カンボジアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は5.0%。
  • 輸出は前年比4.4%増。主要産業の縫製業の輸出は13.4%減。
  • 観光・サービス業は回復の兆しあるも、縫製業、建設・不動産業の不振は継続。
  • 対内直接投資は大幅に回復。出資元国は中国が筆頭。
  • 新首相誕生をはじめ、政権が世代交代。ビジネス環境改善が進展。

公開日:2024年9月25日

マクロ経済 
堅調な経済成長も、外需不振で当初予測より下振れ

IMFによると、2023年のカンボジアの実質GDP成長率は5.0%で、前年の5.1%と同水準の堅調な成長となった。しかし、2023年4月時点の成長率予測が5.8%だったことから、想定よりも景気が下振れしたかたちだ。主要産業である観光・サービス業は回復基調だったが、縫製業の輸出停滞や建設・不動産業など内需の回復遅れが重荷となった。金融引き締めなどによる欧米の景気停滞、不動産セクターの不振を中心とした中国経済の減速など、外需不振の影響がみられた。主要産業の一つである縫製業では、欧米向けが主な市場である衣類・付属品、革製品・かばん類、履物の輸出が前年比13.4%減少した。建設・不動産業では、主に中国資本の流入減少で、未完成状態のまま手つかずとなっている物件が多数みられる中、完成した物件の入居率も伸び悩んでいる。観光・サービス業では、2023年の外国人観光客数は前年比2.4倍の545万人となった。特にタイやベトナム、ラオスなどの近隣国からの観光客の増加が牽引した。一方、2019年のピーク時には全体の3割以上(約220万人)を占めていた中国からの観光客は、全体の1割程度に当たる約55万人にとどまった。

IMFによると、2023年の消費者物価上昇率は2.1%で、前年の5.3%から大幅に低下し落ち着きを見せている。原油の国際市況が下落したことで、石油・ガソリン・ガス価格が安定的に推移したことが背景にある。また、カンボジアでは米ドルが国内の決済・取引に広く使われているため、現地通貨安による輸入価格上昇などの為替変動の影響が少ないことも要因として挙げられる。

外貨準備高は2023年末で198億7,400万ドルとなった。前年末比11.2%増で、輸入額の9.9カ月分相当の安定した水準を維持している。対外債務残高は224億8,400万ドルで前年とほぼ同水準だった。公的債務の残高および返済先の筆頭は中国だが、これに加えて日本や韓国、アジア開発銀行(ADB)や世界銀行など複数の国際金融機関からの譲許的借入れを活用し、債務が特定国に偏って「債務の罠」に陥らないよう調整しているものとみられている。

38年ぶりの首相交代、外資企業誘致を重点分野の一つに

2023年8月22日にフン・セン首相に代わって、その長男であるフン・マネット氏が首相に就任した。38年ぶりの首相交代で、これに併せて若手を抜擢した新内閣が発足し、歴史的に大きな節目となった。ビジネス界からも、若手を中心とする新政権の舵取りに期待を寄せる声が多い。新政権は国家成長戦略のロードマップ(ペンタゴン〔五角形〕戦略フェーズ1)を策定し、安定的な経済成長、ビジネス・投資環境の改善など、5つの重点施策を発表した。ビジネス・投資環境の整備の観点からは、民間事業者とのコミュニケーションやコンタクトを増やし、民間の意見吸い上げと投資環境改善に向けた動きを加速している。実際、8月から9月にかけて、経済関係省庁の大臣、長官クラスによる企業ヒアリングが頻繁に開催され、企業が抱える課題に関する情報収集と当該課題の解決策を模索する動きがみられた。

新政権は、海外からの民間投資誘致にも引き続き注力している。2023年の対内直接投資額(適格投資案件〔QIP〕ベース)の国・地域別割合で中国が全体の8割を占めるなど、近年は中国企業による投資が目立つが、政府は特定国からの投資に偏らないように、より多くの国・地域、セクターからの投資を呼び込もうとしている。その一環として、新首相の外遊に合わせて投資フォーラムを開催するなど、トップセールスに力を入れている。フン・マネット首相は2023年12月に「日ASEAN特別首脳会議」出席のため初来日した際、「カンボジア投資セミナー」で自らが基調講演を行い、カンボジアの投資先としての魅力を訴えた。2023年は日本カンボジア外交関係樹立70周年の節目の年で、数多くの友好交流イベントが開催され、両国間の親密な関係を再認識する年となった。また、日本や英国、インド、マレーシア、タイなど、特定国との2国間協力をベースとした経済特区設立の構想を進めている。

