インドの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年度の実質GDP成長率は8.2%と、前年度を上回る伸び。
  • 貿易額は原油価格の下落により輸出入ともに減少、赤字幅も縮小。
  • 対内直接投資は前年度から3.5%減も、日本からの直接投資は76.7%増。
  • 対日輸出が減少した一方で輸入は伸び、対日貿易赤字が拡大。

公開日:2024年11月12日

マクロ経済 
2023年度も好調なインド経済

2023年度(2023年4月~2024年3月)の実質GDP成長率は前年度比8.2%と、前年度の7.0%を上回る高水準となり、インド経済拡大の勢いが反映された。需要項目別に見ると、GDPの55.8%を占める民間最終消費支出は4.0%増にとどまった一方で、33.5%を占める国内総固定資本形成(企業による投資)が9.0%増と全体を牽引した。財貨・サービスの輸出入に関しては、輸出が2.6%増と鈍化したことに加え、輸入が10.9%増と前年度並みに拡大したことで成長率を押し下げた。

表1 インドの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年度 2022年度 2023年度
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 9.7 7.0 8.2 8.2 8.1 8.6 7.8
階層レベル2の項目民間最終消費支出 11.6 6.8 4.0 5.5 2.6 4.0 4.0
階層レベル2の項目政府最終消費支出 0.1 9.0 2.5 △ 0.1 14.0 △ 3.2 0.9
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 17.8 6.6 9.0 8.5 11.6 9.7 6.5
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 32.7 13.4 2.6 △ 6.6 5.0 3.4 8.1
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 23.6 10.6 10.9 15.2 11.6 8.7 8.3

〔注〕年度は4月~翌年3月、2011年度基準。四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕統計・計画実施省資料からジェトロ作成。

産業部門別(粗付加価値ベース=GVA))で見ると、全部門でプラス成長を維持した。特に、インド政府が振興に注力する製造(前年度比9.9%増)や底堅いインフラ需要を背景とした建設(9.9%増)の分野は大きく伸長した。一方で、農林水産は1.4%増とわずかな伸びにとどまった。

消費者物価指数(CPI)の上昇率(インフレ率)は、2023年7月と同年8月にインド準備銀行(RBI、以下、中銀)の目標値(4%±2%)を超過したものの、その後は5.0%前後の目標値内に落ち着いた。消費者物価の半分近くの比重を占める食品のインフレ率は、全体よりも高い水準で推移し、天候および農作物の生育状況に大きく左右された。

貿易 
原油価格低下で輸出入ともに前年度比で減少、貿易赤字幅は縮小

2023年度の貿易(通関ベース)は、輸出が前年度比3.0%減の4,371億6,530万ドル、輸入は5.6%減の6,755億4,980万ドルとなり、いずれも過去最高額となった前年度から減少した。貿易収支は、2,383億8,450万ドルの赤字で、赤字幅は前年度から263億8,930万ドル縮小した。

輸入を品目別に見ると、全体の約2割を占める原油の輸入額が前年度比13.7%減、品目別3位の石油製品が15.8%減となり貿易赤字の縮小に貢献した。ただし、輸入量はいずれも増加していることから、ロシアによるウクライナ侵攻などを受けて2022年度に高騰していた原油価格が、2023年度に落ち着いたことが輸入額減少の要因であると捉えられる。原油の輸入相手国を金額順に見ると、ロシア(33.2%)、イラク(20.7%)、サウジアラビア(15.8%)と続く。政府は、国内エネルギー価格の安定化を目的として、2022年2月のウクライナ侵攻後に欧米諸国による経済制裁対象となったロシアからの原油の輸入を拡大している。全体に占めるロシアの割合は、2021年度は2.0%にすぎなかったが、2022年度に19.3%に急上昇し、2023年度はさらに拡大した。

他方、金・銀(前年度比27.1%増)の輸入が大きく伸びた。インドにおいて金は装飾品や資産として人気が高く、内需の好調さを反映した形となった。また、前年度に続きスマートフォンなど組立の材料となる電子部品(36.9%増)の伸び率も大きく、国内製造業からの需要が反映された。

