知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)商標の「使用」の意味が変わる! ?
2013年12月10日
The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.63)
特許法人KOREANA 弁理士 金 敬玉
日本と同様、韓国の商標法においても、登録商標を3年間「使用」していない場合には、不使用による商標取消審判の対象となるが、これまで、日韓で登録商標の「使用」と認められる範囲が異なり、注意が必要であった。ところが、今般、韓国の大法院全員合議体において、これまでの判例を覆す判決が言い渡され、実務上大きな転換を迎えることとなったので、ここにご紹介したい。
登録商標における「使用」とは?
設定登録によって商標権が発生する登録主義を採用している国家では、使用していない登録商標によって第三者の商標使用の機会が不当に制限されることのないよう、一定期間使用されていない登録商標については、それを取り消すことが可能な不使用取消審判制度が設けられており、その期間は、日韓とも3年となっています。ところで、多くの商標権者は、商標の登録を受けた後、登録商標をそのまま使用せず、取引業界の事情や消費者の認識などに応じて、ひらがなを英文字(ローマ字)に変更したり、ひらがなと英文字の組み合わせのうち、一方のみを使用するなど、登録商標をモディファイして使用することがよくあります。しかし、ここに落とし穴があります。すなわち、ひらがなを英文字に変換して使用した場合や、ひらがなと英文字を組み合わせた登録商標について、その一方のみを使用した場合などは、果たして登録商標を「使用」したということができるのでしょうか?
日韓における登録商標の「使用」の違い
これに対し、日本商標法では、登録商標それ自体でなくても、“平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の呼称及び観念を生ずる商標”などを使用していれば、登録商標の「使用」と認められ、また、ガイドラインも提供されています。しかし、韓国では、これまで、例えば、英文字とその音訳に該当するハングルが併記(結合)された登録商標について、英文字のみ、またはハングルのみで使用した場合、登録商標と同一性がないとして「使用」に当たらず、結果、不使用取消審判において登録商標が取り消されてきました。しかし、今回、韓国大法院全員合議体において、これまでの判例を覆す注目すべき判決が下されました。
大法院全員合議体による新たな判例
今回の判決では、英文字とこれを単に音訳したハングルが結合された登録商標において、その英文の意味から受ける観念(意味)以外、その結合によって新たな観念が生じず、英文字とハングル音訳のいずれか一方を省略しても一般需要者や取引者が登録商標と同一の称呼(読み方)をする場合、その一方のみの使用であっても、社会通念上、登録商標を「使用」したものとする旨判示し、“CONTINENTAL”とその音訳である“コンチネンタル”(原文はハングル語)が結合された登録商標について、 “CONTINENTAL”のみの使用であっても、登録商標が「使用」されたものと判断しました。
今後の実務上の留意点
本判決は、日本商標法の規定と軌を一にするものであり、実務的にも歓迎すべきものです。特に、これまでは、このように英文字とそのハングル音訳を併記した登録商標について、英文字単体、またはハングル音訳単体で使用したい場合には、それぞれ別個に商標の登録を受けないと、元の登録商標が不使用により取消となる懸念がありましたが、今後は、その負担が軽減されることが期待されます。
一方で、今回の判決は、このような英文字とそのハングル音訳を併記した登録商標について、その一方を使用していれば、直ちに登録商標の「使用」と認められるわけではない点に注意が必要です。すなわち、登録商標と、使用する英文字またはハングル音訳との間で、観念と称呼が同一の場合に限られます。そのため、造語のように需要者によって多様な称呼が生じる可能性がある場合(例えば、“SCIEON”の場合、サイオン、シオン、シエオン等の称呼が生じ得る)や、音訳から複数の外国語が連想可能な場合(例えば、ハングル語で“ピース”と標記した場合、その音から、piece やpeace 等が連想可能)など、登録商標と使用しようとする英文字またはハングル音訳がそれぞれ生じる観念と称呼が同一でない場合、今回の判決とは違った判断がなされる可能性があり、その動向は、注視していかなければなりません。
今月の解説者
特許法人KOREANA 弁理士 金 敬玉
1990年ソウル大学校衣類学科卒業。90年LG 商社入社後、99年弁理士試験合格。その後、00年にリ・インターナショナル特許法律事務所、04年に特許法人多来、07年に特許法人知明に勤務したのち、10年にLaw School of University of Washington, LL.M.(米国)修了、12年から現職。大韓弁理士会、INTA 会員。商標、デザイン分野専門
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロソウル事務所 副所長 岩谷一臣)

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。
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