知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国実用新案法の大幅改正法案

2021年01月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.148)
ジェトロ・ソウル
副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

韓国産業通商資源省は、2020年9月25日、実用新案法の一部改正法律(案)の立法予告(日本でいうパブリックコメント。期間は2020年11月4日まで)を行いました。韓国実用新案法は、これまでにも累次の改正が行われてきましたが、今般の一部改正法律(案)は、かなり大きな改正であるため、その詳細をご紹介します。
なお、ご紹介する内容は立法予告時点のものであって、今後変わり得る点にご留意ください。

イ. 法律名等の用語変更(案第1条等)

一般になじみがなく「発明」との区別がつきにくい「考案」という語が、一般の国民が小発明保護の趣旨と「発明」との違いを直観的で明確に認識できる用語である「小発明」に変更されます。
本改正が実現すると、知財関係者にはむしろなじみの深い「実用新案法」という法律名はなくなり、「小発明保護法」という法律名に変わることになります

ロ. 登録要件の緩和(案第4条第2項)

特許と実用新案は、法文上相互に異なる進歩性の水準を持っている一方、実務上その違いが曖昧であるだけでなく、使用者も体感できない実情を考慮するとして、公開された「一つ」の小発明から極めて容易に発明できなければ、小発明の進歩性を認めるよう変更されます。
この変更により、技術水準の低い発明が保護されるようになる一方、権利の乱立が懸念されるところです。

ハ. 実施可否の審査(案第12条の2)

上記登録要件の緩和によって、いわゆるパテントトロール(最近は「NPE:不実施主体」または「PAE:特許主張主体」と呼称されることが多い。)等による出願乱発が生じることを抑制するためとして、審査請求時に、出願された小発明を業として実施しているまたは実施準備中であることが求められるようになります。
これにより、審査請求時には、実施しているまたは実施準備中であることを証明する書類を特許庁長に提出することが新たに求められます。

ニ. 存続期間の短縮(案第22条)

上記登録要件の緩和により私益と公益の適正な均衡を図り、事業化初期から製品が市場で定着するときまでの短い期間に排他的権利で保護しようとする改正の趣旨に合致するための制度変更として、存続期間が10年から5年に短縮されます。

ホ. 差止請求権の一部制限(案第28条の2)

上記登録要件の緩和による不必要な紛争の発生を抑制するためとして、権利者等が登録小発明を業として実施する場合にのみ、差止請求権を行使できるように変更されます。

ヘ. 審査請求期間の短縮(案第12条)

存続期間の短縮、出願人の実施準備期間の付与、請求範囲提出の猶予制度、外国語出願制度等を考慮し、審査請求期間が3年から1年2カ月に短縮されます。

ト. 出願公開の拡大(案第14条の2)

不良権利防止に向けた公衆審査の強化及び実施中の技術情報の迅速な活用のためとして、最先優先日から1年6カ月以内であっても審査請求がなされた場合、直ちに出願内容が公開されることとなります。

今般の改正法案は、特許制度は技術水準の比較的高い「発明」を、実用新案制度(改正後は小発明保護制度)は技術水準の比較的低い「小発明」をそれぞれ保護するという棲み分けを明確にするため、実用新案の登録要件を緩和することで特許との差別化を図る一方、緩和による弊害を抑えるために存続期間の短縮、差止請求権の一部制限、審査請求期間の短縮といった制限を加える内容となっています。

日系企業への影響についてですが、日本から韓国への実用新案登録出願件数は26件(2018年:日本国特許庁「特許行政年次報告書2020年版」による。)と、特許の1万5,595件(2018年:同)と比べてかなり少ないため、権利者側としては限定的なものになると思われる一方、韓国の個人・中小企業が技術水準の低い権利を取得し、日系企業に対して権利行使を行う可能性があります。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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