知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)日本から韓国への特許出願件数が2位に低下

2022年04月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.163)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

2022年2月9日の本欄で、コロナ禍でも韓国での産業財産権出願件数が伸びていることをお伝えしました。この時点では、外国から韓国への出願について、国別の内訳件数は明らかではありませんでしたが、最近の発表で明らかになりました。
このうち、特許出願について気になる動きがありましたので、お伝えします。

1.属地主義と外国出願戦略

特許制度は、独占的な権利の付与と引き換えに出願から一定期間(出願から1年半)後にその内容が公開され、その技術は誰でも広く活用できるという、権利者の保護と技術情報の活用との調和を図る点にその本質があります。
一方、特許は国ごとに出願され、それぞれの国内で審査、登録され、特許権の効力は登録された国の国内のみに及びます。この原則は属地主義と呼ばれています。
たとえば、日本の特許庁に特許を出願し、これが審査、登録された場合、特許権の効力は日本国内でのみ有効で、他の国には及びません。そのため、日本だけに出願し、他国に出願しなかった特許の内容は1年半後に公開され、全世界から(日本語で)利用可能になる反面、特許権の効力は日本国内にしか及ばないため、外国に技術情報を提供するだけで、外国で何らの権利も得られないことになります。
20年ほど前には、日本の特許出願は現在よりも5割ほど件数が多かったものの、国内のみのドメスティックな出願の割合が多く、日本から外国への技術流出が問題となっていました。理想的には、日本への特許出願と同じものを外国にも全て出願できれば良いのですが、外国への出願は翻訳費用や現地代理人費用など、高額な負担が発生するため、現実的には難しいという事情があります。
当時の反省から、多くの日本企業が特許の質を高めて国内出願件数の絞り込みを行いつつ、外国への出願比率を徐々に高めてきましたが、やはり全ての国に出願することはできませんので、競争相手がいる国や市場の大きな国、特に米欧中韓などの主要国に、優先度に応じて出願するのが基本的な外国出願戦略になります。

2.外国から韓国への特許出願件数推移

上述の理由で、外国から韓国への特許出願の件数は、その国と韓国との技術的密接性のバロメーターといえます。以下のグラフをご覧ください。

出典:韓国知的財産統計年報(2001-2020年)、韓国知識財産統計FOCUS(2021年)に基づいて筆者作成

韓国特許庁のウェブサイトに掲載されている1998年以降の外国から韓国への特許出願件数をまとめると、2020年まではずっと日本が首位をキープしてきましたが、2021年に初めて米国に首位を明け渡し、2位に低下しました。
過去、2008年のリーマンショックなど、景気変動の波にもまれて全体的に上下しつつ、徐々に米国が韓国への出願を増やし、日本を追い抜いた形となっています。韓国への特許出願件数は、各国それぞれに事情があり、相対比較で論じるのは難しい側面があるのも事実ですが、大きなトレンドでいえば、日本はいわゆる失われた30年間で諸外国に比べて相対的に地位が低下しており、日本から韓国への特許出願にもそれが現れたといえるのではないでしょうか。 日本から韓国への意匠(デザイン出願)、商標出願の件数はそれぞれ3位で、唯一1位だった特許出願件数が2位となったのは、寂しさを覚えます。


2022年、日本から韓国への特許出願は再び1位を奪還するのか、また、背後から猛烈な勢いで追い上げる中国はどこまで伸びるのか、要注目です。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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