知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国の商標審査期間に長期化の兆し

2022年08月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.167)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

近年、世界的に商標出願が急増し、それに伴って審査にかかる期間も長期化する傾向にあります。世界の状況は?そして韓国の状況は?統計を交えつつ解説します。

1.世界的な商標出願増加

近年、世界的に商標出願件数は増加の一途をたどっています。傾向を掴むため世界の商標出願の5割を占める商標五庁(TM5)への商標出願件数を見てみましょう。

商標五庁(TM5)への商標出願件数グラフ

出典:韓国は、韓国特許庁「知識財産統計年報」(2012-2022年)同「知識財産統計FOCUS」(2021年)、日米欧中は、日本特許庁「特許庁ステータスレポート2022」に基づいて筆者作成

まず、最も出願件数の多い中国についてみると(中国は出願件数を公表しておらず区分数のみの公表)、2012年の1,648千区分から2020 年の9,348千区分へと、実に5倍以上もの伸びを示しています。中国での商標出願はそのほとんどが中国国内の出願人によるものであるため、増加の原因は、中国国内からの出願増加です。米国も、同時期に313千件から662千件へと2倍以上増加していますが、これは中国から米国への出願が増加している影響が多分に含まれています。
米中と比較すると伸びは小さいですが、日本は2012年の119千件から2021年の185千件へと5割以上増加、韓国は、2012年の142千件から2021 年の257千件へと約8割増加、欧州は2012年の109千件から2020年の177千件へと約6割増加しています。韓国での商標出願は中国に似て国内からの出願が多いため、韓国商標出願増加の主な要因は、韓国国内からの出願の増加です。
法律で審査期間が厳格に定められている中国を除いて、各国で商標出願の審査期間も長期化しています。米国では、2020年第2四半期の一次審査期間が2.7カ月であったのに対し、直近の2022 第2四半期には、7.7カ月に伸びています( USPTO, Trademark Dashboard)。日本でも2016年度の4.9カ月から2020年度の10.0カ月へと伸び、直近の2021年度では審査の体制強化・効率化により8.0カ月に短縮されましたが、以前より長期化している状況です(特許行政年度報告書2021年版及び2022年版)。

2.韓国の商標審査期間の現況と見通し

韓国でも商標の一次審査期間の伸びが問題になっており、2016年に4.8カ月、2020年に8.9カ月だったのに対し、最近の報道によれば、2022年5月には14.8カ月とかなり長期化が進んでいます。韓国は、日本と異なり権利付与前の異議申立制度を採用しているため、商標権の設定登録は、日本と比べるとさらに遅くなっている状況です。
韓国特許庁も手をこまねいていたわけではなく、商標審査官数は2011年の101名から2021 年の149名に5割ほど増員していますが、新政権になり国家公務員の定員が厳しく管理される中、さらなる大幅増員は難しいとみられ、当面審査期間が長い状態は続くと思われます。

3.審査期間長期化への対策は?

日本の早期審査制度と同じく、韓国にも、一定の要件を備えた商標出願について、他の出願よりも優先的に審査を受けることができる優先審査制度が存在し、これを使えば、2~3カ月ほどで一次審査結果を得ることができます。 韓国での商標審査期間は当面長い状態が続くと思われるため、急ぎ結果が欲しい商標出願については、優先審査制度を利用することも一案でしょう。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195