知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)地名からなる商標

2018年03月14日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.114)
特許法人ムハン 代表弁理士 千 成鎮(チョン・ソンジン)

韓国では著名な地名だけからなる商標は商標登録を受けることができないが、最近北朝鮮の地名に関する興味深い商標無効審判事件があった。この事件は韓国商標業界内でも大変関心を集めた事件であったが、2018年2月に韓国大法院(最高裁)の判決が下されたのでこれを紹介する。

1. 事件の概要

A(乙;被告;商標権者)は、曽祖母が1951年から大田(テジョン)で「沙里院麵屋」(サリウォン・ミョンオク)という名で食堂を始めて以来、代を引き継いで食堂を運営してきた。メインメニューはプルコギと冷麺だ。「沙里院」(サリウォン)は北朝鮮の黄海北道(ファンヘブクド)の道庁所在地であり、「麵屋」(ミョンオク)は麺料理を出す食堂を意味して主に冷麺を出す食堂に使われる。この食堂はかなり成功し、Aは現在大田に3カ所、ソウルに1カ所の「沙里院麵屋」食堂を運営している。Aは1994年に「冷麺専門食堂業」を指定サービス業として商標(サービスマーク)出願をし、1996年に商標登録をした。Aは商標の更新によって登録商標を維持している。

B(甲;原告)は、1992年にソウルで「沙里院」(サリウォン)という名で食堂を始めた。この食堂もメインメニューはプルコギと冷麺だ。この食堂もかなり成功し、Aは現在ソウルに8カ所、京畿道(キョンギド)に1カ所の「沙里院」食堂を運営している。Aが運営する「沙里院麵屋」とBが運営する「沙里院」は、どちらもよく知られた食堂だ。

一方、韓国商標法は「著名な地理的名称やその略語だけからなる商標」は登録を受けられないと規定している。
2016年4月に、BはAの登録商標(サービスマーク)の「沙里院麵屋」の「麵屋」は普通名詞で、「沙里院」は著名な地理的名称であるため、韓国商標法に違反する商標という理由により商標無効審判を請求した。特許審判院はこの事件を審理した後、「沙里院」はこの事件登録商標の登録決定時に韓国国内の一般需要者間で顕著に認識されている地理的名称と見ることはできないとして、2016年10月に審判請求を棄却した。これに対し、Bは再び特許法院(知財高裁)にこの審判の審決取消訴訟を提起した。しかし、特許法院は、2017年5月に同様の理由でBの請求を棄却した。

認められた事実は次の通りである。

  1. 沙里院(サリウォン)は、北朝鮮の黄海道(ファンヘド)にある地域の名称である。
  2. 沙里院(サリウォン)は、朝鮮時代の鳥致院(チョチウォン)、梨泰院(イテウォン)、長湖院(チャンホウォン)、退渓院(トェゲウォン)とともに院(ウォン)が設置された交通の要地であり、1947年に市に昇格した後、1954年には黄海北道(ファンヘブクド)の道庁所在地となった。この事件の登録商標の登録決定当時である1996年にも沙里院は黄海北道の道庁所在地であり、現在も黄海北道の道庁所在地である。
  3. 1960年代から2010年代までに発行された韓国内の小/中/高等学校の教科書及び地図に、沙里院(サリウォン)は黄海北道の道庁所在地で、交通の要地である等の内容が叙述され、地図にも表示されている。
  4. 「沙里院」でニュースを検索すると、沙里院に関連する新聞記事は、主に1920年代から1940年代の初期までに集中しており、その後は関連する新聞記事の数が急激に減少した。ただ、1940年代以降も北朝鮮関連の記事や天気関連の記事などには、沙里院が北朝鮮の代表的な都市の一つと言及されている。
  5. この事件の登録商標が登録される頃の1996年7月頃に「沙里院」で構成された商標が著名な地理的名称だけからなるという理由で登録拒絶されたことがある。
  6. 特許法院の訴訟段階で、A及びBはそれぞれ世論調査機関を通じて世論調査を実施した。
    1. Aの依頼を受けた世論調査機関は、2016年7月から8月まで、20才以上59才以下の韓国人を対象に調査をした。これによれば、沙里院という名称を知っているという回答者が61.4%で、全体のうち食物関連で知っていると答えた回答者が27.4%、地名として知っていると答えた回答者は19.2%、黄海道地域の地名として知っていると答えた回答者は10.4%であった(複数応答可能)。この世論調査機関は、2016年12月に調査対象者の年齢を広げて20才以上79才以下の韓国人を対象に再び調査をした。これによれば、沙里院という名称を知っているという回答者は39.4%であった。また、全体のうちの10%は沙里院を食物関連で知っていると回答し、地名関連で知っていると答えた回答者は16.5%、黄海道地域の地名として知っていると答えた回答者は3.7%であった。
    2. Bの依頼を受けた世論調査機関は、2016年9月に20才以上69才以下の韓国人を対象に調査をした。これによれば、沙里院が地域の名称(地名)であることを知っているという回答者が53.6%、沙里院が北朝鮮の地名であることを知っているという回答者が40%であった。この世論調査機関が2016年12月に調査対象者の年齢を上げて40才以上の韓国人を対象に再び調査した。これによれば、沙里院という名称を知っているという回答者が51.6%で、この回答者のうちの69.8%が地名として知っていると答え、50.5%は飲食店関連だと答えた(複数応答可能)。全体の回答者を基に見たとき、「沙里院」を地名として知っている回答者は26.8%であり、黄海道地域の地名として知っていると正確に答えた回答者は15.8%に過ぎなかった。

特許法院はこのような調査結果に基づいて沙里院(サリウォン)は著名な地理的名称ではないため登録商標無効主張には理由がないと判断した。
しかし、大法院は著名な地理的名称であるか否かの判断時点は、商標登録可否決定時であることを前提とし、2016年に実施された需要者認識調査は商標(サービスマーク)登録日から20年も過ぎた後に行われたものであるから、これが登録決定当時の一般需要者の認識を反映していると見ることは難しいと判断した。逆に、上の認定事実1.~6.に基づき、この事件商標の登録決定があった1996年には一般需要者に広く知られている著名な地理的名称に該当すると判断した。即ち、この事件商標は無効ということだ。

2. 検討

日本の商標法と異なり、韓国の商標法は「著名な地理的名称やその略語だけからなる商標」は登録を受けることができないと規定している。そして、最高裁判所の判決に見られるように、著名な地理的名称であるか否かの判断時点は商標登録可否決定時である。日本と韓国の交流が活発になるにつれ、日本の地名もますます韓国人に親しいものとなっている。東京、大阪、京都は言うまでもなく、より多くの日本の地名が韓国で著名な地理的名称になりつつあると思われる。しかし、まだ韓国内で顕著に知られていない日本の地理的名称は依然として韓国で商標登録が可能なため、注意が必要だ。

今月の解説者

特許法人ムハン 代表弁理士 千 成鎮(チョン・ソンジン)
94年弁理士試験合格(首席)。95年ソウル大学工科大学院コンピューター工学科卒業。95年~99年サムスン電子に研究員勤務。2000年~02年金&張法律事務所に勤め、02年に特許法人ムハンを共同設立。現在、特許法人ムハン代表弁理士。韓国情報工学会、韓国弁理士会(KPAA), AIPPI, APAAにて活動。
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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