知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)不正競争行為の一般条項の適用基準– 最近の紛争事案の紹介

2017年06月14日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.105)
法務法人(有限)律村 ソウル事務所 パートナ弁護士 チョ・ソンジン

現在、日本の不正競争防止法は、不正競争行為の類型を限定的に列挙する方式で16種類の行為を規制しています。一方、韓国の不正競争防止法は、9種類の個別の不正競争行為の類型の他に、それに含まれないその他の成果盗用行為も一定の要件の下で不正競争行為に含まれる「不正競争行為の一般条項」を置いています(不正競争防止法第2条第1項ヌ目)。以下において、最近の不正競争行為の一般条項の適用可否が問題視されたファッションブランドの紛争事件と、ゲーム製造社の紛争事件に関するソウル高等裁判所の判決をご紹介します。

不正競争行為の一般条項について

韓国の不正競争行為の一般条項は2013年に新設され、『その他、他人の相当の努力で作られた成果などを公正な商取引の慣行または競争秩序に反する方法で自身の営業のために無断で使用することにより、他人の経済的利益を侵害する行為』を不正競争行為として規定しています。このような不正競争行為の一般条項の新設により、今まで列挙されてきた不正競争行為に該当しなかった新たな類型の不正競争行為に対し、適切な規制が可能になりました。
しかし、不正競争行為の一般条項は、『成果など』或いは『公正な商取引の慣行または競争秩序に反する方法』など、多少抽象的で曖昧な文言で構成されており、その解釈に関する法理が確立されていないことから、どの範囲まで規制行為としてみなせるのかに対し多くの議論がありました。
これに関し、最近、ソウル高等裁判所が判示した下記の二つの判決はその適用基準を具体的に提示したという点から多くの注目を浴びています。

「エルメスの鞄 vs. 目玉鞄事件」

この事件は、フランスの名品ブランドであるエルメスが国内において別名「目玉鞄」として有名なブランドの代表者を相手に、目玉鞄の製品の形態がエルメス鞄の形態と類似しているとして不正競争行為の一般条項などに該当すると主張した事件です。第1審は、エルメスの不正競争行為の一般条項の主張を認めましたが、控訴審においてソウル高等裁判所は目玉鞄のデザインの独創性、デザイン開発の経緯、目玉鞄が人気となった経緯、国内外のファッション業界の専門家らと需要者らの肯定的な評価などの具体的な事情及び、両製品は全体的な審美感において差があり、価格、販売している場所・方法、主な顧客層が確実に異なることから、製品間で誤認・混同する可能性が認められると見るのは難しい点などを挙げて不正競争行為に該当しないと判断し、エルメスの主張を全て棄却しました(ソウル高等裁判所 2017. 2. 16. 宣告 2016ナ2035091 判決)。

「キングドットコム vs. アボカド事件」

この事件は、外国のゲーム会社が国内のゲーム会社を相手に国内のゲーム会社がサービスしているゲームが自社のゲームの画面の構成、規則の選択・配列・組合せなどを模倣したとし、不正競争行為の一般条項などに該当すると主張した事件です。第1審は、原告の不正競争行為の一般条項の主張を認めたものの、控訴審においてソウル高等裁判所は被告のゲームが原告のゲームと同様のゲーム規則などを使用して原告のゲームの人気に一部便乗した部分があるとしても、被告の独自のアイデアを基に費用と努力をかけて原告のゲームと実質的に類似していないゲームをサービスした点、原告が成果物であると主張する規則らは特定人が独占できないとみることが妥当である点などを挙げて、被告のゲームサービスが不正競争行為に該当しないと判断しました(ソウル高等裁判所 2017. 1. 12. 宣告 2015ナ2063761 判決)。

おわりに

以上の二つの事件において、ソウル高等裁判所は、知識財産権法によって保護されない他人の成果である情報(アイデア)などは、たとえそれが財産的な価値を持つとしても模倣或いは利用行為に際しての公正な取引秩序、及び自由な競争秩序に照らしてみて正当化されない「特別な事情」がある場合に限って模倣行為等が許容されないとし、不正競争行為の一般条項の適用範囲を多少制限的に解釈しています。
現在、この二つの事件は全て最高裁判所の上告審に係属中であり、不正競争行為の一般条項に関する裁判所の基準を確認することができる事例として最高裁判所の判断の帰趨が注目されています。

今月の解説者

法務法人(有限)律村
パートナ弁護士 チョ・ソンジン
専門分野 知的財産権
ソウル大学校法科大学卒業
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生)

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195