香港の貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年のGDP成長率は2.5%と緩やかな成長。外需の改善と来港者の増加が要因。
  • 貿易額は中国本土への輸出の急回復などから前年比増。貿易収支の赤字幅が縮小。
  • 対内直接投資額は前年比約12%増、対外直接投資額は9%弱減。
  • 対日貿易は輸出減、輸入増。日本の農林水産物・食品の輸出額は2年ぶりに減少。

公開日:2025年7月17日

マクロ経済 
外需の改善と来港者の増加により景気は回復基調

2024年の香港経済は、外需が改善したことなどから、実質GDP成長率は2.5%となった。2年連続でプラス成長を維持したが、民間消費は振るわず、前年(3.2%)から0.7ポイント減速した。外需のうち、財の輸出では、中国本土への輸出が急回復したほか、対米輸出も増加した。また、サービス輸出も全般的に拡大しており、輸送サービスが大幅に増加。旅行サービスも緩やかな成長をみせた。

実質GDP成長率を需要項目別にみると、民間最終支出は前年比マイナス0.7%と低迷(前年は6.8%)した。香港居住者が買い物やレジャーなどを目的に、香港と比較すると安価な中国本土を訪れて消費する「北上消費」の定着といった消費パターンの変化の影響が指摘される。域内総固定資本形成も1.9%(前年は11.4%)と伸び悩んだ。サービス輸出は5.1%とプラスを維持した。越境金融および資金調達活動やビジネス・その他サービスが改善したことによる。もっとも、新型コロナを受けた入境後の行動制限の廃止(2022年12月)や中国本土との往来制限の全面撤廃(2023年2月)で反動増となった前年(19.5%)からは減速した。2024年に香港を訪れた外国人渡航者数は30.9%増の約4,450万人となったが、2018年(約6,515万人)の水準には回復してない。外需については、財の輸出が4.7%と前年(マイナス10.0%)から大幅な回復を示した。

なお、高齢化により労働人口が減少する中、失業率は3.0%と前年(2.9%)からほぼ横ばいで推移した。

香港特別行政区(以下、香港)政府は2025年5月、2025年通年の成長率について2.0~3.0%を見込むとし、同年2月時点の予測値から据え置いた。足元では国際的な貿易摩擦が幾分和らぎ、外部環境における逆風や不確実性が若干緩和されたことや、中国本土の経済の安定した成長の持続が見込まれることなどを好材料に挙げた。一方で、米国の貿易政策の不確実性が残る中で、今後の金融政策の動向は複雑であるとの見解を示したほか、コト消費を重視する傾向がみられる来港客や、上述の香港居住者の消費パターンの変化などが域内市場の消費拡大に制約を及ぼす可能性があると指摘した。

表1 香港の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 △ 3.7 3.2 2.5 2.8 3.0 1.9 2.5
階層レベル2の項目民間最終消費支出 △ 2.2 6.8 △ 0.7 0.9 △ 1.9 △ 1.3 △ 0.2
階層レベル2の項目政府最終消費支出 8.0 △ 3.9 0.9 △ 1.6 1.7 1.6 2.1
階層レベル2の項目域内総固定資本形成 △ 7.4 11.4 1.9 △ 0.9 3.1 5.8 △ 0.7
階層レベル2の項目財の輸出 △ 14.0 △ 10.0 4.7 6.7 7.4 3.9 1.3
階層レベル2の項目財の輸入 △ 13.2 △ 8.3 2.4 3.3 3.4 2.8 0.4
階層レベル2の項目サービスの輸出 △ 0.5 19.5 5.1 9.9 1.0 2.8 6.5
階層レベル2の項目サービスの輸入 △ 1.2 25.6 11.6 18.2 11.7 9.0 8.3

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕香港特別行政区政府統計処

貿易 
貿易収支の赤字幅が縮小

2024年の香港の財貨貿易の総額は、中国本土への輸出の急回復などにより前年比7.3%増の9兆4,645億香港ドルだった。うち、輸出は8.7%増の4兆5,424億香港ドル、輸入は6.0%増の4兆9,221億香港ドルと、前年からいずれも増加した。貿易収支は3,797億香港ドルの赤字だったものの、赤字幅は対前年比で18.8%縮小した。

輸出の内訳をみると、全体の98.7%を占める再輸出は9.1%増の4兆4,845億香港ドル、香港現産品の輸出(構成比1.3%)は11.9%減の578億香港ドルとなった。

