知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)人工知能は、エジソンになれるのか?

2021年08月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.155)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

ブームと冬の時代とを繰り返してきた人工知能(AI)技術は、インターネットの発達に伴うビッグデータの蓄積とディープラーニングの登場という強力な武器を手に入れたことで飛躍的な進歩を遂げ、現在いわゆる第3次AIブームを迎えています。昨今の状況を見ると、AIはもはやブームを越えて社会への実装が進んでおり、AIを「対象とする」特許出願も増加しています。

一方で、AI技術の水準が高まるにつれ、AIが人間の高度な精神活動である発明や創作の領域にまで進出しつつあり、知的財産の分野でもAI「による」発明や創作が生まれた場合、それをどのように保護すべきか議論がなされてきましたが、ついに実際の例が現れることになりました。

2021年6月3日、韓国特許庁は「人工知能は、エジソンになれるのか? 特許審査の初事例」と題するプレスリリースを出し、同庁にAIを発明者とする初めての特許出願がなされたこと及びその出願に対する対処について公表しました。

1. 発明の概要

食品容器の発明(左)と点滅するランプの発明
食品容器の発明(左)と点滅するランプの発明

出典:国際公開第2020/079499号公報

韓国特許庁によると、対象の特許出願は米国のAI開発者(出願人)が出願した国際特許出願の韓国への国内移行出願であり、この出願人が最初のAI発明者だと主張するAIプログラムの名前は「DABUS:Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience」であるとしています。
出願人本人はこの発明に関する知識がなく、自分が開発した「DABUS」が一般的な知識を学習した後、2つの発明(組み合わせやすく表面積が広くて熱伝達の効率の良い食品器の発明、および、神経動作のパターンを模倣して点滅するランプの発明)を自ら創作した と主張しているとのことです。
※韓国特許庁は、出願内容を公開していないため、図面は、元となった国際特許出願の公開公報の図面を引用しています。

2. 韓国特許庁の対処

この出願に対して韓国特許庁は、「自然人ではないAIを発明者に記載することは特許法に違反するため、発明者を自然人に修正しなければならない」との趣旨の補正要求書を5月27日付で通知したと発表しています。韓国特許法および関連判例は自然人のみを発明者として認めており、自然人ではない会社や法人、装置などは、発明者として表示することができないためです。 また、韓国特許庁は、同庁よりも前に欧州特許庁、米国特許商標庁、英国知的財産庁においても同様の措置がとられていることにも言及し、AI発明を巡るいくつかの争点について、法制諮問委員会を立ち上げて産・学・研の意見を収集するとともに国際的な議論にも積極的に参加すると表明しています。

3. 今後の議論

現在の主要国における特許法の枠組みでは、発明者は自然人であるべきと解されており、今回の韓国特許庁および他国での判断もこの解釈の域を出るものではありません。しかし、今後AIによる発明や創作が一般的なものとなった場合、知的財産法による保護の在り方が改めて問われることになると思われ、今後の議論が注目されます。
なお、少し古い情報となりますが、2016年12月、韓国特許庁は「人工知能(AI)分野における産業財産権イシューの発掘および研究」と題する報告書を発行しており、この中でAIによる発明を認めるための具体的な立法案に言及しつつ、現時点での法改正は時期尚早であるとしています。この報告書の仮訳をジェトロ韓国知財ウェブサイトに掲載しておりますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾 (特許庁出向者)
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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