貿易 
主力の縫製関連の輸出入が低調も、電気機器・部品の輸出が拡大

輸出入は、引き続き縫製関連や簡易な部品組み立てなどの労働集約型軽工業が中心で、資材や材料、部品を輸入し、製造した製品や半製品を輸出する構造になっている。

カンボジア関税消費税総局(GDCE)によると、2023年の輸出は234億7,000万ドルで、前年より4.4%増加した。縫製業は外需が減退したため、衣料品・付属品、革製品・かばん類、履物の輸出が低調だった。一方、電気機器・部品が前年比56.6%増となり、衣類・付属品(ニット製品)に次ぐ2位の輸出品目となった。米国が2022年6月にカンボジアを含むASEAN4カ国からの太陽光発電関連製品に対する関税免除措置(2024年6月までの24カ月間)を導入したことを受け、カンボジアから米国への太陽光パネル関連の輸出が拡大した影響だとみられる。また、穀物(45.1%増)やゴム製品(69.6%増)、野菜(52.6%増)といった農作物の輸出も大幅に伸びた。

2023年の輸入は244億700万ドルで、前年よりも18.5%減少した。縫製業の海外からの受注が停滞したため、上位品目のうち、縫製品の資材となるニット、人造短繊維・織物、綿・綿織物といった原材料・資材の輸入が7.4%減に落ち込んだ。そのほか、原油の国際価格の落ち着きによる影響などもあり、エネルギー資源(鉱物性燃料・石油類)は7.6%減少した。

なお、縫製業界関係者によると、2024年に入って少しずつ海外からの受注が回復してきており、下半期には工場をフル稼働できると見込んでいる。一方、米国向けの太陽光パネル関連輸出は、2024年6月6日に米国の関税免除措置が終了し、今後アンチダンピング税や補助金相殺関税の適用対象となり得るため、当該品の輸出は減少が見込まれる。

表1-1 カンボジアの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
衣類・付属品(ニット製品)(61) 6,367 5,479 23.3 △ 14.0
電気機器・部品(85) 1,998 3,130 13.3 56.6
衣類・付属品(布帛製品)(62) 2,668 2,390 10.2 △ 10.4
穀物(10) 1,205 1,748 7.4 45.1
革製品・かばん類(42) 1,861 1,708 7.3 △ 8.2
履物(64) 1,737 1,365 5.8 △ 21.4
ゴム製品(40) 542 919 3.9 69.6
家具類(94) 948 890 3.8 △ 6.2
貴金属(71) 262 888 3.8 239.7
野菜(07) 437 666 2.8 52.6
合計(その他含む) 22,483 23,470 100.0 4.4

〔注〕品目欄の括弧内数値はHSコード。
〔出所〕カンボジア関税消費税総局(GDCE)のデータ(2024年7月1日時点)からジェトロ作成

表1-2 カンボジアの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料・石油類(27) 3,668 3,388 13.9 △ 7.6
ニット(60) 2,891 2,597 10.6 △ 10.2
電気機器・部品(85) 1,464 1,577 6.5 7.7
車両・部品(87) 2,375 1,339 5.5 △ 43.6
機械類・部品(84) 1,469 1,307 5.4 △ 11.0
人造短繊維・織物(55) 1,200 1,099 4.5 △ 8.4
プラスチック製品(39) 1,217 1,072 4.4 △ 11.9
化学製品(38) 593 986 4.0 66.2
アルミニウム製品(76) 780 615 2.5 △ 21.2
綿・綿織物(52) 508 562 2.3 10.6
合計(その他含む) 29,942 24,407 100.0 △ 18.5

〔注〕品目欄の括弧内数値はHSコード。
〔出所〕カンボジア関税消費税総局(GDCE)のデータ(2024年7月1日時点)からジェトロ作成

国・地域別に見ると、輸出は全体の4割近くを占める米国向けが前年比0.8%減の88億9,700万ドルだった。米国への主要輸出品目は従来、衣料品、履物、革製品・かばんなどの旅行用品だったが、近年は太陽光パネル関連の伸長が著しく、電気機器・部品が輸出品目の筆頭となっている。欧米向けの輸出は、同地域で景気の不透明感や不安定感が継続していることを受け、スペインなどを除いて軒並み低調だった。スペイン向けが大きく伸びた理由は、物流事業者によると、欧州の寒波の影響により突発的に冬物衣料のニーズが高まり、ファストファッション大手からの発注が急増したことが背景にあるようだ。