輸出を品目別で見ると、電子通信機器(前年度比33.7%増)、医薬品・精製化学品(9.7%増)、機械・器具(6.9%増)、輸送機器(6.8%増)などの拡大が目立った。

一方、原油を原料とする石油製品(前年度比13.5%減)や無機・有機・農業化学品(18.3%減)は輸出額が減少した。また、研磨済ダイヤモンドを中心とする宝石・宝飾品(13.6%減)も2桁減少した。ダイヤモンドは主要な消費市場である中国や米国での需要が低下しており、また合成ダイヤモンドの普及により価格も低迷している。世界のダイヤモンドの9割以上の加工・研磨が行われている西部グジャラート州スーラトのダイヤモンド協会では、需給バランスを整えるため、2023年10月から2カ月間にわたり、ダイヤモンド原石の輸入を停止させる自主的な生産調整を実施した。

表2-1 インドの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
石油製品 97,326 84,171 19.3 △ 13.5
機械・器具 33,147 35,432 8.1 6.9
宝石・宝飾品 37,884 32,720 7.5 △ 13.6
医薬品・精製化学品 25,392 27,857 6.4 9.7
輸送機器 25,010 26,717 6.1 6.8
鉄金属・非鉄金属 23,269 22,579 5.2 △ 3.0
電子通信機器 12,920 17,268 3.9 33.7
織物用糸・布地 15,495 16,092 3.7 3.9
無機・有機・農業化学品 18,828 15,389 3.5 △ 18.3
鉄・鉄鋼 13,302 11,851 2.7 △ 10.9
合計(その他含む) 450,554 437,165 100.0 △ 3.0

〔注〕年度は4月~翌年3月
〔出所〕インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データから作成

表2-2 インドの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
原油 162,069 139,901 20.7 △ 13.7
金・銀 40,149 51,023 7.6 27.1
石油製品 47,247 39,780 5.9 △ 15.8
石炭・コークス・ブリケット 49,423 38,879 5.8 △ 21.3
電子部品 25,121 34,380 5.1 36.9
一般機械 29,923 32,149 4.8 7.4
鉄金属・非鉄金属 25,104 27,151 4.0 8.2
真珠・貴石 30,645 23,826 3.5 △ 22.3
輸送機器 26,224 21,065 3.1 △ 19.7
人造樹脂・プラスチック材 21,984 20,688 3.1 △ 5.9
合計(その他含む) 715,327 675,550 100.0 △ 5.6

〔注〕年度は4月~翌年3月
〔出所〕インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データから作成

中国が米国を上回り最大の貿易相手国に

2023年度にインド最大の貿易相手国となったのは中国(構成比10.6%、前年度比4.2%増)で、輸出入の総額は1,184億3,170万ドルとなり、前年首位の米国の1,182億9,050万ドルをわずかに上回った。

2023年度の輸入を国別に見ると、中国(構成比15.1%、前年度比3.4%増)が最大で20年連続の首位となった。主要輸入品目としては、一般機械(12.5%、8.2%増)、電子部品(11.9%、48.7%増)、コンピュータハードウエア・周辺機器(7.9%、10.7%増)など工業品が挙げられる。ロシア(9.1%、32.0%増)は原油(75.7%、48.8%増)の輸入が大幅に増加したことで前年の4位から2位に浮上し、アラブ首長国連邦(UAE)(7.1%、9.6%減)やサウジアラビア(4.7%、24.3%減)など中東の産油国は順位を落とした。

輸出においては、米国(構成比17.7%、前年度比1.1%減)が11年連続で最大となった。インドは多くの国々に対して貿易赤字であるが、米国に対しては367億6,110万ドルの黒字だった。主要輸出品目としては、医薬品・精製化学品(11.3%、13.1%増)、宝石・宝飾品(10.0%、20.4%減)、機械・器具(9.4%、1.3%増)が挙げられる。2位のUAE(8.2%、12.9%増)向けは、宝石・宝飾品(22.6%、39.4%増)や輸送機器(6.0%、61.3%増)が大きく増加した。

