知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国におけるOLED素材の特許動向

2016年04月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.91)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生(特許庁出向者)

有機発光ダイオード(OLED)は、液晶に替わる次世代ディスプレイの有力候補として日米欧をはじめ世界中で開発競争が行われてきました。近年は韓国勢がOLEDの商品化に力を入れていますが、その製造にあたってキーとなるOLED素材(有機材料)についても各国が開発に力を入れており、OLED製品開発の中心といえる韓国を舞台に激しい特許出願競争が繰り広げられています。本稿ではそのOLED素材の韓国における特許動向についてご紹介します。

OLED技術の概要

まず、話の前提となるOLED技術について見てみます。OLEDとは、電極(正極・負極)の間に特殊な有機物の層を複数形成したダイオード形態の素子を指します。電極間に電流を流すと正極(透明電極)から正孔注入層・輸送層を介して正孔(+電荷)が、電子注入層・輸送層を介して電子(-電荷)が、それぞれ発光層に流れ込み、発光層において正孔と電子とが結合して発光層中の発光材料の特性に応じた色の光が発生します。

OLEDの各構成層と発光原理の概念図

韓国におけるOLEDメーカー及び素材供給元

韓国では2大ディスプレイメーカーであるサムスンディスプレイ(以下SD)及びLGディスプレイ(以下LGD)が、開発競争を繰り広げています。LGDは、現在、白色OLED技術とカラーフィルターを結合する技術を開発しており、サムスンディスプレイは、RGB独立画素方式の開発を通じて大型TVを早期に実現できるよう開発を行っています。また、LGDは、LG化学から事業を引き継ぎ、OLEDを用いた照明事業にも着手しています。
これら2大メーカーへのOLED素材供給元としては、日米韓の3カ国のメーカーが大勢を占めている状況です。例えば、電子注入層・輸送層材料は韓国のLG化学がSD及びLGDに供給し、青色発光層材料はSDに対して韓国のSFC及び米国のダウケミカルが、LGDに対して日本の出光興産及び保土谷化学工業が供給しているという具合です。

OLED素材の特許出願動向

OLED素材に関する韓国特許出願動向を見てみると、2000~2009年までは130件以内の出願件数でしたが、2010年以降急激に伸びていることがわかります。 素材別の出願動向では、発光材料が全体の61%と最も多く、次に正孔輸送材料、電子輸送材料、正孔注入材料、電子注入材料の順で出願されています。

OLED素材の年別韓国特許出願動向 2000年は20件だったものが右肩上がりに伸び、2013年は338件になった。

出願人国籍別では、韓国と日本の出願人がそれぞれ全体件数の45%、36%と圧倒的に多く、続いて米国、ドイツの順となっています。
企業別出願数を韓国企業/外国企業別に5位まで示すと次のようになっており、韓国企業のみならず、外国企業も旺盛に出願している状況が見て取れ、韓国2大メーカーにけん引される形で発展しているOLED市場を巡り、韓国メーカーと日米欧のメーカーとが激しい特許競争を繰り広げている様子がわかります。

順位 韓国企業 外国企業
企業名 件数 企業名(国籍) 件数
1 LGD 145 半導体エネルギー研究所(日) 145
2 ドゥサン 114 出光興産(日) 143
3 SD 106 Universal Display Corporation(米) 62
4 ローム・アンド・ハース電子材料コリア 66 Merck Patent GmbH(独) 57
5 LG化学 57 UDC Ireland Limited(愛) 52

なお、この記事で引用したデータ等は弊所が2015年度に実施した調査に基づいています。該調査の報告書は 弊所HP新しいウィンドウで開きます から参照できます。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 笹野秀生(特許庁出向者)
95年特許庁入庁。99年に審査官昇任後、情報システム室、審判部審判官、(財)工業所有権協力センター研究員、調整課品質監理室長を経て、2014 年6 月より現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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