知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)従業員の発明は誰のもの?-韓国の職務発明制度について-

2015年12月09日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.87)
Lee & Yoon 特許法律事務所代表弁理士 尹 勝煥(Seung-Hwan, YOON)

職務発明制度は、発明を完成した従業員に対しては、適切な補償を通じて研究開発への意欲を鼓吹させる一方、企業側は、優秀な技術人材の流出防止と技術の蓄積を通じて競争力を高めることができる、企業と従業員が共にwin-winとなる制度である。しかし、現実問題としては、従業員に補償される対価の算定の難しさのため、発明者に対するインセンティブが不十分だったり、発明者からの過度に高額な対価請求訴訟により、かえって企業活動が萎縮するなどの副作用も発生している。 各国は職務発明制度が本来の趣旨通りに運用できるよう様々な制度改善の努力をしており、日本と韓国でもその一環として最近関連法の改正があったので、以下では最近の法改正内容を中心に日本と韓国の職務発明制度の違いについて紹介する。

特許を受ける権利

発明を通じて特許を受ける権利は誰にあるのか? 日本と韓国は発明の完成によって発生する『特許を受ける権利』は自然人の発明者個人に原始的に帰属するという発明者主義を採っていて、職務発明においてもその原則を長い間維持してきた。つまり、日韓共に、職務発明によって発生する特許を受ける権利は原始的に発明者である従業員に帰属するものとしつつも、使用者(企業等)があらかじめ契約や勤務規程を通じてこれを事後的に継承することを可能とする仕組み(いわゆる、"予約承継"条項)を採用していた。
しかし、最近、改正された日本特許法(2015年7月10日に公布)では、こうした発明者主義を一部修正し、契約・勤務規程などを通じて事前に使用者(企業等)が所有の意思表示をした場合には、特許を受ける権利を発明の完成と同時に使用者に帰属させることも可能であるとした。つまり、発明者主義の一般原則を採りつつ、契約や勤務規定を通じて使用者に原始帰属させることも選択可能にしたのである。
これに対して、韓国では現行の発明振興法(韓国もかつては日本と同様、特許法で職務発明を規律していたが、2006年からは関連規定を特許法から削除し、発明振興法という別の法律で規律している)でも、依然として発明者主義の原則を採用しており、特許を受ける権利は原始的に従業員側にあり、使用者はこれを事後的に継承可能であると規定している。そして、このような使用者の予約承継のためには、契約や勤務規程内に予約承継を含む職務発明補償規定を設けなければならず、従業員から発明の完成に関する通知を受けた日から4ヵ月内に継承の意思表示を文書として従業員に通知しなければならない。

従業員の特許を企業が実施するには?

一方、使用者が従業員から職務発明を譲受しないことにする場合はどうなるのか?職務発明が完成に至るまでは、従業員の発明の成果だけでなく、研究設備の提供など使用者の貢献も少なくない。それで、日本特許法では、職務発明を譲受しない場合でも、使用者には少なくとも当該職務発明について無償の通常実施権が与えられるものと規定している。このような使用者の無償の通常実施権は韓国でも同様に認められている。しかし、最近の法改正により、その認定要件がやや厳しくなっている。つまり、2014年1月31日から施行されている韓国発明振興法では、中小企業でない大企業が契約・社内勤務規程などに職務発明に関する予約承継規定を設けていない場合や、従業員から発明完成の通知を受けて4ヵ月以内にそれを継承するかどうかについて何の通知もしなかった場合には、従業員からの同意を得ない限り、通常実施権は与えられないものと規定している。

職務発明に関する社内規定の必要性

また、韓国では社内職務発明補償規定の作成及び変更についても厳格に規律している。使用者は、補償規定・補償内容について従業員に補償規定の適用日の15日前までに文書で通知しなければならず、補償規定の作成又は変更について従業員の過半数と協議をする必要がある。また、補償規定を従業員に不利に変更する場合には、当該規定の適用を受ける従業員の過半数の同意を得なければならない。韓国では、『職務発明審議委員会』という特有の制度もある。例えば、従業員が対価の金額や職務発明の認定有無について不服がある場合は、使用者に審議委員会を構成し審議するよう要求することができる。審議委員会は使用者と従業員をそれぞれ代表する同数の委員で構成され、関連分野の専門家である外部の諮問委員を1人以上参加させることになっている。使用者は、従業員の要求があれば60日以内に審議委員会を構成して審議しなければならず、審議委員会を構成しなかったり、審議していない場合は、1,000万ウォン以下の過料が科される。審議委員会の審議結果に不服を申し立てたい場合には、産業財産権紛争調整委員会に調停を申請することができる。

このように、最近法改正により日本と韓国の職務発明制度は、従来に比べて、違うところも多くなっており、韓国内にR&Dセンターや製造基盤の子会社を置いている日本企業としても韓国の発明振興法に符合する社内職務発明規定を整備しておく必要がある。

今月の解説者

Lee & Yoon 特許法律事務所
代表弁理士 尹 勝煥 (Seung-Hwan, YOON) ソウル大学電子工学課卒業、慶応義塾大学国際研修過程修了
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロ=ソウル事務所 副所長 笹野秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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