知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国の職務発明制度について

2018年06月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.117)
特許法人NAM&NAM 弁理士 李 浩俊(イ・ホジュン)

職務発明補償制度は、研究開発への投資や設備などを提供した雇用者と創造的なアイデアを介して発明した従業員間の利益を合理的に調整するための制度として、雇用者に対し、より積極的な投資を促し、従業員の発明意欲を鼓吹させて雇用者と従業員がお互いにウィン―ウィンできる好循環な構造を目指しています。

はじめに

合理的な職務発明補償制度を通じて、企業は優秀な人材の流出防止、研究開発の活性化を通じた売上高の増大、企業イメージの向上といった効果を発揮し、国家的な技術革新や産業発展の基盤を整備することにも貢献することができます。
韓国では、政府レベルで、法人税の減額や職務発明補償の優秀企業に対する補償といった優遇措置を通して、職務発明制度の導入を奨励しており、2013 年の法改正を通じて、特許法の職務発明に関する規定を発明振興法に統合して職務発明制度を効率的に管理できるようにしました。 以下では、韓国での職務発明に対する権利帰属、補償の種類、補償金算定方式と職務発明の安全権利化のための方策についてご紹介します。

職務発明に対する権利帰属

韓国特許法と発明振興法が採る発明者主義の原則に従い、従業員が職務発明を行った場合、特許を受ける権利を原始的に取得し、雇用者はその権利を譲り受けると承継人として特許権を取得することができます。
韓国の発明振興法によれば、職務発明への予約承継規定がある場合、従業員の発明完成通知および雇用者の承継意思通知(完成通知を受けた後、4カ月以内)により、別途の譲渡契約がなくても特許を受ける権利が承継されます。しかし、実務的には、従業員と雇用
者との間の雇用契約時または各発明ごとに発明届出書と共に譲渡証を作成し、権利譲渡をするかどうか明示するのが一般的です。また、予約承継規定がない場合には、権利の承継をするかどうかは、従業員と雇用者との間の個別契約に従って処理されますが、雇用者は、少なくとも特許権等について、法定通常実施権を持つことができます。
ちなみに、予約承継規定の効力有無について、韓国の裁判所は、会社の一方的な意思表示に従って予約承継規定が設定される場合にも、従業員等の暗黙の同意があれば、その効力を認めることができると判示しています(大法院2009年8月14日言渡し2008ガ合115791判決)。

職務発明に対する補償

職務発明に対する補償の種類、補償額の決定基準や算定方法など具体的な内容は、従業員と雇用者との間の個別契約や勤務規定上の事前予約承継規定、職務発明補償規定等を通じて定められます。 一般的に、企業などで実施している職務発明に対する補償の種類には、次のように発明補償、出願補償、登録補償および実績補償などがあります。

  1. 発明補償

    従業員が考案した発明を特許庁に出願する前に受ける補償であり、出願の有無にかかわらず、従業員のアイデアや発明への努力に対する一種の奨励金的な性格の補償です。

  2. 出願補償

    従業員が考案した発明を、雇用者が特許を受けることができる権利を承継して特許庁に出願することにより発生する補償であって、未確定の権利と引き換えであるため、奨励金的な性格で、特許性、経済性があると判断して出願したものであり、一旦、出願した後は、後願排除の効果と出願公開時に拡大された先願の地位を持つことができるために、支給される補償です。

  3. 登録補償

    雇用者が承継された発明が登録査定され、特許登録されたときに支給される補償です。

  4. 実施(実績)補償

    雇用者が出願中の発明、又は特許登録された発明を実施して利益を得た場合に支給される補償金であり、雇用者が得た利益額に応じて支給されます。

  5. 処分補償

    雇用者が従業員の職務発明について特許を受けることができる権利ないし特許権を他人に譲渡したり、実施を許諾したりした場合に支給される補償で、処分額の一定の割合で支給されます。

  6. 出願留保補償

    雇用者が従業員の職務発明をノウハウで管理している場合、または公開時に重大な損害が発生する恐れがあると判断され、出願を留保する場合に支給される補償です。

補償額は、雇用者と従業員との間の個別契約に従って定められるのが一般的です。これらの契約または規定がなければ、補償額を決定する際に、1)職務発明を出願したり、出願して登録された場合には、「職務発明によって雇用者が得る利益」と「その発明の完成に雇用者と従業員が貢献した程度」を考慮し(発明振興法第15条6)、2)出願していない場合、その発明が産業財産権で保護されていれば、従業員が受けることができた経済的利益を考慮して決定しなければなりません(発明振興法第16条)。
具体的な例として、韓国の裁判所は、雇用者が従業員の職務発明を出願して登録され、製品を生産・販売した場合、次のように職務発明補償金を算定しなければならないと判示しました(大法院2006年6月22日言渡し2004ガ合22判決)。
職務発明補償金=(発明が適用された製品の販売で得た利得額)×(発明を独占的に利用することで得られる利益率)×(発明の実施料率)×(従業員の寄与度)

ちなみに、韓国では、韓国内の特許出願および登録に対する補償金の平均額は、それぞれ82万5,000ウォンと92万7,000ウォンであり、海外の特許出願および登録の補償金の平均額は、それぞれ29万9千ウォンと58万4,000ウォンです(韓国特許庁「2016 年度知識財産活動実態調査」2017、p42)。

職務発明の安全権利化のための方策

職務発明を安全に権利化するためには、職務発明に対する権利関係とそれに対する補償について明示的に規定しておくことが重要です。
また、従業員との争いを事前に防止するためには、職務発明に対する補償額の算定の際、従業員と十分に話し合うことが重要です。つまり、雇用者が決定した補償額の算定根拠を十分に説明し、従業員からその理解を得る必要があります。その説明で職務発明規定の適用、雇用者が取得利益額、発明と関連し、雇用者などが負担、貢献および従業員等の処遇は、自社および他社における従来の事例、その他の事情に関する資料を提供することが必要です。
決まった補償額について、従業員との争いが発生した場合には、初期段階でしっかり対処します。また、補償の不服申立てについて審議する社内機関を設けておき、その機関には中立・公平を期すために、また従業員等に心理的なバランスを与える意味から、外部の専門家を含めることも望ましいでしょう。

今月の解説者

特許法人NAM&NAM 弁理士 李 浩俊(イ・ホジュン)
2008年ソウル大学校材料工学部卒。2007年弁理士試験(第44期)合格。2008年より特許事務所にて勤務。2011年より現職。大韓弁理士会員。
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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