表3-1 インドの国・地域別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
米国 78,402 77,526 17.7 △ 1.1
アラブ首長国連邦(UAE) 31,582 35,644 8.2 12.9
オランダ 21,700 22,379 5.1 3.1
中国 15,300 16,672 3.8 9.0
シンガポール 11,966 14,421 3.3 20.5
英国 11,463 12,979 3.0 13.2
サウジアラビア 10,733 11,565 2.6 7.8
バングラデシュ 12,166 11,066 2.5 △ 9.0
ドイツ 10,129 9,841 2.3 △ 2.8
イタリア 8,680 8,764 2.0 1.0
日本 5,457 5,160 1.2 △ 5.4
合計(その他含む) 450,554 437,165 100.0 △ 3.0

〔注〕年度は4月~翌年3月
〔出所〕インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データから作成。

表3-2 インドの国・地域別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
中国 98,399 101,760 15.1 3.4
ロシア 46,529 61,438 9.1 32.0
アラブ首長国連邦(UAE) 53,174 48,045 7.1 △ 9.6
米国 50,836 40,765 6.0 △ 19.8
サウジアラビア 41,997 31,810 4.7 △ 24.3
イラク 34,238 30,023 4.4 △ 12.3
インドネシア 28,716 23,416 3.5 △ 18.5
スイス 15,770 21,251 3.1 34.8
シンガポール 23,616 21,206 3.1 △ 10.2
韓国 21,228 21,143 3.1 △ 0.4
日本 16,499 17,696 2.6 7.3
合計(その他含む) 715,327 675,550 100.0 △ 5.6

〔注〕年度は4月~翌年3月
〔出所〕インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データから作成。

通商政策 
保護貿易主義の姿勢が顕著に

インド政府は、慢性的な貿易赤字解消のため、輸出促進を図る手段として、2021年以降に主に先進国との2国間の自由貿易協定(FTA)・経済連携協定(EPA)の交渉・締結を積極的に進めている。2024年3月には、アイスランド、スイス、ノルウェー、リヒテンシュタインの4カ国からなる欧州自由貿易連合(EFTA)との貿易経済連携協定(TEPA)を締結した。同協定では、FTAで初めて投資や雇用創出の目標が掲げられ、インドの国内産業の振興に寄与する取り組みであることが強調された。

また、貿易赤字の削減と国内産業の振興を目的とした輸入に対する非関税障壁を設ける動きが、電子部品などインドで製造できていない品目を除いて多くの品目に広がっている。インドでは、インド標準規格局(BIS)が定める独自の標準規格(IS)が存在し、特定品目の輸入や国内流通にあたっては、IS認証の取得が義務付けられている。取得には、製品試験や評価の他、BIS検査官の派遣による工場検査などが必要となるため、特に海外に生産拠点を持つ場合には時間と費用がかかり、実質的な輸入障壁となっている上、近年は対象品目数が急激に増加している。さらに、2023年10月には化学品の輸入通関の際の構成化学物質の情報開示が義務化され、輸入量削減のための新たな非関税障壁として捉えられている。

特に、国境問題を抱え緊張関係にある中国に対しては、IS認証が実質的な輸入規制の手段として機能している。明文化されているわけではないものの、中国で製造された製品や中国企業が生産した製品についてはIS認証の取得は実質的に難しく、最大の輸入相手国である中国からの輸入を削減したい政府の意向が表れていると見られる。

対内・対外直接投資 
対内直接投資は伸び悩み

インド商工省産業国内取引促進局(DPIIT)の発表によると、2023年度のインドの対内直接投資額(実行ベース)は前年度比3.5%減の444億2,335万ドルにとどまった。国別では上位6カ国が投資額全体の8割以上を占める。そのうち、シンガポール(構成比26.5%、前年度比31.6%減)、米国(11.3%、17.3%減)、UAE(6.6%、12.8%減)からの投資が縮小した一方、モーリシャス(17.9%、29.9%増)、オランダ(11.1%、97.1%増)、日本(7.2%、76.7%増)からの投資は拡大した。

