知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)2022年米国特許取得件数でサムスン電子が1位に

2023年02月08日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.173)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

2023年1月6日、米国知的財産所有者協会(IPO)は、2022年米国特許取得ランキングを発表しました。これによると、韓国サムスン電子が初めてランキング1位を獲得しました。

1.属地主義と外国出願戦略

本欄でも度々ご説明しているとおり、特許は国ごとに出願され、それぞれの国・地域内で審査、登録され、特許権の効力は登録された国・地域内のみに及びます。この原則は属地主義と呼ばれています。
たとえば、日本の特許庁に特許を出願し、これが審査、登録された場合、特許権の効力は日本国内でのみ有効で、他の国には及びません。
したがって、グローバル企業においては、翻訳費用や現地代理人費用にも留意しつつ、多くの外国特許出願をする必要があり、特に世界最大の市場である米国の特許出願件数、取得件数は、企業の国際競争力の観点から重要な指標といえます。

2.2022 年米国特許取得ランキング

米国知的財産所有者協会(IPO)は、毎年米国特許取得件数ランキングを発表しており、2023年1月6日付けで、2022年のランキングを発表しました。

2022年米国特許取得ランキング

2022年米国特許取得ランキング

出典:IPO「Top 300 Organizations Granted U.S. Patents in 2022」

このランキングでは、1993年から2021年まで29年連続で米IBMが首位を保っていましたが、2022年はサムスン電子が初めて首位を獲得しました。米国の特許取得件数であるにもかかわらず、外国企業、それも韓国企業が首位を獲得したというのは、非常にエポックメイキングです。
ただ、ご覧いただくと分かるとおり、実はサムスン電子の2022年米国特許取得件数は前年とほぼ変わっておらず、むしろIBMが前年から44%もの大幅減となった「敵失」によるところが大きいといえます。
IBMは2023年1月9日付けのブログの中で、この変化は 2020年に特許の取得数でリーダーシップを とることを追求しないと決定したことの結果であると説明しており、現在、ハイブリッドクラウド、データ・AI、セキュリティー、半導体や量子コンピューティングなどの分野において、高品質でインパクトのある進歩を達成するため、社内の才能とリソースを集中させているとしています。

3.特許は量?質?

特許は1件だけ保有していても、大きな力を発揮することは難しく、コア技術から周辺技術まで幅広くそして多く取得することではじめて大きな力を発揮することができるといわれます。一方、質の低い特許(影響力の低い特許)は多く取得しても「烏合の衆」に過ぎず、そのような特許は多く保有していても役に立たないのも事実です。
特許は量なのか質なのか、この論争に決着をつけることは困難ですが、分かりやすいランキングが気になってしまうのも人間の性です。
IPOのランキングPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.0MB)には、300位までの社名が掲載されていますので、ご自分の会社、ライバル社のランキングが気になる方は是非ご覧になってはいかがでしょうか。

また、米国特許取得件数で最大のライバルを失ったサムスン電子が、今後米国でどのような行動をとるのかにも要注目です。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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