輸出を国・地域別でみると、1位は中国本土(構成比59.0%)で、前年比15.6%増の2兆6,817億香港ドル、2位は米国(6.5%)で8.5%増の2,956億香港ドル、3位はベトナム(3.2%)で29.1%増の1,444億香港ドルとなった。日本(1.8%)は4.4%減の807億香港ドルで、6位だった。金額の大きい中国本土、ブルネイを除くASEANおよび北米向け輸出は軒並み増加したが、欧州向けは英国(前年比18.5%減)が下押しし欧州全体で6.1%減(EUは0.7%増)となった。輸出を品目別にみると、1位の電気機器・同部品(構成比48.1%)が前年比10.0%増の2兆1,827億香港ドル、2位の通信・音響機器(12.0%)が3.6%増の5,436億香港ドル、3位の事務用機器・データ処理機(11.9%)が32.7%増の5,415億香港ドルとなった。

輸入を国・地域別でみると、1位は引き続き中国本土(構成比43.6%)で前年比6.0%増の2兆1,447億香港ドル、2位は台湾(11.3%)で5.9%増の5,570億香港ドル、3位はシンガポール(7.9%)で18.2%増の3,897億香港ドルとなった。日本(4.6%)は2.5%増の2,270億香港ドルで4位だった。輸入を品目別にみると、1位の電気機器・同部品(構成比44.7%)が前年比8.6%増の2兆1,984億香港ドル、2位の通信・音響機器(11.2%)が0.4%減の5,531億香港ドル、3位の事務用機器・データ処理機(9.1%)が37.9%増の4,459億香港ドルとなった。

香港は原則輸入関税がかからない自由貿易港であり、中継貿易拠点としての機能を果たしてきた。国際空港評議会(ACI)の統計によれば、2024年の香港国際空港の貨物取扱量は前年比14.1%増の494万トンで、上海浦東国際空港(中国本土)を抑えて世界トップの地位を維持した。また、2024年11月には香港国際空港の3本目となる北滑走路の運用を開始した。空港の稼働能力拡大により、国際ハブ空港としてさらなる取扱貨物量の増加を見込んでいる。他方、港湾貨物取扱量は、前年比1.0%増の1億7,669万トンで、2019年以来5年ぶりに増加に転じたものの、ピーク時の2014年と比較すると約4割減の水準にとどまる。近年では、香港港は深セン市、広州市など周辺の中国本土華南地域の港との競争が激化しているほか、輸送コスト、人件費、倉庫料などの上昇も指摘される。

表2-1 香港の主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 1,983,772 2,182,692 48.1 10.0
通信・音響機器 524,715 543,594 12.0 3.6
事務用機器・データ処理機 408,062 541,541 11.9 32.7
雑製品 243,391 232,636 5.1 △ 4.4
非金属鉱物製品 162,129 136,250 3.0 △ 16.0
専門・科学・制御機器 139,353 146,850 3.2 5.4
電動機 106,446 126,009 2.8 18.4
撮影器具・光学機器・時計 97,753 97,072 2.1 △ 0.7
非鉄金属 75,993 70,071 1.5 △ 7.8
衣類・同付属品 51,167 49,298 1.1 △ 3.7
合計(その他含む) 4,177,405 4,542,371 100.0 8.7

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表2-2 香港の主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 2,023,835 2,198,416 44.7 8.6
通信・音響機器 555,152 553,080 11.2 △ 0.4
事務用機器・データ処理機 323,461 445,894 9.1 37.9
雑製品 318,829 310,566 6.3 △ 2.6
非金属鉱物製品 168,914 137,231 2.8 △ 18.8
電動機 150,411 164,743 3.3 9.5
専門・科学・制御機器 132,235 138,293 2.8 4.6
撮影器具・光学機器・時計 107,090 104,473 2.1 △ 2.4
石油、石油製品および関連物 81,504 83,757 1.7 2.8
非鉄金属 63,866 73,482 1.5 15.1
合計(その他含む) 4,644,991 4,922,101 100.0 6.0

