知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)スタートアップの資金獲得と知財の関係

2025年09月10日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.204)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2025年7月23日に韓国特許庁は、「特許や商標の出願をしたことのあるスタートアップは、そうでない企業に比べて資金調達の可能性が17.1倍、エグジット(IPO、M&A)の可能性も2倍以上増える」と報告しました。これは、韓国知識財産研究院と韓国開発研究院(KDI)が韓国特許庁と国家知識財産委員会から依頼を受けて分析した「スタートアップにおける資金調達と特許・商標の重要性」に関する研究報告書に基づく報告となります。

1.報告書

今回の研究報告書は、1999年から2025年までの間、韓国におけるスタートアップ2.615社を対象に投資情報や特許・商標出願のデータを収集し、知財活用がスタートアップにおける資金調達やエグジットの可能性に与える影響について分析したものとなっています。

2.段階ごとの資金調達可能性

特許・商標といった知的財産権を出願している場合、そうでない場合と比較して、段階ごとに資金調達の可能性が高まっている結果が示されました。シード期では1.7倍、初期では3.1倍、後期では6.3倍と、後期になるほど可能性が高まることが示されています。

特許・商標出願時に資金調達の可能性の増加について、シード期には1.7倍、初期には3.1倍、後期には6.3倍高くなる。

図1:特許・商標出願時に資金調達の可能性の増加

さらに、外国出願の有無も資金調達の可能性有無に影響を及ぼす結果も示されており、後期の場合、国内出願のみではなく、外国出願も行った場合は、7.1倍、資金調達の可能性が高まる結果となっています。

国内出願の場合シード期には1.9倍、初期には3.0倍、後期には5.9倍増加し、国内と外国に出願した場合はシード期には1.2倍、初期には3.3倍、後期には7.1倍増加する。

図2:国内外で特許・商標出願時に資金調達の可能性の増加

また、複数種類の知的財産権を取得する方が、1種類のみの権利を取得するよりも、大きく可能性が高まる結果も示されており、後期段階において、特許出願と商標出願を併せて出願する場合は、資金調達の可能性が最大9倍まで高くなるとの結果となりました。

特許のみ出願した場合、シード期には1.5倍、初期には2.8倍、後期には5.2倍、商標のみ出願した場合、シード期には1.6倍、初期には2.7倍、後期には5.6倍、特許と商標の両方を出願した場合は、シード期には2.0倍、初期には3.9倍、後期には9.0倍増加する。

図3:特許・商標出願の並行時に資金調達の可能性の増加

またエグジットとの関係も示されており、先行して特許・商標出願をしたスタートアップの場合、投資資金を回収するエグジット(IPOまたはM&A)の可能性も2倍以上増加し、スタートアップが国内外で特許・商標を20件以上出願する場合、エグジットの可能性が最大5.9倍まで高くなることがわかったということです。

特許・商標を出願した場合、投資資金を回収するエグジットの可能性は2.7倍、出願件数が1件から9件の場合は2.4倍、出願件数が10件から19件の場合は3.1倍、20件以上の出願をした場合は5.9倍増加する。

図4:特許・商標出願件巣によるエグジットの可能性の増加

まとめ

以前、企業の売り上げと知財の関係を報告しましたが、今回、スタートアップにおいても、知的財産権出願と資金調達との関係が明確に示され、その重要性が過去の情報から証明されました。大きな実績を築き上げる前であっても、知的財産権がある程度の信用につながっている証拠であると認められます。また、内国出願のみではなく外国出願まで行い、さらに件数や種別も複数あればあるほど、この有利な状況が強化されているようです。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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