知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)元祖ビッグデータとしての知財情報を分析して、未来を見通すビジネス戦略策定!

2023年10月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.181)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2023年9月に、特許情報や商標情報等をビジネスに応用する手法に関係するイベントである、「PATINEX」、「2023年商標ビッグデータカンファレンス」、「特許情報活用促進のための国会討論会」が、韓国特許庁の主催で相次いで実施されました。知財情報をビジネスに活用する動きは、日本や韓国でホットイシューとなっています。今回は、知財情報の活用について解説を行います。

1.知財情報とは

「知財」といっても幅広く、さまざまなものが含まれます。中でも特許、意匠、商標に関しては、特許庁への出願手続きを行い、その情報が公的に管理されることから、信頼性も高く、また内容自体も、発明やブランドロゴ、デザインはもちろん、その発明者・製作者や、企業、年代、場所等、さまざまな情報が含まれています。これらの知財情報は、かなり昔の情報からデジタルデータとして保存されており、現在では、さまざまな国のこれらの情報を誰でも入手することが可能です。知財情報を活用したビジネス戦略策定の手法は、日本ではIPランドスケープ、韓国ではIP R&Dと呼ばれ、現在さまざまな研究が進められています。

2.事例

韓国特許庁は9月13日に、「2023年商標ビッグデータカンファレンス」開催について公表を行い、その中で、商標ビッグデータ分析による戦略についての事例を紹介しました。ここではその事例を紹介したいと思います。
事例の紹介の前に、理解を助けるために簡単に商標制度について説明しますと、商標は、例えば「JETRO」のような企業のロゴなどを登録する制度であるのですが、単純にそのロゴだけを登録するわけではなく、ロゴなどの情報とともに、「区分」と呼ばれるカテゴリーを指定して、登録する制度になっています。例えば、「JETROのペンキ」という塗料のロゴで商標を登録する場合は、第2類「塗料」を指定して出願し、審査を経て登録となります。この組み合わせを見ていくと企業戦略も理解できる事例が存在します。

2.1.自動車関連企業の事例

自動車関連企業である、テスラと現代自動車は、いずれも自動車関連の分野において商標を取得していました。ところがある時点から、西洋料理のレストランに関する区分でも商標を出願しています。この情報からは、自動車の種類が電気自動車へと変化し、レストランでの食事中に充電を可能とすべく、レストランに充電スタンド等の設備を設置するスタイルのビジネスモデルとする点が予測されます。韓国特許庁の公表記事では「顧客ニーズに応えるオーダーメイド型サービス業まで事業拡張していくことを、商標を通じてあらかじめ確認することができた。」と紹介されていました。

2.2.化粧品・医薬品関連企業の事例

医薬品関連企業であるジョンソン・エンド・ジョンソンは、医療についての商標を取得していたところ、ある時点で、仮想現実・拡張現実に関する商標を出願・取得しました。このことから、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、リアルの医療から事業領域を広め、仮想空間における手術に関する教育事業などに展開していることが予想されます。また、韓国特許庁の公表内容には、同様に化粧品関連企業についても言及され、「従来の化粧品、医薬品業界から拡張し、仮想化粧や仮想手術など仮想現実に係る業種に新規進出する可能性を商標から予測することができる。」と紹介されていました。

3.IPランドスケープ、IP R&D

上記で紹介した事例は、シンプルに特定企業の商標の出願動向を見て企業戦略を考えた事例になります。この他にも、複数の業界企業の情報をビッグデータとして解析したり、複数種類の情報を組み合わせて、将来の予想を立て、事業戦略を検討したりすることもあります。非常に有効な手法ではあるのですが、実際にどのような手法を用いてIPランドスケープ等の分析を行うのかは、個々の分析者のノウハウであったり、用いる情報元が特定企業の機密事項であったりすることも多く、公になりづらい性質があるのが難点となります。

4.関心が高まったら

今回の記事でIPランドスケープに関心が高まった方もおられると思います。自社での分析を行うには、専門的知識が不足しているという場合は、特許事務所などでIPランドスケープを用いた支援を行うところもありますので、専門家の支援を求めるのも選択肢です。また、JETROソウル事務所では、これらに関するニュース情報やセミナーなども開催していますので、適宜HPをご参照いただければと思います。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学 客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT 知財人材部長等を経て現職。

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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