知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国の知的財産法改正手続き

2021年09月08日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.156)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

韓国の知的財産法は、日本のそれを参考に構築された経緯があるため、日本法と類似する部分が多いといわれています。たとえば、日韓特許法で重要な条文である、第1条[目的]、第2条[定義]、第29条[特許の要件]の各規定は、条文番号まで同じで、その内容も非常に似通っていることが知的財産業界ではよく知られています。
その一方、法改正の進め方は、日韓で大きく異なっているため、本稿では、韓国の知的財産法改正手続きについてご紹介します。

1.日韓の法改正手続きの違い

韓国は日本と異なり国会が一院制であるという違いはありますが、法律案が国会に提出され、国会の所管委員会での審議、本会議での審議、可決・成立を経て法律が公布、施行されるという全体の流れは、日韓で共通しています。また、日韓ともに国会に法案を提出する主体によって、政府立法と議員立法とが存在するのも同じです。
日韓で大きく異なることは、日本では政府立法がほとんどで議員立法は例外的であるのに対し、韓国では逆に議員立法がほとんどで政府立法が例外的である点です。この傾向は、知的財産法に限らず全ての法域で見られ、第20代国会(2016~2020年)では、議員提出法案21,594本に対し、政府提出法案は1,094本に過ぎませんでした(「議案情報システム」の議案統計による。)。

2.議員立法による法改正手続き

韓国の議員立法による法改正手続きは以下のような流れになります(韓国国会ウェブサイトに基づく)。

  1. 提案(提出)
  2. 委員会回付
  3. 立法予告(パブリックコメント)
  4. 委員会審査
  5. 法制司法委員会体系字句審査
  6. (全員委員会審査)
  7. 本会議 審議・議決
  8. 政府移送
  9. (大統領の拒否権行使)
  10. 公布

※6、9は場合によって行われる手続き

注意すべきは立法予告であり、議員立法の場合、立法予告期間が10日間程度しかない場合がほとんどのため、意見を提出する場合には早急に察知し、対処する必要があります。

3.五月雨式な法案提出

このように、韓国では議員立法が支配的であるのに加え、法案の提出回数が極めて多い点も特徴です。与野党の国会議員が競うように多くの法案を提出するため、同じ法案の同じ条文に対して、立て続けに異なる内容の法案が提出されることがままあります。
日本の常識では、提出された法案の完成度は高く、ほぼ原案どおり可決・成立することも多いのですが、韓国で日々提出される議案の内容を見ると、行政庁と緻密な調整を実施した良く練られた法案もあれば、改正趣旨が分かりづらい法案もあります。そして、法案が提出されても、必ずしもそのまま可決・成立するわけではなく、大幅に修正が入ったり、廃案になったりすることが珍しくありません。
また、複数の法律に似た改正内容を導入する場合でも、五月雨式に導入されることがよく見られます。たとえば、近年韓国の知的財産法には、いわゆる懲罰的損害賠償が導入されていますが、特許法、不正競争防止および営業秘密保護に関する法律は、2019年7月9日施行であったのに対し、商標法、デザイン保護法では2020年10月20日施行であった例がありました。

4.終わりに

韓国の法改正手続きは、議員立法が多い点で民主的であるともいえる一方、法案が提出された後もその内容が大きく変動することから、監視負担が大きいという見方もできます。
韓国の法改正をウオッチングする際には、日本との違いに留意が必要です。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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