知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国において立体商標の保護を受けるには?

2017年08月09日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.107)
特許法人 KOREANA 弁理士 金 敬玉

韓国商標法は、1998年から立体商標(本記事では、立体的形状のみからなる商標をいう)を商標の一つの類型として保護しています。しかし、立体商標の場合、広く権利を認めてしまうと物品の形状に半永久的な独占権を与えることから公衆の自由使用を制限し得るという点でリスクがあるため、伝統的な2次元商標に比べ、その保護要件が厳しくなっています。
そこで、本記事では、韓国における立体商標の登録要件と権利範囲を解釈するにあたって一つの参考になると思われる判決を紹介します。

事件の背景

ファイザー社(以下、P社)は、ED治療薬について、青い菱形形状の錠剤に、文字“Pfizer"、“VGR100"などが陰刻された画像1の製品を、1999年から韓国で販売してきています。
また、これと関連して、P社は、青い菱形形状のみ(文字なし)で構成される右記の立体商標について、2005年に韓国特許庁から商標登録を受けています(画像2)。
一方、P社のライバル企業である韓美(ハンミ)薬品(以下、H社)は、同じくED治療薬として、青い菱形形状の錠剤に、文字“HM50"、“HM100"などが陰刻された画像3の製品を、P社のED治療薬の特許権満了後、2012年から韓国で生産・販売しています。
そこで、P社は、H社に対し、商標権の侵害などを理由に訴えを起こし、これに対してH社は、P社の登録商標に識別力がないことを理由として登録の無効を主張しました。1審法院ではH社に、2審法院ではP社にそれぞれ軍配を上げましたが、最終審である大法院はH社に軍配を上げて、H社による商標権侵害を否定しました。

画像1:P社の製品

画像2:P社の製品

画像3:H社の製品

立体商標の登録要件

立体的形状のみからなる商標は、その形状が指定商品の通常または基本的な形態に過ぎない場合、識別力が否定されます。ただし、商標出願の前に立体的形状を使用した結果、需要者間で誰の商品を表示するものであるのかが顕著に知られることとなった場合は、例外的に識別力が認められます。
しかし、上記のように使用による識別力が認められたとしても、商品の機能を確保するのに不可欠な立体的形状は、登録を受けることができません。また、その可否は、代替形状が同等またはそれ以下の費用で生産可能であるかどうか、その立体的形状から商品の本来的な機能を超える技術的優位が発揮されるかどうか等を総合的に考慮して判断されることとなります。

韓国大法院の判断

P社の登録商標は、色彩が結合されてはいるが、需要者にとっては錠剤の通常の形態と認識される程度にとどまるので、本来は識別力がない。
しかしながら、P社製品の膨大な販売量、P社の商標“Viagra"の圧倒的な周知性、P社製品が“ブルーダイヤモンド"と呼ばれている点などに照らしてみると、P社の登録商標は、使用による識別力を取得したと見ることができ、文字が結合されているとしても事情に変わりはない。
また、多様なサイズ、形状、色彩の錠剤が可能であり、本件菱形形状を代替する形状も多数存在する。そして、P社の登録商標に、錠剤の本来の機能を超える技術的な要素があるとは言い難い。したがって、P社の登録商標は、指定商品の機能を遂行するのに不可欠な形状であるとは言えないので、その登録が無効であるとは言えない。
ところで、P社の登録商標とH社の製品は、青い菱形形状であるという点において共通するが、錠剤に陰刻された商標(商号)が異なる。また、両商品は、医師による処方箋を受けて初めて購入可能な薬であり、処方箋には、医薬品を形状ではなく名称で特定する。こうした点を考慮した場合、H社の製品とP社の登録商標は、包装と、その製品に陰刻された名称等により互いに区別が可能であるので、結局のところ、H社の製品の生産及び販売行為は、P社の商標権の侵害を構成しない。

コメント

通常、立体商標は、単独で使用されるより、文字と結合されて使用される場合が多いと思われます。本事件は、立体的形状と文字とが結合されて使用されるとしても、立体的形状が独自に商品の出所表示機能を発揮することができるならば、立体的形状のみで識別力を認めるという点で、日本のヤクルト立体商標事件(知財高裁平22(行ケ)10169)の判決と軌を一にするものであると言えます。
ただし、韓国の法院は、立体的形状に他の文字が結合された他人の製品とは出所の誤認・混同のおそれがないと判断した点から、立体的形状については、文字商標と同等の権利を付与することに未だ慎重な態度を取っているように思われます。

今月の解説者

特許法人 KOREANA 弁理士 金 敬玉
1990 年ソウル大学校衣類学科卒業。90年LG商社入社後、99年弁理士試験合格。10年にLaw School of University of Washington, LL.M.(米国)修了、12年から現職。大韓弁理士会、INTA会員。商標、デザイン分野専門
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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