知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)26年ぶりに全面改正された商標法が施行!

2016年10月12日

去る9月1日に26年ぶりとなる全部改正商標法が施行されました。本稿ではこの新しい商標法について、概要をご紹介します。

全部改正の背景・目的

韓国商標法は、1990年の全部改正以降の26年間に23回の改正があり、それによって98の本条文に対して136の枝条文が設置されて過度に複雑になっています(なお、日本商標法にも85の本条文に対し99の枝条文が存在)。ちなみに、枝条文とは既存の条文の間に新しい条文を挿入したいときに採用するナンバリング方式で、最近では国際商標出願協定に対応するために、第86条の2から第86条の42が導入されています。
また、これまでの条文の内容は日本の法律を基礎として制定されたが故に、日本語からそのまま取り入れた表現が多く、国民が法を理解するのに困難があったということが指摘されています。
今回の全部改正法律は、上記背景に対応して条文の再ナンバリング及び表現の簡易化が図られると共に、出願人の利便性向上や商標法の国際的調和に重点が置かれています。

主な改正内容

(1)商標の定義の変更

まず、第2条における商標の定義が変更されています。商標権の対象となる標章(マーク)の範囲は、近年国際的にも拡張の一途をたどっており、韓国においても1999年に立体、2007年にホログラム・色彩・動き・位置、2012年に音・においの標章が権利化の対象に加わっています。
従来の商標法では、権利化の対象となる標章を逐一列挙していること、本来区別の必要がない商品の標章(商標)とサービスの標章(サービス票)とを分けて定義していることから、条文が複雑で理解を困難にしていました。
そこで、従来「商標とは次のいずれか1つに該当する標章をいう」と限定的に表現されている商標の定義を、「商標とは、自己の商品と他人の商品を識別するために使用する標章をいう。」と包括的に定義し、標章については「記号、文字、図形、音、におい、立体的形状、ホログラム・動作または色彩等」と例示的に定義するようにしています。また、商標をサービス票を含む概念と定義し直しています。これは、米国・欧州等の表現方式と同じものであって、商標が商品の出所を示し本来の機能をするのであれば、その表現方式に制限を設けず、全て商標として認められるようにしたというものです。

(2)商標登録の取消審判の改善

次に、これまで使用していない商標に対する商標登録の取消審判を「利害関係人」のみ請求することができたのを「誰でも」に拡大した他、取消審判の審決が確定すれば、その審判請求日に遡及して商標権が消滅するようにし、登録を受けたのに実際には使用せず、他人の商標選択権や企業活動を制限するという問題点を解消しました(下図)。

改正前・改正後

(3)商標登録可否判断の基準時を変更

また、これまでは出願人が商標を出願する時に同一又は類似した先登録商標があると、審査過程においてその先登録商標が消滅しても登録を受けることができないので再度出願せざるを得ず、不利益が生じていました。
しかし、今回の改正により、最終登録可否を判断(決定)する際に当該先登録商標が消滅していたならば、登録を受けられるようにすることで、出願人が先登録商標の消滅後に新に出願する必要性をなくし、迅速な権利化ができるようにしました(下図)。

改正前・改正後

(4)その他

さらに、商標が最終登録されれば、登録事実を商標公報に公告するようにして、商標に関する情報にアクセスしやすくした他、出願人の細かい記載ミスを審査官が職権で直すことを可能にし、やむを得ない事由により手続きを逃した場合の救済期間を14日から2カ月に延長する等、出願人の不便を解消するための改善事項も反映しています。
今回の商標法全部改正法律は、学界、企業の専門家らからの意見収集の上、3年余りの準備期間を経てできたものということで、日本側から要望していた事項(上記(2),(3))も実現されるなど、制度はより解りやすく、利用し易くなったと言えるでしょう。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 笹野秀生(特許庁出向者)
95年特許庁入庁。99年に審査官昇任後、情報システム室、審判部審判官、(財)工業所有権協力センター研究員、調整課品質監理室長を経て、2014年6月より現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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