がある。

2. 外国人に及ぼす影響

国際裁判部制度は、外国人に有利な制度を作り、外国人が韓国の法院に提訴するよう誘導するために導入されたため、外国人としてはその旨を上手く活用する必要がある。一定の要件に応じ、外国語で弁論することができるため、当事者が(訴訟代理人がいても)直接法廷に出席して英語や日本語で弁論することで裁判部により正確な内容を伝えることができる。また、英語や日本語の文書をそのまま提出することで翻訳にかかるコストや時間を省くことができる。そして訴訟代理人が英語や日本語で弁論する状況を直接傍聴することで当事者の主張が裁判部に正確に伝わったかを確認することができるというメリットもあるたろう。

3. 展望

この制度は、大統領が改正法案を公布した後、6カ月が経つと施行される。具体的な施行方法については、大法院の民事訴訟規則や特許法院の実務指針に詳しく規定されると予想されるが、だとしても施行初期には多少の混乱はあるだろう。従来から裁判部が外国語をそのまま読んでおり、訳文を提出する場合もコストの関係上、全文より抜粋部分だけ翻訳して提出してきたため、外国語での証拠を翻訳せずに提出することは問題なく施行されるだろう。しかし、外国語での弁論は、裁判部や訴訟代理人とも韓国人であるため、簡単な問題ではない。英語や日本語が上手な韓国人だといってもネイティブとは大きな違いがあり、特許の請求範囲の解釈において微妙な意味の違いを裁判部と先方に説得力を持って伝えることは韓国語でも非常に難しいため、外国語ではほぼできないと言っても良いだろう。

多くの問題を内包しているにもかかわらず、国会が果敢にこの制度を導入した趣旨は、最近の「IPブーム」と軌を一にすると考えられる。簡単な特許権登録と特許権の強力な行使を通じて外国人乃至韓国人に特許制度を積極的に使ってもらおうという「IPブーム」は、既に4〜5年前から始まったもので、従来の特許進歩性の判断基準とはかなりの違いを見せている。近いうち、一定の判断基準が確立される見通しであるが、それまでは過渡期的な「IPブーム」の時代が続くとみられるため、外国人としてはこの制度を上手く活用して訴訟で有利な地位を確保する必要がある。

今月の解説者

郭富圭(カク・プキュ)
法務法人広場(Lee & Ko)IP-GROUP パートナー弁護士

1994年 高麗大学コンピューター学科
2000年 司法研修院第29期修了
2000年~2016年 春川地方法院、議政府地方法院、ソウル西部地方法院、ソウル中央法院及び特許法院判事
2016年 法務法人広場(Lee & Ko)の弁護士
単行本では「デザイン訴訟の理論と実務」
論文では「需要者欺瞞商標における先使用商標の認知度に関する判断基準」、「姓名商標の類似可否に関する判断基準」、「特許の進歩性の判断基準に関する考察」「医薬用途発明の進歩性に関する判断基準」、「一事不再理規定の解釈」、「分かりやすく書き直した特許判決」、「特許訴訟における証拠準備と資料提出」などがある。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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