知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国特許庁の2020年度業務計画 ―誰でも知的財産に直接投資する新IP投資市場を創出―

2020年04月08日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.139)
ジェトロ・ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)

韓国特許庁は3月11日、知的財産で新たな産業・経済的価値を創出するための「2020年度業務計画」を発表しました。ここでは主要推進課題として、(1)特許ビッグデータ活用の産業全般への拡大、(2)知的財産に直接投資する新IP金融投資市場の開拓、(3)真の知的財産保護に向けた法令整備、(4)スタートアップのクリエイティブなアイデアを保護する制度の新設、が掲げられています。本稿では、この「2020年度業務計画」の概要について、ご紹介します。

1. 知的財産で国家技術競争力を強化

  1. 一定規模以上の素材・部品・設備のR&Dに対する特許基盤の研究開発(IP―R&D)の制度化を推進し、「特許戦略拡散支援センター」の運営により企業のIP―R&D遂行に向けたソリューション開発・教育への支援を強化します。
  2. 政府・民間のR&Dに4億3,000万件の特許ビッグデータの活用を拡大するため、「国家特許ビッグデータセンター」を設置し、政府・民間のニーズに合わせた分析結果を随時提供します。
  3. 小発明・アイデアを保護する実用新案制度の全面改編を行い、産業イノベーションを支援するため、1)Free―Type出願サービスの実施、2)特許一部分割出願制度、3)商標部分拒絶制度の導入などの制度改善を行います。さらにAI画像検索や機械翻訳など、審査にAIを積極的に活用します。

2. 新しい経済的価値を創出する知的財産市場の造成

  1. 2020年に2,200億ウォンのファンド・オブ・ファンズを造成し、IP直接投資ファンドへの支援などに活用します。また、IP信託業の新設、知的財産金融センターの設置など、民間IP投資インフラも強化します。
  2. 3倍賠償制度を商標・デザイン侵害に拡大し、侵害発生時の権利者立証の負担を軽減して紛争を早期終結するために「韓国型ディスカバリー」制度を導入します。また、不正競争行為での職権調査を拡大して技術奪取に積極的に対応します。
  3. 特許審査官・市場専門家がイノベーション的な特許のスタートアップを発掘し、官民協業によるインキュベーター・投資誘致機会を提供します。また、IPサービス業を育成するために、ビジネスモデル・コンサルティングおよびIPサービスの開発を支援します。

3. 知的財産で輸出企業の保護を強化

  1. 韓流関連の侵害が多いフィリピンに海外知識財産センター(IP―DESK)を新設し、政府間知財権保護協議体を拡大・定例化します。また、中国・ASEANなどでの侵害行為モニタリングを強化し、「海外K―ブランド侵害申告センター」を設置します。
  2. 中小・ベンチャー企業の海外特許に対する費用負担を軽減するためにIPファンドを拡大し、特許バウチャーの規模も拡大します。また、知的財産競争力を持つ有望な輸出中小企業のなかで、「グローバルIPスター企業」を選定し、ブランド・デザイン・特許融合戦略および海外進出に特化されたIP―R&Dを支援します。
  3. 新南方国家・中東など新興国を対象にしたIPコンサルティング、特許行政情報システムの構築や審査官教育などを行い、韓国型知的財産システムを拡散して、速やかな海外特許取得ができるよう特許効力認定協力(※)も積極的に推進します。

    ※韓国で登録された特許を、当該国で別途審査をせずに、すぐ登録する制度

韓国特許庁は、この「2020年度業務計画」により、(1)政府・民間のR&Dの効率を高めて国家技術競争力を効果的に強化すること、(2)市場の流動資金が知的財産を通じて産業界に流入して新しい経済的価値と雇用を創出すること、(3)知的財産で武装した韓国輸出企業のグローバル市場への進出を活性化すること、を目指しており、韓国の産業界における知的財産の役割が今後どのように変わっていくのか、注視していく必要があります。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)
98年特許庁入庁。情報処理分野の審査官・審判官、国際課課長補佐、審判課課長補佐、知的財産活用企画調整官などを経て、17年6月より現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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