知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)「もぐもぐタイム」のイチゴは「ジェネリック」?
―韓国で植物品種保護を求めるにはどうする?

2018年04月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.115)
特許法人 Y.S. CHANG 朴鎭佑 弁護士・弁理士

先の平昌五輪でカーリング日本女子の「もぐもぐタイム」がお茶の間の話題となりました。特に韓国のイチゴを絶賛するコメントには賛否両論がありました。日本国内では「(韓国のイチゴは)日本から流出した品種をもとに、韓国で交配されたものが主だ」という報道もあったようですが、それが「そだね~」かどうかは横に置き、本稿では韓国でそうならないためには、またはもしもそうなった場合にはどうすればよいかを考えてみたいと思います。

1. 韓国の動向

韓国で種苗に対して保護を求める方法には、特許権又は品種保護権(日本の育成者権に相当)の登録を受ける方法があり,品種を登録することで植物新品種保護法(日本の種苗法に相当)により保護されることになります。

韓国政府は知的財産権の侵害に対して権利者ファーストの政策を積極的に展開しようとしています。以下では、韓国で品種保護権の登録をし、韓国内の農家等の栽培者とライセンス契約をしたり、栽培契約を締結してその栽培者が当該品種を収穫・納品する方式(いわば栽培契約)で発生し得る法的な争点を、私の実務経験に基づいて足早にまとめたいと思います。字数の関係上、品種保護権の出願時の注意事項は割愛します。

2. 栽培契約時の注意すべき事項

  1. 土地への付合:韓国民法でも、土地に付合する動産の所有権は土地の所有権者に帰属します。このため、種子(増殖用又は栽培用で使われる種、きのこ種菌、苗木、胞子又は栄養体である葉・茎・根など)、特に栄養体である茎の所有権及び実の所有権を品種保護権者(供給者)に留保する契約条項を明示的に規定し、併せて対象物に「明認方法」という、所有権表示をしなければ将来、栽培契約又は品種保護期間が満了した後で品種保護権者が栽培者に種子や果実の返還請求を行うことが困難な場合があります。
  2. 例えば、品種保護権者の返還要求に応じず、栽培者が苗木の占有を続ける場合、品種保護権者は民法上の所有権に基づいて返還や損害賠償を請求することが可能で、栽培者は韓国刑法上の業務上横領罪(刑法第356条)に当たり、10年以下の懲役又は3千万ウォン以下の罰金に処せられます。
品種保護権は、権利保護期間が満了すると、その権利は消滅しますが、当該品種の所有権については、公共の福祉等の例外を除き、絶対的権利で期間制限がありません

3. 権利の終了前に当該保護品種を栽培する行為

韓国では、品種保護権の存続期間満了前に、その品種の苗木を契約とは関係なく内々に育てておいて、品種保護権の存続期間満了を待って果実を販売しようと目論む人が残念ながら見られますが、このような行為が品種保護権侵害にあたることは明白です。品種保護権の存続期間満了後間もなく当該品種の果実を販売するということは、品種保護期間内に当該保護品種の苗木を接ぎ木して植栽したことの反証となるからです。ちなみに対象が異なりますが、韓国では特許権の存続期間満了前にジェネリック薬を開発した行為に対しても特許権侵害を認めた判例があります。

4. 品種保護権の侵害に該当する増殖か?の視点

ライセンス契約又は栽培契約の終了後に、品種保護権者の苗木の廃棄又は返還の要求に応じず、栽培農家が勝手に当該苗木を栽培し続けて、その苗木が成長した場合、これが品種保護権の侵害にあたる「保護品種の種子を増殖」に該当するかが問題になった事例がありました。韓国の「国立種子院」の見解は、成長によって茎の大きさや数が増えることは増殖とは認めないという立場でした。つまり、増殖とは種子の個体数を増やすことと見るのが実務であると判断されます。

5. 栽培農家が変異種を発見したとき

品種の栽培時に生じ得る変異種をその栽培農家が増殖させて商品化する際には、品種保護権者、すなわちライセンサーの承認を得るようにしている契約条項がありますが、これは栽培農家、すなわちライセンシーが変異種を発見し保護品種の要件を備えて品種保護権の登録を受ける機会を基本的に閉ざす不公正取引条項だとの理由で、韓国公正取引委員会から削除又は修正を勧告された事例があります。

6. 刑事告訴するときの注意事項

日本でも同様かはわかりませんが一般的に韓国では「農業従業者は社会的弱者」という雰囲気があるため、検察官は農業従業者を対象に捜査して公訴を提起することについて負担を感じることも当然あるようです。ですので刑事告訴を行う際、担当検察官に当該品種の開発に係わる莫大な人的・物的投資及び予想される損害額に関する資料を提示して、納得ずくめで検察官の心的負担を軽減させる必要もあります。

今月の解説者

特許法人 Y.S. CHANG 朴鎭佑 弁護士・弁理士
嶺南大学ロースクール卒(法学専門修士)、慶熙大学ロースクール博士課程在学中(知的著作権)。専門は著作権・商標権・不正競争防止法・品種保護権。
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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