一方、輸入では全体の約45%を占める最大の輸入相手国である中国が、前年比3.3%増の107億8,600万ドルだった。中国からは化学製品などの輸入が増加した。中国に次ぐ主要輸入相手国であるベトナムは8.9%減の36億1,200万ドル、タイは24.5%減の28億9,500万ドルとなった。これら2カ国からはエネルギー資源(鉱物性燃料・石油類)の輸入割合が大きいため、原油価格の落ち着きを受けて輸入額が目減りしたとみられる。

表2-1 カンボジアの主要国・地域別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
米国 8,969 8,897 37.9 △ 0.8
ベトナム 2,169 2,973 12.7 37.1
中国 1,241 1,479 6.3 19.2
日本 1,173 1,176 5.0 0.2
カナダ 1,121 870 3.7 △ 22.4
タイ 832 860 3.7 3.4
ドイツ 1,084 816 3.5 △ 24.7
英国 886 796 3.4 △ 10.2
スペイン 475 713 3.0 50.3
オランダ 553 565 2.4 2.2
合計(その他含む) 22,483 23,470 81.6 4.4

〔出所〕カンボジア関税消費税総局(GDCE)のデータ(2024年7月1日時点)からジェトロ作成

表2-2 カンボジアの主要国・地域別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 10,446 10,786 44.2 3.3
ベトナム 3,967 3,612 14.8 △ 8.9
タイ 3,833 2,895 11.9 △ 24.5
インドネシア 912 995 4.1 9.1
シンガポール 3,230 940 3.9 △ 70.9
台湾 1,037 661 2.7 △ 36.3
日本 775 624 2.6 △ 19.5
マレーシア 509 527 2.2 3.7
韓国 545 470 1.9 △ 13.8
香港 764 328 1.3 △ 57.0
合計(その他含む) 29,942 24,407 100.0 △ 18.5

〔出所〕カンボジア関税消費税総局(GDCE)のデータ(2024年7月1日時点)からジェトロ作成

対内直接投資 
対内直接投資額は前年比84.8%増、中国からの投資が圧倒的

2023年の適格投資案件(QIP)ベースによる対内直接投資の件数は前年比40.9%増の231件、認可額は84.8%増の34億3,000万ドルとなった。新型コロナウイルス流行前の2019年の水準(296件、47億4,500万ドル)には件数と認可額ともに届かなかったが、前年よりも大幅に伸びており、回復基調といえる。国・地域別に見ると、中国からの投資が認可額の8割を占めた。台湾、香港を加えた中華圏で見ると、認可額の87.7%に上り、投資元国が中華圏に集中している構造は変わっていない。

投資額1億ドル以上の大型投資案件は3件が認可された。中国による首都プノンペンとベトナムとの国境に接する都市バベットを結ぶ高速道路2号線の建設・運営事業(約13億8,000万ドル)を筆頭に、タイヤ製造事業、セメント事業があった。件数ベースでは、投資セグメントの中心である衣料品・履物・革製品・かばんなどの縫製事業関連が全体の32.6%を占めた。続いて、太陽光パネル関連を含む電気機器・部品製造事業や、梱包資材製造事業などの軽工業が多かった。新型コロナウイルス流行前に中国企業の投資ブームに沸いた不動産・建設、観光関連事業への投資は、商業施設事業の1件にとどまった。中国国内での不動産市況の低迷や個人消費減速などを背景に、これら部門での中国からの投資は、かつての勢いが戻っていない。なお、日本からの投資認可件数(QIPベース)は進出済み日系企業の追加設備投資1件のみで、新規進出案件はなかった。

表3 カンボジアの国・地域別対内直接投資[QIP認可ベース](単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
件数 金額 件数 金額 構成比 伸び率
中国 138 1,689 180 2,748 80.1 62.7
台湾 0 11 134 3.9 全増
香港 2 5 19 127 3.7 2,620.0
シンガポール 3 13 7 107 3.1 746.1
マレーシア 1 6 1 91 2.7 1,506.3
韓国 4 18 4 21 0.6 19.0
タイ 4 44 2 20 0.6 △ 55.5
米国 0 2 15 0.4 全増
日本 4 25 1 3 0.1 △ 89.2
その他 8 58 9 165 4.8 184.6
合計 164 1,856 231 3,430 100.0 84.8

