知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)続・人工知能は、エジソンになれるのか?

2022年05月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.164)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

2021年8月11日の本欄「人工知能は、エジソンになれるのか?」で、「DABUS:Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience」という名前の人工知能(AI)を「発明者」として韓国特許庁に出願された特許出願について、1、韓国特許庁が「自然人ではないAIを発明者に記載することは特許法に違反すると判断したこと、2、同庁はAI発明をめぐるいくつかの争点について法制諮問委員会(「AI発明専門家協議体」)を立ち上げて産・学・研の意見を収集するとともに国際的な議論にも積極的に参加すると表明したこと、3、同内容の出願が韓国以外の主要国にも出願されており、多くがやはり特許として認められていないこと、をお伝えしました(下図は、AIによる発明とされる発明品)。今回は、その後の動きをお伝えします。

食品容器の発明(左)と点滅するランプの発明(右)

1.「人工知能(AI)と知識財産白書」の発行

韓国特許庁は、2022年3月23日、「人工知能(AI)と知識財産白書」と題する184ページに及ぶ白書を発行しました。同白書の内容は、AI技術の現状、AIを発明者とする出願の内容と各国の対応、各国の法制、「AI発明専門家協議体」における議論、産業界へのアンケート等、幅広い関連情報を集約し、今後の立法基本方向を示したものとなっています。

2.白書の要旨

白書の内容は多岐にわたっていますが、筆者の理解した範囲で要約すると以下のとおりです。

  • 2021年、韓国特許庁は、AIによる発明の保護のあり方について、「AI発明専門家協議体」を構成・運営し、3つの分科会(法制/技術/産業)で議論した。
  • 現在のAI技術は、人間の介入なくAIのみで発明できるレベルには達しておらず、発明は人間がAIをツールとして活用することで行われている(DUBUS出願もこの水準に留まっている)ため、人のみを発明者とする現行法で十分との意見が多数派である。
  • また、国際調和の観点、主要国より低い韓国のAI産業水準を考慮すると、韓国が他国に先んじて法改正をする実益は乏しいとの意見が多数であった。
  • 以上を踏まえた立法基本方向としては、現時点で急いで法改正をせず、保護の必要性、国際調和を踏まえ、中長期的に立法を推進する。

このように、結論としては現時点での法改正は時期尚早であり、今回は論点整理ということになりましたが、韓国政府がAIをはじめとする、いわゆる第四次産業革命関連技術に積極的に取り組む姿勢がよく伝わってきます。 興味を持たれた方は、韓国特許庁ウェブサイトに白書が掲載されていますので(韓国語のみ)、是非ご覧ください。


ディープラーニングの登場以降、社会へのAI技術の実装がますます進んでおり、将棋やチェスなどの競技、画像を使った製品の欠陥検出など、十分な学習データを用意できる領域では、AIが人間を超える場面が出てきています。
さらに技術が進歩して、AIが人間のサポートなしに発明・創作できるようになったとき、知的財産制度はどうあるべきか、人間はどう生きるべきか、考え始める時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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