知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)済州大学における知的財産教育の取組み
―知財教育先導大学として―

2017年11月08日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.110)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)

済州地域における唯一の拠点国立大学である済州大学は、韓国特許庁から知財教育先導大学の一つとして指定され、済州地域の発展のために知的財産教育の先導モデルを作成しようとしています。
本稿では、この済州大学の知的財産教育の取組みの概要について、ご紹介します。

済州大学の知財教育先導大学としての目標

韓国特許庁により知財教育先導大学(※)として指定された済州大学は、済州型知的財産教育の先導モデルづくり、および済州の未来戦略事業である融合複合創造産業を育成するための体系的な知財教育を行うことを目的として、(1)知的財産教育の拡大、(2)工学、デザイン、経営を含む融合型教育の実施、(3)知財基盤による研究開発(IP-R&D)、(4)IP認証制の導入、(5)知財複数学位制、などを進めていくこととし、新たに知的財産担当教授を採用するとともに、今年3月には知財教育の支援施設である知識財産教育センターを設立しています。

知的財産教育の拡大

大学1年の「知的財産の理解」に始まり、2年では「商標とブランド」、「デザインと生活技術」、2~3年では「特許情報検索・分析」、3~4年では「知財を活用した研究開発(IP-R&D)」、「特許マップ作成」、また大学院生では「知的財産経営」など、段階的にレベルアップする知財教育カリキュラムを作成するとともに、これに合わせて知財関連の講座を多数開設しています。

知財基盤による研究開発(IP-R&D)

大学の研究開発においても知財の活用が欠かせないものとして、特許ポートフォリオ分析に基づいた研究開発を行うなど、知財基盤の研究開発(IP-R&D)を推進していくこととしています。

IP認証制の導入

知財講座の受講実績や、IPAT(後述)の成績をもとに、所定の条件を満たした学生に対して、学長名義による知財教育認証書を発給することとしています。この認証制度は、知財を学習する学生のインセンティブになるとともに、就職や起業に役立つものと期待されています。

T3(Teaching the Teacher)プログラム

学生への知財教育を行うためには、学生を指導する教職員自身の知財教育も必要となります。多忙な教職員のために、昼休み時間を活用したランチ特講や、学校休暇中に短期集中特講を開催するなど、工夫を凝らした取組みを行うことで、教職員の知財スキルの向上を図っています。

知的財産能力試験IPAT教育および支援

韓国を代表する知的財産能力試験として、韓国特許庁傘下の韓国発明振興会が実施しているIPAT(Intellectual Property Ability Test)があります。済州大学では学生向けにIPAT向け集中特講や受験応募の支援を行っており、2017年上半期には99名もの学生が受験した実績があります。

このように済州大学では、知財教育先導大学への指定を契機として、知的財産教育を拡大する様々な取組みが行われており、今後の済州地域の発展につながることが期待されます。

なお、済州では本年、日韓・日中韓特許庁長官会合の開催に併せて、12月7日には日中韓特許庁シンポジウムが開催され、日中韓の特許庁長官が一堂に会する中で、第四次産業革命に対応した知財戦略について議論がなされる予定で、済州大学も本シンポジウムに参加する予定とのことです。

※知財教育先導大学とは
韓国特許庁は、11年より知財教育先導大学事業を展開し、各地域の大学を知財教育先導大学として指定して知財専門家を専門教授として採用するとともに、知財教育カリキュラムや知財教材を開発するなど、各大学の実情に合わせた知財教育システムの構築を支援する取組を行っています。この成果として16年には1,023の講座が開かれ、29,014人が教育を履修し、事業前に比べると、知的財産講座は20倍、受講人数は15倍増加したとされています。17年は、済州大学のほか、延世大学、嶺南大学、ソウル科学技術大学が第6次知財教育先導大学として指定されています。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)
98年特許庁入庁。情報処理分野の審査官・審判官、国際課課長補佐、審判課課長補佐、知的財産活用企画調整官等を経て、17年6月より現職

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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