知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)第4次産業革命時代の知的財産保護体系―韓国特許庁の改善策について―

2019年06月12日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.129)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)

3月28日に開催された国家知識財産委員会において、韓国特許庁が提出した「第4次産業革命時代の知的財産保護体系改善策」が確定しました。
本改善策では、デジタル・ネットワーク環境に合う知的財産保護法令および審査基準を整備し、融合・複合技術分野を担当する特許審査組織などを補強することとしています。
本稿では、この中で取り上げられた、現行の知的財産保護体系の問題点と改善策について、概要をご紹介します。

現行の知的財産保護体系の問題点

現行の知的財産保護体系は、ハードウェア中心、モノ中心の特許保護体系のため、特許技術を含むソフトウェアのオンライン伝送での保護が不可能であり、特許製品の3D図面の流布への対応も不可能であるという問題点があります。
また、物品中心のデザイン保護体系のため、レーザー仮想キーボードなど、新技術を活用したデザインの保護が不可能であり、デザイン権物品の3D図面の取引の対応が難しいという問題点があります。

知的財産保護体系の改善策

特許保護範囲の拡大

特許技術が含まれたソフトウェアのオンライン伝送を特許で保護し、特許製品の3Dデータ提供も特許で保護します。具体的には、実施類型を追加して「ソフトウェアのオンライン伝送」を「方法発明の使用の申出」で保護するとともに、間接侵害対象の拡大により電子的手段・中核部品提供などの侵害を対象に追加します。

デザイン保護範囲の拡大

デジタル環境で取引される、新しい類型のデザイン保護のための保護対象拡大および間接侵害規定を改善します。

商標権保護範囲の拡大

オンライン上での商標使用の概念を明確にし、オープンマーケットでの商標権侵害予防のための間接侵害規定を新設します。ここで、オンラインサービス提供者(OSP)が、商標権侵害を誘発することを知りながら、販売仲介の利用を許諾・斡旋する行為も、侵害として認定します。

バイオ・ソフトウェア分野の審査基準改正

バイオヘルス・ソフトウェアなど、イノベーション成長分野の技術保護のための審査基準を改正します。

  • (患者オーダーメイド型精密医療)有効成分および対象疾患が同一であっても、特定薬物に、より有効な対象患者群限定発明を特許で保護
  • (デジタル診断)医師の診断方法は特許を認めないが、データ分析後に疾病との相関関係を判断する情報処理技術を特許で保護
  • (知能型創薬開発)ソフトウェア特性を持つバイオビッグデータを利用した、仮想実験上の創薬開発技術に対する特許付与基準を明確化
  • (ソフトウェア)AI、AR(拡張現実)など、ソフトウェアの新技術に対する特許付与基準を明確化

第4次産業革命の融合・複合技術分野を専門に担当する審査体系を補強

第4次産業革命技術の権利保護に向け、中核の融合・複合技術別に多様な専門審査官からなる、「専担審査組織」を補強するとともに、「融合・複合審査基準」の策定および「3人協議審査」の導入など、審査制度を見直します。

本改善策で取り上げられている、ソフトウェア特許のオンライン伝送における保護や、間接侵害対象の拡大は、日系企業がSJC(ソウルジャパンクラブ)建議事項を通じて韓国政府に要望していた事項でもあり、本改善策が今後、早期の法改正などに繋がることが望まれます。

第4次産業革命に対応するための知的財産保護のあり方については、日本を含む各国においても検討されており、韓国特許庁の取組が参考になると言えるでしょう。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 浜岸 広明 (特許庁出向者)
98年特許庁入庁。情報処理分野の審査官・審判官、国際課課長補佐、審判課課長補佐、知的財産活用企画調整官等を経て、17年6月より現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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