知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国特許庁、政権交代後初の知的財産分野総合計画を発表
2022年09月14日
The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.168)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足から101日目、韓国特許庁の李仁實(イ・インシル)庁長が就任してから80日目となる2022年8月18日、韓国特許庁は新政権発足後初めてとなる知的財産分野総合計画を発表しました。本稿ではその内容について解説します。
1.これまでの経緯
以前の本欄でご紹介したように、尹錫悦大統領就任前の2022 年5 月3 日、大統領職引き継ぎ委員会は「尹錫悦政府の110 大国政課題」(全186頁)を発表していました。このうち、知的財産に関する言及はタイトルと本文とを合わせ数行で、以下の内容でした。
- 課題22:
-
需要者向け産業技術R&D イノベーション及び知的財産保護の強化(産業通商資源部)
「秘密特許制度の導入、技術奪取防止など海外知的財 産紛争支援の強化とAI・ビッグデータ技術を活用した 特許行政イノベーションを推進」
このように新政権の知財政策について手がかりが少ない中、具体的な政策内容に注目が集まっていたところ、2022年8月18日、韓国特許庁は、新政権発足後初めてとなる知的財産分野総合計画「ダイナミックな経済の実現に向けた知的財産の政策方向」を発表しました。
2.「ダイナミックな経済の実現に向けた知的財産の政策方向」の内容
「政策方向」の主要内容は以下のとおりです。
- (1)基盤が堅固な審査・審判
- 半導体退職専門人材の特許審査への投入、バッテリー・生命工学(バイオ)などの先端戦略産業に拡大→審査の専門性は向上、海外技術流出は防止
- 半導体などの先端技術特許の優先審査→早い審査で市場の早期先取りを支援
- 巨大人工知能(従来比100倍の処理能力)基盤の知能型審査システムを構築→類似特許・商標検索精度の向上、方式審査の自動化
- (2)科学・産業界が実感する知的財産サービスのイノベーション
- 特許ボックス制度や職務発明支援など、技術イノベーション企業の成長を支援
- 2027年まで知的財産金融を23兆ウォン(2021年6兆ウォン)に大幅拡大
- 国家コア技術の流出を防止するための「秘密特許制度」の導入を推進
- (3)韓国企業の知的財産基盤海外進出の支援を強化
- 新興市場のベトナム・インドに特許官を派遣するなど、海外知的財産保護を強化
- 海外Kブランドの偽造品取り締まりを100個以上の世界電子商取引プラットフォーム(既存8個)に大幅拡大
3.従来の政策との違いは?
今回発表された「政策方向」には、2021年12月に前政権下で策定された、第3次国家知識財産基本計画(2022~2026)を踏襲する部分もある一方、半導体退職専門人材などを特許審査官として採用することによる特許審査迅速化、特許ボックス制度の導入(※1)、秘密特許制度の導入(※2)については、基本計画には記載されておらず、今回新たに盛り込まれたものとなっています。
- *1
- 特に特許権など、特定の種類の知的財産権から生じた所得に対する法人税の軽減を認める租税措置のこと。韓国では、2021年4月に租税特例制限法の一部改正法律案が提出されています。
- *2
- 韓国では国防関連技術について既に秘密特許制度が導入されていることから、この対象拡大を検討しているとみられます。
今回発表された政策方向が今後どのように実現されていくのか、注視が必要です。
今月の解説者
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。
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