知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)バイアグラ錠剤の形と色は独占できるのか?

2013年05月08日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.56)
法務法人(有限)太平洋 弁護士/弁理士 李厚東

最近、ソウル中央地方裁判所は、「ジェネリック薬品であるパルパル錠が、バイアグラのデザイン権、 商標権などを侵害した」として韓国ファイザー製薬などが韓米薬品を相手とした訴訟で、原告敗訴の判決を下した。過去にも新薬(オリジナル)と複製薬(ジェネリック) 製薬会社の間でモノ特許や製法特許を取り巻いた侵害紛争が頻発したが、本訴訟は、特許権ではないデザイン権と商標権に基づきジェネリック薬品の模様、 形状に対して権利侵害主張をしたという点で業界の注目を集めた。

青い菱型錠剤の非独創性

ファイザー側は、バイアグラの模様と色相に対して、「青い菱型錠剤の形状および色相は、既存の錠剤では見つけ出すことのできない独創的な錠剤デザイン」であるので、バイアグラと類似の形状と色相を用いたパルパル錠は、バイアグラのデザイン件を侵害したと主張していました。しかし、裁判部は、下記【表1】に示した証拠などに基づいて、「バイアグラのデザインは、出願当時(1998年)から外国で配布された刊行物に掲載の先行デザインと同一かつ類似のデザインであり、新規性がない」とし、バイアグラとパルパル錠の類似可否を判断するまでもなくバイアグラのデザイン権自体を否定することで原告敗訴判決を言い渡しました。

表1

また、上記判決が宣告された同じ日に、特許審判院もバイアグラの菱型の形状が既に製薬業界に広く知られている基本的な錠剤形状に該当するという理由により、ファイザーの登録デザイン権が無効であるという審決を下しました。

新たなエバーグリーニング戦略の試みおよび限界

過去から、オリジナル薬品を開発した各製薬会社は、ジェネリック薬品の進入を防止し、独占的市場をより長期間維持するため、いわゆる「エバーグリーニング戦略」(医薬品許可――特許連携などの薬品に特有の制度に基づいて、特許の存続期間を延長したり、一つの薬品にいくつかの特許を順々に登録することにより、該当製品の特許期間を永く維持して市場での独占的権利を得ようとすること言う)を繰り広げてきました。そして、この訴訟が特許権ではなく、デザイン権と商標権を問題としているという点において過去のエバーグリーニング戦略とは区別されるとしても、デザイン権と商標権を活用してオリジナル薬品に関する特許権の存続期間満了以降においてもなお知的財産権を存続させ、ジェネリック製品の販売により生じる利益減少を最小化するという側面において、エバーグリーニング戦略の一種であると評価されることになると思われます。ところで、医薬品は、人の生命と健康に直結しているため、各種法令で医薬品の製造、販売、取り扱い、広告などの様々な事項を厳格に規制しています。 一例として、色相の場合、内服用としては赤色、黄色、緑色、青色などを基本色とする色素以外には他の色素は用いることができないよう規定しており、色相の使用範囲が制限されています。さらに、錠剤は、経口投与しなければならないため、その大きさや形状に一定の制限が必然的に課され、そのデザインとして原型、カプセル型、四角形、菱型、ハート型などが基本的な形態として広く用いられてきました。このように、錠剤の場合、錠剤の形状や色相を選択するにおいて、その範囲が相当制限されているため、特定の会社に特定のデザイン対する独占権を付与すると、他の会社の選択権は大きく減ることとなってしまいます。したがって、錠剤の形状に関するデザインは、出願の審査ではもちろん、登録されたデザイン権の権利範囲を判断するに際しても、厳格な評価と判断が前提とされなければなりません。このような観点において、裁判部は、基本色相(青色)と基本形状(菱型)が結合したバイアグラのデザインに対して、独占権を付与することができないとみなしたものです。

知的財産権と公正競争

知的財産権は、権利者に独占排他的な権利を付与することで人々の発明や創作を奨励しております。しかし、既存の発明や創作に対するささいな変更、または誰もが容易に考えることのできるものなどに対してまで独占権を付与すれば、これはむしろ公正な競争を制限することになるため、認められてはならないものです。知的財産権に対する独占権の保護と市場での公正な競争の促進、二つの価値の調和が要求されることは、オリジナル薬品とジェネリック薬品の関係においても同様であるといえると思われます。

本判決は、本原稿執筆時点で控訴されておりますが、上述のような観点から今後の帰すうについて注

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195