知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国における商標不使用取消審判の増加とその対応策

2019年05月08日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.128)
特許法人佳山朴允正(パク・ユンジョン)

韓国商標法では、商標の使用を促進するために、特許庁に登録された商標であっても3年間使用されていない場合、誰でも不使用取消審判を請求することができ、商標権者がその登録商標の使用を立証できなければ、該当商標の登録を取り消すと規定しています(商標法第119 条第1項第3号)。本稿では、この商標不使用取消審判についてご紹介します。


1.商標不使用取消審判の状況

特許審判院の審判統計によれば、商標不使用取消審判の請求件数は大幅に増加しています。2013年1,676件、2014年1,449件であった取消審判請求は着実に増加して2016年2,122 件、2017年には2,124件に上り、韓国特許審判院の審決により2016年1,207 件、2017年には2,172件の商標登録が取り消しとなりました。

このような登録取消の増加原因は、2016年9月1日施行された韓国商標法の改正によるものと見られています。従来の商標法では、利害関係人のみが不使用取消審判を請求できるように制限しており、利害関係の疎明は審判請求人にとって大きな負担でした。しかしながら、改正商標法では、他人の商標選択権と営業活動の保障のために不使用取消審判を誰でも請求できるようにしました。また、2017年からは、商標権者が使用の証拠を提出しない場合に、審判手続を速かに処理するようになったことで、商標取消率が高まりました。

2.不使用取消審判による商標登録取消の類型

実際、登録商標が不使用保存商標(特許庁に登録されたが実際は使用されていない商標)として判断され、その登録が取り消しとなる場合は大きく2つの類型があります。

  1. 商標権者が該当商標を3年以内に使用していた事実を証明できない場合
    商標権者がその立証を放棄するか、使用証拠が不十分な場合であり、多くの場合の登録取消事由はこれに該当します。特に韓国国内において住所を有さない外国人が保有した登録商標の場合、期限内に使用の証拠の提出ができなかったことによる登録取消の割合が高くなります。
  2. 登録商標を過度に変形して使用した場合
    登録商標を構成する要素の重要部分が欠けているか、全体的な外観を過度に変形して商標の同一性を毀損して使用した場合です(以下事例1、2 を参照)。

    【事例1】特許法院2017 ホ1694 判決(確定)

    THEANANTIのアルファベットTを独特の形状の多角形の中に配置した図形と、その下方の文字部分を上下2段で組み合わせた登録商標となるが、実際の商用使用は、図形の部分を省している

    登録商標は、アルファベット「T」を独特の形状の多角形の中に配置した図形と、その下方の文字部分を上下2段で組み合わせた商標であるのに対し、実際の使用商標「THEANANTI」は、この事件登録商標の図形の部分が省略されています。しかしながら、特許法院は、登録商標の図形の部分は、その独特の形状および標章全体において占める比重などを考慮するとき、重要部分として見なさなければならないため、上記登録商標の外観を形成する特徴的な構成部分が欠如している上記実際の使用商標は、上記登録商標と取引通念上、同一性が認められる商標とは言えないと判断しました。

    【事例2】特許法院2015 ホ79 判決(確定)

    登録商標は、英文字(elite)と図形を組み合わせた商標であり、二つの部分がいずれも独自の要部として機能しているものの、実際の使用商標は、英文(elite golf)のみから成っており、図形部分は使われておらず、

    特許法院は、登録商標は、英文字と図形を組み合わせた商標であり、二つの部分がいずれも独自の要部として機能しているものの、実際の使用商標は、英文のみから成っており、図形部分は使われておらず、両商標は、取引社会通念上、類似商標に過ぎず、同一性がある商標として見ることは難しいと判断しました。

3. 不使用取消審判に対する対応策

不使用取消審判によって商標登録が取り消しになった場合、該当商標権者は、その登録取消審決が確定してから3年間は取り消された商標と同一又は類似する商標をその指定商品と同一又は類似する商品に対して登録を受けることができません。実際に登録商標を使 用している場合でも、その使用を立証できない場合や同一性が認められない商標を使用することにより、その登録商標が取り消しになった場合、該当商標権者は、本制裁規定によって多大な損失を被ることになります。 したがって、実際に登録商標を問題なく使用する権利者は、不使用取消審判による商標登録取消に備えて、実効性のある商標使用の証拠を収集しておき、登録商標を過度に変形して使用する場合には、変更した商標について別途新規出願を考慮する必要があります。また、新しい商品を扱う場合には、指定商品を追加して登録するなど、自社の営業状況に合わせた登録商標の持続的な管理が必要です。

今月の解説者

特許法人佳山朴允正(パク・ユンジョン) パートナー弁理士、弘益大学校 法律学科(2000)、弁理士試験 合格(2002)、大韓弁理士会(KPAA)会員、国際商標協会(INTA)会員
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所副所長 浜岸広明)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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