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表3 香港の主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア 3,203,643 3,578,051 78.8 11.7 3,886,385 4,192,213 85.2 7.9
階層レベル2の項目日本 84,398 80,656 1.8 △ 4.4 221,499 226,970 4.6 2.5
階層レベル2の項目中国 2,320,368 2,681,658 59.0 15.6 2,022,317 2,144,663 43.6 6.0
階層レベル2の項目韓国 73,706 68,816 1.5 △ 6.6 223,626 287,096 5.8 28.4
階層レベル2の項目台湾 138,842 140,415 3.1 1.1 525,905 556,972 11.3 5.9
階層レベル2の項目ASEAN 331,370 393,426 8.7 18.7 800,374 896,203 18.2 12.0
階層レベル3の項目シンガボール 65,138 67,136 1.5 3.1 329,557 389,673 7.9 18.2
階層レベル3の項目マレーシア 37,001 44,488 1.0 20.2 149,754 165,884 3.4 10.8
階層レベル3の項目インドネシア 17,723 20,069 0.4 13.2 19,555 17,180 0.3 △ 12.1
階層レベル3の項目タイ 64,819 77,017 1.7 18.8 85,571 81,386 1.7 △ 4.9
階層レベル3の項目ベトナム 111,878 144,409 3.2 29.1 133,742 164,158 3.3 22.7
階層レベル3の項目フィリピン 28,408 33,668 0.7 18.5 79,341 74,686 1.5 △ 5.9
階層レベル2の項目インド 167,022 137,022 3.0 △ 18.0 76,131 63,995 1.3 △ 15.9
オーストラリア・大洋州 31,146 29,955 0.7 △ 3.8 19,388 20,280 0.4 4.6
階層レベル2の項目オーストラリア 26,856 26,058 0.6 △ 3.0 14,847 14,999 0.3 1.0
欧州 344,698 323,735 7.1 △ 6.1 372,355 347,427 7.1 △ 6.7
階層レベル2の項目EU 273,732 275,674 6.1 0.7 236,655 217,904 4.4 △ 7.9
階層レベル2の項目英国 59,959 48,848 1.1 △ 18.5 69,754 72,601 1.5 4.1
中東 136,600 129,547 2.9 △ 5.2 71,924 59,153 1.2 △ 17.8
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 117,610 112,356 2.5 △ 4.5 52,029 42,506 0.9 △ 18.3
北米 286,024 307,854 6.8 7.6 208,041 213,568 4.3 2.7
階層レベル2の項目米国 272,476 295,571 6.5 8.5 199,708 206,101 4.2 3.2
アフリカ 26,248 28,211 0.6 7.5 20,179 18,501 0.4 △ 8.3
中南米 74,134 82,957 1.8 11.9 31,990 41,330 0.8 29.2
階層レベル2の項目ブラジル 12,967 15,648 0.3 20.7 9,745 11,200 0.2 14.9
合計(その他含む) 4,177,405 4,542,371 98.6 8.7 4,644,991 4,922,101 99.4 6.0

〔注〕湾岸協力会議(GCC)諸国は、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦を加えた合計値。
〔出所〕香港特別行政区政府統計処 Interactive Data Dissemination Service for Trade Statistics (Trade-IDDS)

通商政策 
ペルーとのFTAが新たに発効、RCEP加盟を引き続き希望

香港は、2024年11月にペルーとの間で締結したFTAが新たに発効したほか、中国本土、ニュージーランド、欧州自由貿易連合(EFTA)、チリ、マカオ、ジョージア、ASEAN、オーストラリアとのFTAが発効している(2025年6月時点)。

2022年1月に発効した地域的な包括経済連携(RCEP)協定について、香港政府は同月中旬、同協定への加盟を申請したとされる。RCEP加盟後には、連続する原産地証明(Back to Back Proof of Origin)が香港で発給可能となる。例えば、中国原産貨物を中継地である香港で分割し輸出する際、香港において分割貨物ごとに原産地証明の発給が可能となり、輸入国で特恵税率の適用を受けることができる。香港の中継貿易機能が強化され、香港の価値向上につながることが期待される。

表4 香港のFTA発効・署名・交渉状況
FTA 発効日 香港 の貿易に占める構成比(2024年)
往復 輸出 輸入
発効済み 中国 2004.1.1(CEPA)
2018.1.1(IA)
2017.6.28(Ecotech Agreement)
51.0 59.0 43.6
ニュージーランド 2011.1.1 0.1 0.1 0.1
欧州自由貿易連合(EFTA) 2012.10.1、2012.11.1 0.9 0.6 1.2
チリ 2014.10.9 0.2 0.1 0.2
マカオ 2017.10.27 0.8 1.4 0.3
ジョージア 2019.2.13
ASEAN 2021.2.12 13.6 8.7 18.2
オーストラリア 2020.1.17 0.4 0.6 0.3
ペルー 2024.11.15 0.1 0.1 0.1
合計 67.0 70.5 63.9

〔注1〕構成比については、輸出は地場輸出(再輸出は含まない)、輸入は輸入総額を使用。
〔注2〕中国とは「経済貿易緊密化協定(CEPA)」およびサービス貿易協定、投資協定(IA)、経済技術協力協定(Ecotech Agreement)を締結。
〔注3〕ニュージーランドとは「経済連携緊密化協定(CEPA)」を締結。
〔注4〕EFTA加盟国のうちアイスランド、リヒテンシュタイン、スイスとのFTAは2012年10月1日、ノルウェーとのFTAは2012年11月1日にそれぞれ発効。
〔注5〕EFTAの構成比はアイスランド、リヒテンシュタイン、スイスおよびノルウェーの合計。
〔出所〕香港工業貿易署