表4-1 インドの国・地域別対内直接投資[実行ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
シンガポール 17,203 11,774 26.5 △ 31.6
モーリシャス 6,134 7,970 17.9 29.9
米国 6,044 4,998 11.3 △ 17.3
オランダ 2,498 4,924 11.1 97.1
日本 1,798 3,177 7.2 76.7
アラブ首長国連邦(UAE) 3,353 2,924 6.6 △ 12.8
英国 1,738 1,216 2.7 △ 30.0
カタール 11 999 2.2 8,981.8
キプロス 1,277 806 1.8 △ 36.9
カナダ 800 552 1.2 △ 31.0
合計(その他含む) 46,034 44,423 100.0 △ 3.5

〔出所〕インド商工省「FDI Newsletter」から作成。

表4-2 インドの国・地域別対外直接投資[届け出ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
シンガポール 6,122 4,877 19.6 △ 20.3
アラブ首長国連邦(UAE) 3,166 3,444 13.8 8.8
米国 4,051 3,379 13.6 △ 16.6
オランダ 2,157 3,092 12.4 43.3
サウジアラビア 178 2,541 10.2 1,327.5
英国 5,351 1,967 7.9 △ 63.2
モーリシャス 1,311 992 4.0 △ 24.3
スイス 603 581 2.3 △ 3.6
南アフリカ 66 433 1.7 556.1
イスラエル 257 398 1.6 54.9
日本 5 5 0.0 0.0
合計(その他含む) 28,542 24,887 100.0 △ 12.8

〔出所〕インド準備銀行「Overseas Direct Investment」から作成。

業種別では、合わせて全体の3割以上を占めるコンピュータのソフトウエア・ハードウエア(構成比17.9%、前年度比15.1%減)とサービス(金融・BPO等:14.9%、23.7%減)がともに縮小した一方で、建設(インフラ開発:9.5%、2.5倍)、非従来型エネルギー(8.5%、50.6%増)や電力(3.8%、2.4倍)などの伸びが大きかった。

表5-1 インドの業種別対内直接投資[実行ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
コンピュータのソフトウエア・ハードウエア 9,394 7,973 17.9 △ 15.1
サービス(金融、BPO等) 8,707 6,640 14.9 △ 23.7
建設(インフラ開発) 1,703 4,232 9.5 148.5
貿易・卸売 4,792 3,865 8.7 △ 19.3
非従来型エネルギー 2,500 3,764 8.5 50.6
電力 698 1,702 3.8 143.8
病院・診断センター 810 1,530 3.4 88.9
自動車産業 1,902 1,524 3.4 △ 19.9
海運輸送 530 1,096 2.5 106.8
医薬品 2,058 1,064 2.4 △ 48.3
合計(その他含む) 46,034 44,423 100.0 △ 3.5

〔出所〕インド商工省「FDI Newsletter」から作成

表5-2 インドの業種別対外直接投資[届け出ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
金融、保険、ビジネスサービス 8,369 8,779 35.3 4.9
製造業 8,744 5,246 21.1 △ 40.0
建設 1,463 3,869 15.5 164.5
卸売、小売、貿易、レストラン、ホテル 5,311 3,550 14.3 △ 33.2
輸送機器、倉庫、通信サービス 2,049 1,430 5.7 △ 30.2
農業、鉱業 2,058 1,161 4.7 △ 43.6
社会サービス 323 623 2.5 92.9
電気、ガス、水 141 191 0.8 35.5
その他 84 40 0.2 △ 52.4
合計 28,542 24,887 100.0 △ 12.8

