知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)具体的行為態様の提示義務について

2019年07月10日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.130)
特許法人リーチェ 代表弁理士 李準鎬(イ・ジュンホ)

2019年1月8日、韓国特許法の一部を改正する法律案(法律第16208号)が公布されました。今回の改正においては、侵害行為の具体的態様を否認する者に自己の具体的な行為態様を提示する義務を課す規定(第126条の2)と、他人の特許権を故意に侵害した者に、損害として認定された金額の最大3倍までの範囲で懲罰的損害賠償の義務を課す規定(第128条第8項及び第9項)が新設されました。本法律の2019年7月9日からの施行に際し、本稿では、これらの改正事項の中、いわゆる「具体的行為態様の提示義務」についてご紹介します。

具体的行為態様の提示義務の新設

今回新設された特許法第126条の2は、次の通りです。

第126条の2(具体的行為態様提示義務)

  1. 特許権又は専用実施権の侵害訴訟で特許権者又は専用実施権者が主張する侵害行為の具体的行為態様を否認する当事者は、自らの具体的行為態様を提示しなければならない。
  2. 法院は当事者が第1項の規定にかかわらず、自らの具体的行為態様を提示することができない正当な理由があると主張する場合にはその主張の当否を判断するために、その当事者に資料の提出を命じることができる。ただし、その資料の所持者がその資料の提出を拒絶する正当な理由があれば、その限りではない。
  3. 第2項に基づく資料提出命令に関しては第132条第2項及び第3項を準用する。この場合、第132条第3項中「侵害の証明、又は損害額の算定において必ず必要な時」を「具体的行為態様を提示できない正当な理由の有無の判断において必ず必要な時」にする。
  4. 当事者が正当な理由なしで自らの具体的行為態様を提示しない場合、法院は特許権者又は専用実施権者が主張する侵害行為の具体的行為態様を真実なものと認めることができる。

特許侵害訴訟における立証責任の転換

特許侵害訴訟における立証責任は、特許権者又は専用実施権者(以下、「特許権者等」という)にあります。このため、特許権者等は、被疑侵害者の製品や工程を自ら特定し、その製品や工程の実施がなぜ特許権の侵害に該当するかを立証しなければなりません。このような特許権者等の立証の努力にもかかわらず、従来は、特許権者等が主張する侵害行為の具体的な行為態様を、被疑侵害者が一貫して単純否認している場合、特許侵害の立証が困難でした。今後は、本条の第1項の規定に基づき、侵害訴訟で侵害行為を否認する者に実施態様に対する立証責任が転換されたことにより、特許権の行使がより容易になるものと予想されます。

正当な理由がある場合は免除

被疑侵害者は、特許権者等が特定した実施態様を否認しているからといって、必ずしも自分の具体的な行為態様を提示しなければならないということではありません。本条の第2項に基づいて、自分の具体的な行為態様を提示することができない正当な理由がある場合には、具体的行為態様の提示義務が免除されます。例えば、自分の行為態様が技術的、経済的価値のある営業秘密として認められる場合などがこれに該当するものと予想されます。

提示義務違反時は特許権者の行為態様を認める

被疑侵害者が正当な理由なしに自分の具体的な実施態様を提示しなかった場合には、法院は特許権者等が主張する侵害態様をそのまま認めることができます。本条の第4項は、具体的行為態様の提示義務の違反に対する制裁規定を明示することにより、本条の実効性 を高めたと判断します。ちなみに、日本特許法第104条の2(具体的態様の明示義務)は、本条と類似した趣旨の規定ですが、義務違反時の制裁に関しては明示していない点で異なります。

今月の解説者

特許法人リーチェ 代表弁理士/U.S.Patent Agent 李準鎬(イ・ジュンホ)
ソウル大学応用生物化学部卒業、弁理士試験合格(2003年)
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸広明)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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