〔注1〕小数点以下の四捨五入の関係で合計と一致しないことがある。
〔注2〕カンボジア開発評議会(CDC)のカンボジア投資委員会(CIB)が発表するSEZ以外への適格投資案件(QIP)および、CDCのカンボジア経済特別区委員会(CSEZB)が発表するSEZ内への格投資案件(QIP)が対象の統計を足し上げたもの。QIP取得企業以外の統計は入手できない。なお、CSEZBは2023年にCIBに統合された。
[出所]カンボジア投資委員会(CIB)、カンボジア経済特別区委員会(CSEZB)のデータからジェトロ作成

対日関係 
日本との貿易はほぼ横ばい、日系企業の進出は伸び悩み

GDCEによると、2023年の日本とカンボジアの貿易総額は前年比7.6%減の17億9,900万ドルだった。カンボジア側から見た対日貿易収支は5億5,200万ドルの黒字となった。

カンボジアから日本への輸出は前年比0.2%増の11億7,600万ドルだった。上位品目である衣類・付属品が減少し、履物は横ばいだった。一方、日系企業が製造しているとみられる自動車用ワイヤーハーネスを含む電気機器・部品は30.9%増の1億7,700万ドルとなった。日本での自動車生産が伸びたことが背景にあるものとみられる。

カンボジアの日本からの輸入は、前年比19.5%減の6億2,400万ドルだった。最大輸出品目である車両・部品は38.3%減の2億5,800万ドルとなった。日系自動車輸入販売代理店へのヒアリングによると、カンボジアの景気低迷により高級車の販売が低迷しており、高価格帯自動車の日本からの輸出が停滞したものとみられる。前年2位だった機械・部品は51.1%減となり、3位に後退した一方、電気機器・部品が89.1%増で2位となった。

2023年の日本企業に対するQIP認可件数は、前述のとおり既進出企業の事業拡大(追加設備投資)に関する1件のみだった。一方で、QIP認可対象外の投資案件については正確なデータの取得が困難であるものの、新規開店する日本食レストランを含め、消費者向けの商品やサービスを提供する企業の進出は増加している。日本食流通事業者によると、日本食レストランの数は地場資本を含めてプノンペン市内だけでも350から400店舗程度に上るといわれている。特に客単価20ドル前後の居酒屋スタイルの店舗を中心に、新しい日本食レストランの開店が相次いでいる。消費市場の拡大を見越した店舗展開を加速する動きがある一方、限られた市場規模の中での競争により、店舗を閉鎖する動きも同時並行で起きている。

表4-1 カンボジアの対日本主要品目別輸出(FOB)
[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
衣類・付属品(布帛製品)(62) 393 367 31.2 △ 6.5
衣類・付属品(ニット製品)(61) 386 364 31.0 △ 5.8
電気機器・部品(85) 135 177 15.0 30.9
履物(64) 110 111 9.4 0.8
革製品・かばん類(42) 53 61 5.2 14.5
傘、杖・部品(66) 24 21 1.8 △ 11.3
紡織用繊維・製品(63) 15 16 1.4 9.2
機械・部品(84) 12 13 1.1 2.1
帽子・部品(65) 5 9 0.8 90.4
紙製品(48) 7 7 0.6 0.1
合計(その他含む) 1,173 1,176 100.0 0.2

〔注〕品目欄の括弧内数値はHSコード。
〔出所〕カンボジア関税消費税総局(GDCE)のデータ(2024年7月1日時点)からジェトロ作成

表4-2 カンボジアの対日本主要品目別輸入(CIF)
[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
車両・部品(87) 418 258 41.3 △ 38.3
電気機器・部品(85) 41 78 12.5 89.1
機械・部品(84) 89 44 7.0 △ 51.1
プラスチック製品(39) 29 43 6.9 49.7
陶磁製品(69) 23 32 5.1 40.9
光学機器(90) 20 21 3.4 3.3
紡織用繊維・製品(63) 12 11 1.8 △ 6.1
原皮・革(41) 15 9 1.5 △ 38.4
家具類(94) 6 9 1.4 51.7
人造短繊維・織物(55) 10 9 1.4 △ 10.4
合計(その他含む) 775 624 100.0 △ 19.5