〔出所〕インド準備銀行「Overseas Direct Investment」から作成。

対外直接投資も縮小傾向

中銀の発表によると、2023年度のインドの対外直接投資額(届け出ベース)は、前年度比12.8%減の248億8,698万ドルとなった。投資先を国別に見ると、前年度1位のシンガポール(構成比19.6%、前年度比20.3%減)と3位の米国(13.6%、16.6%減)の投資額が縮小した。

業種別では、建設(構成比15.5%、前年度比2.6倍)が大きく拡大し、インド拠点の親会社による海外子会社への追加投資が中心の金融、保険、ビジネスサービス(35.3%、4.9%増)は緩やかに伸びた。一方で、前年度5割弱拡大した製造業(21.1%、40.0%減)は、大幅な縮小に転じた。

投資環境・外資誘致政策 
「自立したインド」実現に向けた国内製造業振興政策

インド政府は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)拡大を受け2020年から他国に頼らない産業構造「自立したインド」の実現を目標に掲げている。2014年に始めた「メーク・イン・インディア」のスローガンの下、貿易赤字の削減や新規雇用の創出を目的として、国内製造業の振興を図っている。GDPのうち製造業が占める割合を、2014年度の約15%から将来的に25%にまで引き上げる目標の達成に向け、投資誘致のための各種インセンティブを発表している。代表的なものとしては、2020年に導入された生産連動型優遇策(PLI)が挙げられる。PLIは、政府の承認を得た新規投資の実行後、所定の要件を満たしていれば、新たに製造された製品の売り上げの増加額などに対して、複数年にわたり一定割合の補助金が製造者に支払われる仕組みだ。インド政府はこれまでにPLIの対象として14の重点分野を指定している。また、主要州では州政府による投資誘致活動も活発に行われており、特に製造業誘致にあたっては州独自のインセンティブが設けられている場合もある。

外資系企業による投資は、「自立したインド」実現のために必要不可欠である。インドでは農林水産、不動産などの禁止分野のほか、銀行、保険、印刷、複数ブランド小売などで出資制限が設けられているものの、それ以外の多くの分野では外資による100%出資が可能である。ただし、前述の通り国境問題を抱える中国に対しては厳しい規制を敷いており、「脱中国」を図りたい狙いが見てとれる。2020年4月以降は、国境を接する国からの出資は業種に関わらず全て事前許可制となった。この規制も背景として2023年11月には、中国自動車大手の上海汽車集団(SAIC Motor)傘下のMGモーターインドが、インドでの事業強化に向け、地場の鉄鋼メーカー大手JSWグループからの出資を受け入れたと発表。社名をJSW・MGモーターインド(JSW MG Motor India)に変更した。

対日関係 
対日貿易では赤字幅が拡大

2023年度の日本向け輸出は、前年度比5.4%減の51億5,970万ドル、日本からの輸入は7.3%増の176億9,610万ドルとなり、インドの貿易相手国・地域としては輸出が24位(構成比1.2%、前年度26位)、輸入が12位(2.6%、14位)となった。インドの対日貿易収支は125億3,640万ドルの赤字となり、前年度から赤字幅が13.5%増となった。

日本向け輸出を品目別にみると、機械・器具(構成比11.2%、前年度比21.1%増)や輸送機器(10.3%、34.0%増)、鉄金属・非鉄金属(9.9%、29.5%増)の伸びが大きかったのに対し、有機・無機農業化学品(10.4%、9.1%減)、水産物(8.0%、15.4%減)で減少した。

輸入では、鉄金属・非鉄金属(構成比17.6%、前年度比59.6%増)、一般機械(13.7%、20.3%増)をはじめとして多くの品目で拡大した一方、化学材料・製品(11.3%、16.8%減)などが減少に転じた。

表6-1 インドの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
機械・器具 479 580 11.2 21.1
有機・無機農業化学品 593 539 10.4 △ 9.1
輸送機器 397 532 10.3 34.0
鉄金属・非鉄金属 396 513 9.9 29.5
水産物 487 412 8.0 △ 15.4
化学残留物 269 268 5.2 △ 0.4
宝石・宝飾品 349 261 5.1 △ 25.2
医薬品・精製化学品 248 242 4.7 △ 2.4
鉄・鉄鋼 267 189 3.7 △ 29.2
毛糸・織物 161 142 2.8 △ 11.8
合計(その他含む) 5,457 5,160 100.0 △ 5.4

