知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国弁理士の侵害訴訟共同代理法案が暗礁に

2023年06月14日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.177)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

2023年5月24日、韓国国会の法制司法委員会法案審査第2小委員会は、韓国弁理士の侵害訴訟共同代理法案(韓国弁理士法の一部改正法律案)を通過させないことを決定しました。最近、韓国弁理士業界を騒がせたニュースとなっており、少々専門的な内容ですが、経緯を振り返ってみたいと思います。

1.日本の特定侵害訴訟代理業務制度(前提知識)

今回問題となったのは、日本でいう特定侵害訴訟代理業務制度です。この制度は、従来、弁理士が訴訟代理人になることができなかった特定侵害訴訟(特許、実用新案、意匠、商標もしくは回路配置に関する権利の侵害または特定不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟)において、弁理士がその事件の訴訟代理人となることができるようにする制度です(弁護士との共同受任であるほか、共同受任している弁護士との共同出廷が原則)。
日本では、今から約20年前の平成14年弁理士法改正(2003年1月1日施行)により、この制度が導入されており、当時、侵害訴訟件数が急増しているのに対し、知的財産専門の弁護士が不足している背景から、弁理士に訴訟代理権が付与されることとなりました。
同制度では、特定侵害訴訟代理業務試験に合格後、日本弁理士会において本試験に合格した旨の付記を受けた弁理士に限り、訴訟代理人となることが認められています。

2.韓国弁理士の侵害訴訟共同代理法案の行方

このように、日本で約20年前に導入された特定侵害訴訟代理業務制度ですが、韓国では過去に数度、同様の制度を導入する弁理士法改正法案が提出されるも成立することなく廃案となってきたところ、2020年11月6日に韓国弁理士法の改正法案が提出され、行方が注目されていました。
本法案は2022年5月12日、韓国国会の産業通商資源中小ベンチャー企業委員会を同様の法案としては初めて通過し法制司法委員会に回付されたため、韓国弁理士の間では、今回こそ法が成立するのではないかという期待が高まっていました。
しかし、2023年2月23日の法制司法委員会で、それまで本法案の推進に積極的だったとされる特許庁長が慎重な立場をとったとされ、結果的に法案は同委員会を通過することなく、法案の墓場といわれる同委員会法案審査第2小委員会に回付されました。
本法案は弁理士にとっては業務拡大のチャンスである一方、弁護士にとっては独占業務が崩れることになる面があり、両者の利害のせめぎ合いがあることは想像に難くありません。
法制司法委員会での庁長の立場に反発し、同年3月3日、約400人の弁理士が、庁長の辞任と弁理士の監督官庁の特許庁から産業通商資源部への変更を求めて、特許庁ソウル事務所前でデモを実施しました。また、4月10日、4月14日には、弁理士の監督官庁を特許庁から産業通商資源部に変更する弁理士法改正案が議員立法により提出されました。
さらに、4月19日には、大韓弁理士会など5つの専門資格士団体が集まった専門資格士団体協議会の会員1,000人余りが、国会議事堂前で法制司法委員会の法案審査が不公正だと主張するデモを行いました。 このような状況の下、5月24日、第2小委は本法案を通過させないことを決定しました。

3.今後の動向は?

上述のとおり、第2小委が本法案を通過させないことを決定しましたので、本法案は、現在の国会議員の任期満了(2024年5月)に伴って、廃案になる可能性が高いと思われます。
次の国会議員の代になってからの情勢次第で、また同様の法案が提出される可能性もあるでしょうが、現時点では予測が難しい状況です。
今回の件からも分かるように、韓国では関係者との調整を済ませてから法案を提出するのではなく、法案を提出してから関係者と調整をするということが多々あるため、法案が提出されたとしても成立するとは限りません。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾 (特許庁出向者)
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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