知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)特許出願世界第3位に向けた韓国政府の野望?

2022年10月12日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.169)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

先日の本欄で、韓国特許庁は尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後初めてとなる知的財産分野総合計画「ダイナミックな経済の実現に向けた知的財産の政策方向」(以下、「総合計画」)を策定、発表したことをお伝えしました。紙数の関係でお伝えできなかったのですが、この計画を知らせるプレスリリースのタイトルは「特許出願世界3位への飛躍でダイナミックな経済成長を引っ張る」というもので、韓国政府の野望が垣間見えるものでした。

1.世界の知財業界における韓国の立ち位置

世界でも産業財産権出願が多い5つの国・地域の特許庁(日米欧中韓)は、五大特許庁と呼ばれており世界の知財制度の議論をリードする立場にあります。五大特許庁への出願件数は、特許で世界の約85%、商標で世界の約半分にも達し、韓国もこの一角を占めています。特許について見ると、中国への出願が年間約160万件、米国への出願が年間約60万件と圧倒的に多く、日本へは約28万9,000件、韓国へは約23万8,000件、欧州へは約18万9,000件(いずれも2021年)と続き、韓国への出願件数は現在世界4位となります。したがって、特許出願世界3位を目指すということは、とりもなおさず日本を特許出願件数で追い抜くことを意味しています。

2.特許出願世界3位に向けた達成手段は?

先の総合計画の本文は、先日ご紹介したとおりで、特許出願世界第3位については一切触れられていません。一方で総合計画に「参考1」として添付されている文書には、「2027年にグローバルIPトップ3へと飛躍」とあり、「参考3」には、(2027年ではなく)2030年に日韓の特許出願件数が逆転するグラフが掲載されています。

特許出願量の展望(回帰分析)2030年に逆転

出典:韓国特許庁2022年8月18日付けプレスリリース

しかし、このグラフは最近の日韓の出願件数を直線近似して延長しただけで、具体的にどのようにして韓国の特許出願件数を増やすのか、その達成手段については総合計画からは明らかではありませんし、日本の特許出願件数が何故減少を続けるのかについても、説得力のある説明がありません。

3.野望の実現可能性は?

日本の特許出願件数は、2001年に43万9,000件余りとなったのをピークに量から質への転換が大きく進展し、減少から横ばい傾向に移行しつつあります。日本の特許出願は国内大企業からのものが多く、出願件数の減少には、真に必要な特許への絞り込みを行う、筋肉質な出願構造への変化がありました。したがって、日本の特許出願件数が近い将来に急激に増加することは、少なくとも国内的要因では考えにくい状況です。他方、韓国の特許出願は中小企業や個人によるものが多く、日本とは出願構造が大きく異なるため、出願が引き続き増加する可能性は十分考えられます。
これらを総合すると、野望が達成される可能性は一定程度あると思われますが、予測は困難です。
翻って、主要国の人口100万人当たり出願件数を見ると、韓国は3,319件と、日本の1,943件、中国の890件、米国の869件と比較してもかなり高い水準にあり(韓国特許庁「2020年度知的財産白書」)、既に「伸び切った」状況にあるようにも思えます。
人口当たりの出願件数はイノベーションの活発度を示す指標といえる反面、多過ぎる出願は贅肉が多い状態ともいえます。適正な特許出願件数が果たして何件なのかは評価が難しいところですが、主要国とかけ離れた目標設定が妥当なものなのかは、検証が必要でしょう。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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