知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国特許庁、人工知能を発明者とした特許出願に対して無効処分

2023年03月08日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.174)
第一特許法人 イ・ウラム 弁理士

韓国特許庁は、「自然人でない人工知能(AI)を発明者とした特許出願は許容されない」という理由で、韓国特許出願第10-2020-7007394 号に対して2022年9月28日付で無効処分を下しました。

1.事件の背景および争点

米国の人工知能開発者スティーブン・テイラー(以下、「出願人」という)は、2019年9月17日付で国際特許出願を行い、その願書の発明者欄に「DABUS, The invention was autonomously generated by an artificial intelligence 」と表記しました(国際公開公報WO2020/079499)。明細書には「食品容器に関する発明」と「強化された注意を引くための装置に関する発明」が記載されていましたが、出願人は「自分はこれら発明に対する知識がなく、自分が開発した人工知能DABUS(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)がこれら2つの発明を自ら創作した」旨主張しました。この事件の争点は、自然人ではない人工知能が特許出願の発明者として認められるか否かです。

2.特許庁の無効処分

2020年3月12日付で韓国特許庁に提出された前記国際特許出願の韓国語翻訳文の発明者欄には「ダブス(本発明は人工知能により自律的に生成された)」と表記されていました。そのため、韓国特許庁は人工知能を特許出願の発明者として認められるか否かに対する初めての審査を行うことになりました。
その結果、特許庁は、当該出願(韓国特許出願第10-2020-7007394号)に対して、2021年5月27日付で「自然人ではない人工知能を発明者として記載したことは、特許法の規定に違反するところ、発明者を自然人に修正すること」を求める旨の補正要求書を通知しましたが、出願人が補正要求書に対応しなかったため、特許庁は2022年9月28日付で無効処分を下しました。
これに対して特許出願人は、人工知能も特許出願の発明者として認められるべきと主張して、2022年12月20日付でソウル行政裁判所に特許出願の無効処分取消請求の訴を提起し、現在訴訟が進行中です。
他方、特許庁は諮問委員会を設置し、産業界および学界の多様な意見をまとめ、「人工知能が特許出願の発明者として認められるのか」を主題とした、7カ国(韓国、米国、英国、中国、欧州、豪州、カナダ)の特許庁が参加する国際コンファレンスを開催するなどの過程を経て、以下のような理由で人工知能は特許出願の発明者として認められない旨の結論に至りました。

  • 特許法第33条第1項は、「発明をした者またはその承継人はこの法で定めるところにより、特許を受けることができる権利を有する」と規定するところ、発明の主体は人間(自然人)に限られるため、人工知能を特許出願の発明者として認められない。
  • 現時点で人間の介入なしに人工知能が独自的に発明を完成できる技術水準には達していないと判断されるところ、人工知能自体を特許出願の発明者として認めることは時期尚早である。

3.他国特許庁および裁判所の判断

米国、欧州、英国の特許庁も「特許出願の発明者は自然人のみ可能である」という理由で人工知能(DABUS)を発明者とした前記特許出願に対して拒絶決定を下し、これらの国の裁判所も同決定を支持しました。 また、オーストラリアでは、特許庁が人工知能を発明者とする特許出願を拒絶決定した一方、一審裁判所は、人工知能が出願人や特許権者としては認められないとしても、発明者としては認められる旨の判決をしました。しかし、二審裁判所は一致された意見で一審裁判所の判決を破棄し、DABUSを発明者とした特許出願を拒絶した特許庁の判断を支持しました。
一方、ドイツの連邦特許裁判所は、人工知能が完成した発明も特許になり得るが、この場合にも自然人のみが発明者として認められると判断する一方、願書に発明者の氏名を記載する際に人工知能が発明に関与したということを併記することは許容されると判断しました。

4.今後の課題

人工知能関連技術が飛躍的に発展しつつある中、いつかは人工知能が自ら発明の主題を定め、発明を完成する時期が到来する可能性があり、この場合には人工知能を特許出願の発明者として認めなければならないこともあり得ます。これに備えて、今後人工知能発明(AI-generated invention)を巡るさまざまな争点(例えば、人工知能発明の特許権の帰属、人工知能発明の進歩性判断における当業者の技術水準の程度、人工知能発明の特許権の存続期間等)に対する議論が必要であると思われます。


今月の解説者

第一特許法人 イ・ウラム 弁理士
2004年 ソウル大学校 工科大学 応用化学部卒業、2018年 米国 University of Southern California LLM 卒業
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所副所長 土谷慎吾)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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