知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)追う立場から追われる立場に変わった韓国

2022年03月09日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.162)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

今年1月12日の本欄で、昨年末、「第3次国家知識財産基本計画(2022-2026)」が策定・公表されたことをご紹介しました。この基本計画は韓国の知的財産政策の今後を占う最重要ドキュメントといえるものですが、ときを同じくして、もう1つ知的財産政策関連の基本計画が策定・公表されました。「第1次不正競争防止および営業秘密保護基本計画(2022~2026)」です。「第1次」とあることからも分かるように、これは今回初めて策定された計画となります。
本稿では、この新しい基本計画についてご紹介します。

1.策定の背景

不正競争防止および営業秘密保護基本計画は、2021年4月21日に施行された、韓国「不正競争防止および営業秘密保護に関する法律」の改正で追加された、第2条の2が根拠条文となっており、本基本計画が法改正を受けた最初の計画となりました。
では、韓国政府はなぜこの時期に基本計画を策定することにしたのでしょうか。この答えは、上記の法改正の「改正理由」(2020年10月20日付け官報)に記載されています。一部抜粋して引用します。
「韓国における知的財産保護の水準はOECD加盟国等に比べて不十分な状況であり、大企業による中小企業の技術奪取および競争国への技術流出現象等が深刻化している。第四次産業革命時代に備えるためには、国家競争力の中心的な要素である知的財産の保護を国レベルの課題として選定し、戦略的に対応する一方、違法行為の責任をより重くすることにより、市場の秩序を公正に維持する必要がある。」
よくいわれるように、従来、韓国の産業は、日米欧をはじめとした国々から技術を導入するキャッチアップ型でしたが、製造業を中心に技術情報の蓄積が進み、近年では他社・他国から追われる立場となり、特に半導体、バッテリーなど、韓国の稼ぎ頭の分野で外国への技術流出が指摘されるようになりました。このような状況の変化に伴って、営業秘密の流出防止や不正競争行為への対応もこれまで以上に求められるようになったといえます。

2.基本計画の概要

(1)営業秘密保護部門

ビジョン
営業秘密保護強化による革新基盤の構築および国家競争力の引き上げ
目標
  • 韓国の営業秘密保護水準の向上
  • 営業秘密保護強化による経済的な被害予防
  • 企業における営業秘密管理体系の構築拡散
戦略
  1. 営業秘密の流出防止に向けた事前予防の強化
  2. 新しい環境変化に対応できる営業秘密保護基盤の構築
  3. 営業秘密の流出に対する多角的な対応力量の引き上げ

(2)不正競争防止部門

ビジョン
デジタル環境における公正な競争秩序の確立
目標
  • 韓国の不正競争防止水準の向上
  • 不正競争行為の防止による経済的な被害予防
戦略
  1. デジタル環境変化に対応した法体系の整備
  2. 執行実効性の確保および通商規範のグローバル調和

紙数の関係で、基本計画の詳細はお伝えすることができませんが、「第3次国家知識財産基本計画(2022-2026)」と合わせ、弊所ウェブサイトで仮訳を提供しております。ご興味のある方は是非ご参照ください。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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