知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国の権利範囲確認審判について
―特許紛争解決手段としての意義―

2018年05月09日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.116)
ラオン国際特許事務所(KIM,HONG&ASSOCIATES) 張萬澈(チャン・マンチョル)代表弁理士

韓国特許法では「特許権者、専用実施権者又は利害関係人は、特許発明の保護範囲を確認するために特許権の権利範囲確認審判を請求することができる」と規定しています。権利範囲確認審判制度は、日本では1959年に特許法における判定制度導入の際に廃止された制度ですが、韓国においては存置されているだけでなく、相当の意味を持つ制度として評価されています。本稿では、この権利範囲確認審判についてご紹介します。

権利範囲確認審判と関連統計

権利範囲確認審判は、特許権者が被疑侵害者の実施する技術等に関して、それが特許権者自身の特許権の権利範囲に属することの確認を求めたり(積極的権利範囲確認審判)、第三者が自身の実施する技術等が他人の特許権の権利範囲に属さないことの確認を求めたりする審判(消極的権利範囲確認審判)です。

最近3年間(2015年〜2017年)の統計では、権利範囲確認審判の請求件数(医薬品許可特許連係関連審判請求件数を除く)は、平均346件でしたが、これは知的財産権(全体)関連民事訴訟(損害賠償)の第一審事件が2016年に381件(2017司法年鑑)であったことを鑑みると、少なくない件数です。このように、韓国における特許紛争の解決において、韓国特許庁の権利範囲確認審判が相当の役割を果たしていると言えます。

このような中、最近、韓国の大法院は「特許侵害訴訟中に特許審判院に提起された消極的権利範囲確認審判は、確認の利益がなく不適法であるにもかかわらず、これを認容した特許審判院の審決は違法である」という趣旨の審決取消判決(特許法院判決)に対して、これを破棄差戻した判決(2016フ328号、2018.2.8)を下しました。

大法院判決(2016フ328号、2018.2.8)要旨

特許法第135条に規定している権利範囲確認審判は、特許権侵害に関する民事訴訟(以下「侵害訴訟」という)のように侵害禁止請求権や損害賠償請求権の存否のように紛争の当事者間の権利関係を最終的に確定する手続ではなく、その手続での判断が侵害訴訟に帰属力を及ぼすものではないが、簡易かつ迅速に確認対象発明が特許権の客観的な効力範囲に含まれるかどうかを判断することにより、当事者間の紛争を事前に防止したり、早期終結させることに貢献するという点で固有な機能を持つ。

権利範囲確認審判制度の性質と機能、特許法の規定内容と趣旨等に照らしてみると、侵害訴訟が継続中であるので、その訴訟で特許権の効力が及ぶ範囲を確定することができたとしても、これを理由に侵害訴訟とは別個に請求された権利範囲確認審判の審判請求の利益が否定されると見ることはできない。

コメント

韓国の特許法第164条では、特許審判院と裁判所で特許紛争事件が進行されている場合に、一方の側が手続きを停止することができるように規定しており、また侵害訴訟と無効審判等について相互に通報することを規定しています。このように特許審判院と裁判所との疎通が円滑に行われている点、また権利範囲確認審判はすべて優先審判の対象となり、一般的に6カ月以内に審決が行われているという点などの理由で、韓国では権利範囲確認審判制度が活性化されています。

勿論、権利範囲確認審判制度の意義について、国内で否定的な意見がないわけではありませんが、上記大法院の判決は、現実的に権利範囲確認審判制度が特許紛争を解決する一つの軸として機能していることを認めるものであり、また、特許法でも権利範囲確認審判と侵害訴訟とを独立した手続とすることを前提に規定していることを現実的に受け入れた判決です。韓国における権利範囲確認審判は、今後も特許紛争の解決手段としてより活用されると考えられます。

今月の解説者

ラオン国際特許事務所(KIM,HONG&ASSOCIATES) 張萬澈(チャン・マンチョル)代表弁理士
1984年仁荷大学航空工学科卒業。85年特許庁入庁、99年横浜国大卒業(修士)、09~12年駐日韓国大使館特許官、13~16年特許法人元全弁理士、17年から現職
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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