〔注〕品目欄の括弧内数値はHSコード。
〔出所〕カンボジア関税消費税総局(GDCE)のデータ(2024年7月1日時点)からジェトロ作成

人件費以外の魅力発信へ、課題解決の取り組みも前進

政府は、日系企業の誘致も推し進めようとしている。しかし実態としては、日系企業の進出は近年低位で推移している状況である。

現地進出を検討する際の重要な要素の一つである人件費を見ると、カンボジアの法定最低賃金は2012年に月額61ドルだったが、2023年には3倍以上の200ドルに上昇している。アジア地域内には人件費水準がカンボジアと同等もしくは低い国・地域が存在しており、廉価な人件費という優位性が薄まっている。それでも、人件費水準が高く地政学的なリスクを抱える中国や、人口の高齢化とそれに伴う労働力不足、人件費の上昇がみられる隣国のタイとベトナムからのプラスワンの生産拠点として、労働集約的な製造工程の補完・受託機能を担える潜在性は高いと考えられる。製造業の進出では、地理的な優位性や政治・社会の安定性、新投資法運用政令発布に基づく投資優遇措置、若くて勤勉な労働力の確保、自然災害の少なさなども、メリットとして挙げられる。

物流面では、ベトナム、カンボジア、タイを結ぶ南部経済回廊の中心地としての地の利を生かすため、政府は港湾や空港の拡張・整備、環状道路や運河、鉄道など大型インフラの計画を推し進め、同地域における物流ハブの機能強化を図ろうとしている。インドシナ半島南部・メコン地域での在庫管理機能を集中させた物流・倉庫事業の拠点化に乗り出す企業も出てきた。日系流通事業者のイオンモールカンボジアロジプラスは、2023年6月にシアヌークビル港に隣接した多機能型保税倉庫を開設し、保税管理や通関サービスを開始している。

また、カンボジアは国土の約3分の1が農業用地であり、そのうち約8割は稲作地とされる農業国である。農業の生産性を高めることが国家レベルでの課題だが、政府はその解決策としてデジタルトランスフォーメーション(DX)やイノベーティブなビジネスモデルの導入を積極的に受け入れようとしている。さらに、農作地から排出される温暖化ガスの削減と、それに伴うカーボンクレジットのメリットを享受するために、グリーントランスフォーメーション(GX)といったエコシステムの実証実験を検討する企業の動きもみられる。

一方、現地進出日系企業が直面している課題やビジネス環境上のリスクも多数存在する。これらの解決に向けて、政府と日本大使館およびカンボジア日本人商工会(JBAC)による日本カンボジア官民合同会議が定期的に開催されている。カンボジア副首相級大臣と日本大使が共同議長を務め、年2回相互に協議しながら政策提言につなげている。2024年2月までに27回実施されており、具体的な問題解決やビジネス環境の改善を実現してきた。例えば、日系企業が長年直面してきたみなし課税や追徴課税勧告などについては、2024年2月にフン・マネット首相直轄の税制改革タスクフォースチームが立ち上がったことを受け、解決に至った案件が出るなど、新政権下で対応が加速している。

なお、カンボジアは2024年3月の国連開発政策委員会(CDP)の勧告を受け、2029年に国連の基準に基づく後発開発途上国(LDC)から卒業する見通しとなった。これに伴い、従来先進国向けに輸出される縫製品などに適用されていた特別特恵関税が2029年以降、適用対象から外れる。EUでは、LDC卒業後3年間は移行期間として、関税の無税措置の廃止猶予を認めているが、カンボジアの輸出産業にとっては大きな転換期となる。カンボジアにとってはさらなるビジネス・投資環境の改善・整備を図ることにより、国際競争力を強化する必要性に迫られている。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 3.1 5.1 5.0
1人当たりGDP (米ドル) 2,188 2,319 2,460
消費者物価上昇率 (%) 2.9 5.3 2.1
失業率 (%) 0.4 0.2 0.2
貿易収支 (100万米ドル) △ 11,199 △ 8,820 △ 2,986
経常収支 (100万米ドル) △ 11,971 △ 6,456 △ 667
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 20,338 17,875 19,874
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 20,146 22,468 22,484
為替レート (1米ドルにつき、カンボジア・リエル、期中平均) 4,099 4,102 4,111


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、1人当たりGDP、消費者物価上昇率:IMF
失業率:世界銀行
貿易収支、経常収支、外貨準備高(グロス)、対外債務残高(グロス)、為替レート:カンボジア国立銀行