〔注〕年度は4月~翌年3月
〔出所〕インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データから作成

表6-2 インドの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年度 2023年度
金額 金額 構成比 伸び率
鉄金属・非鉄金属 1,950 3,112 17.6 59.6
一般機械 2,011 2,420 13.7 20.3
化学材料・製品 2,411 2,005 11.3 △ 16.8
鉄・鋼鉄 1,397 1,488 8.4 6.5
人造樹脂・プラスチック材 1,180 1,143 6.5 △ 3.1
輸送機器 996 960 5.4 △ 3.6
有機化学品 691 862 4.9 24.7
電子部品 704 840 4.7 19.3
電気機器 658 733 4.1 11.4
機械工具類 614 713 4.0 16.1
合計(その他含む) 16,499 17,696 100.0 7.3

〔注〕年度は4月~翌年3月
〔出所〕インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データから作成。

日本からの対印投資は大幅に増加しシェア拡大

2023年度の日本からの直接投資(実行ベース)は前年度比76.7%増の31億7,738万ドルとなり、投資額全体の7.2%を占め、国別では5位(前年度6位)となった。

製造業では、4月に試薬・検査機器大手のシスメックスが西部グジャラート州での新たな生産拠点の設立を発表し、6月には日清紡ホールディングスの現地子会社が北部ハリヤナ州で自動車精密部品の新工場を開所、同月にはブラザー工業が南部カルナータカ州で工作機械の工場の起工式を行った。7月には文具大手パイロットコーポレーションがハリヤナ州でボールペン工場を開所、11月にはトヨタ自動車の現地子会社がカルナータカ州ベンガルールにインドで3カ所目となる工場の建設を発表した。12月には三菱電機が西部マハーラーシュトラ州プネでのFAシステムの新工場の稼働開始を発表、2024年2月には印刷インキ大手DICの現地子会社が同じくプネで塗料やコーティングに使われる樹脂の新工場の開所式を行った。

非製造業においては、小売分野で、10月にはユニクロがマハーラーシュトラ州ムンバイに新店舗を2店開業したほか、11月には良品計画が同じくムンバイに無印良品のインド最大の店舗をオープンした。物流分野では、5月に阪急阪神エクスプレスがグジャラート州での物流倉庫の増床・移転を発表、2024年3月にはロジスティードの現地子会社がムンバイで新物流拠点の開所式を行った。

インドから日本への直接投資(届け出ベース)は前年度比5.5%減の511万ドルとなった。中銀の公表によると、インド企業の完全出資子会社への投資が7割超を占め、残りが合弁会社への出資だった。業種では金融・保険・ビジネスサービスが最多となっている。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年度 2022年度 2023年度
実質GDP成長率 (%) 9.7 7.0 8.2
1人当たりGDP (米ドル) 2,250 2,366 2,485
消費者物価上昇率 (%) 5.5 6.7 5.4
失業率 (%) 7.7 7.6 8.1
貿易収支 (100万米ドル) △ 189,459 △ 265,291 △ 242,065
経常収支 (100万米ドル) △ 38,691 △ 66,984 △ 23,209
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 594,356 521,419 622,452
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 6,188 6,241 6,638
為替レート (1米ドルにつき、インド・ルピー、期中平均) 73.9 78.6 82.6


年度は4月~翌年3月。
外貨準備高(グロス)、 為替レート:暦年
実質GDP成長率、経常収支、対外債務残高(グロス):2023年度は暫定値。
貿易収支:国際収支ベース(財のみ、BPM6フォーマット)
経常収支:国際収支ベース(BPM6フォーマット)
出所
外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
実質GDP成長率、消費者物価上昇率:インド政府
1人当たりGDP:世界銀行
失業率:CMIE
貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):インド準備銀行(RBI)