対内直接投資 
対内直接投資額は前年に続き2桁増

香港の対内・対外直接投資統計(国際収支ベース、ネット、フロー)は、2025年6月時点では2023年の数値が最新となっている。

2023年の香港への対内直接投資額は前年比12.1%増の9,626億香港ドルに増加した。国・地域別では、6年連続で1位となった中国本土(構成比40.1%)からが22.2%増の3,858億香港ドル、2位の英領バージン諸島(31.7%)は60.8%増の3,052億香港ドル、3位のケイマン諸島は30.8%増の829億香港ドル、4位の米国は33.0%増の616億香港ドル、日本(7位)は2.4倍の189億香港ドルだった。

業種別では、投資持ち株会社・不動産・専門家・商業サービスが1位で前年から11.9%増の5,649億香港ドル(構成比58.7%)、2位の貿易・卸・小売りは50.1%増の1,412億香港ドル(14.7%)、3位の銀行は17.5%減の833億香港ドルだった。

香港は、自由な資本移動、国際的な物流機能、低税率、国際色豊かな人材などを提供している。中国商務部が公表する2023年の中国の対外直接投資額(フロー)1,773億ドルのうち、香港の構成比は61.4%と引き続き大きなシェアを維持していることから、香港は依然として中国企業の海外展開における重要なプラットフォームとしての役割を担っていることがうかがえる。

表5 香港の国・地域別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 315.8 385.8 40.1 22.2
英領バージン諸島 189.8 305.2 31.7 60.8
ケイマン諸島 63.4 82.9 8.6 30.8
米国 46.3 61.6 6.4 33.0
カナダ 1.9 27.1 2.8 1326.3
バミューダ 55.9 26.6 2.8 △ 52.4
日本 7.8 18.9 2.0 142.3
台湾 9.1 5.1 0.5 △ 44.0
シンガポール 32.9 4.2 0.4 △ 87.2
英国 81.3 △ 2.7
合計(その他含む) 859.0 962.6 100.0 12.1

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表6 香港の業種別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
投資持ち株会社・不動産・専門家・商業サービス 504.7 564.9 58.7 11.9
貿易・卸・小売り 94.1 141.2 14.7 50.1
銀行 101.0 83.3 8.7 △ 17.5
保険 71.8 38.4 4.0 △ 46.5
建設 30.3 35.6 3.7 17.5
輸送・保管・郵便・宅配便サービス 63.9 33.1 3.4 △ 48.2
情報・通信 7.0 29.6 3.1 322.9
金融(銀行・投資持ち株会社を除く) △ 21.9 17.9 1.9
その他 8.6 8.4 0.9 △ 2.3
製造業 △ 0.2 6.3 0.7
ホテル・飲食 △ 0.3 4.1 0.4
合計(その他含む) 859.0 962.6 100.0 12.1

〔注〕四捨五入のため、数字の合計が一致しない場合がある。
〔出所〕香港特別行政区政府統計処

対外直接投資 
対外直接投資額は前年比9%弱減少、中国向けが引き続き過半

2023年の対外直接投資額は、前年比8.6%減の7,607億香港ドルとなった。

国・地域別では、中国への投資(構成比53.0%)が前年比18.4%減の4,029億香港ドルと減少したものの、14年連続で首位となった。2位は英領バージン諸島で53.3%減の1,164億香港ドル(15.3%)、3位はバミューダで前年の83億香港ドルの引き上げ超過から412億香港ドルとなり、4位は英国で前年の469億香港ドルの引き上げ超過から120億香港ドルとなった。日本は5位で69.3%減の101億香港ドルだった。

業種別でみると、構成比が最大(61.9%)の投資持ち株会社・不動産・専門家・商業サービスが前年から前年比20.4%減の4,708億香港ドル、2位が貿易・卸・小売りで9.4%増の1,216億香港ドル(16.0%)、3位は銀行で26.2%増の467億香港ドルとなった。

2023年の対中国投資について個別案件をみると、香港の不動産投資会社である基滙資本(Gaw Capital Partners)は、同年4月、広東省広州市にあるアウトレットショッピングモールである「広州佛羅倫斯小鎮(Florentia Village Guangzhou)」の買収を完了したと発表した。また、香港の領展房地産投資信託基金(Link Real Estate Investment Trust)は、同年4月および5月に上海やその他周辺都市からの物流需要に対応可能である江蘇省常熟市にある常熟南倉庫と常熟北倉庫の取得を完了したと発表した。いずれの案件も買収額については示されていない。

そのほかの対外投資案件としては、太古地産(Swire Properties)が2023年2月、バンコク中心業務地区であるパトゥムワン地区のワイヤレスロードに位置する土地の権益を40%取得した。取得額は約5億7,000万香港ドル。また、基滙資本が米国投資会社KKRと共同でハイアットリージェンシー東京を小田急電鉄より取得することで合意した。取得額は約600億円である。

表7 香港の国・地域別対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 493.5 402.9 53.0 △ 18.4
英領バージン諸島 249.5 116.4 15.3 △ 53.3
バミューダ △ 8.3 41.2
英国 △ 46.9 12.0
日本 32.9 10.1 1.3 △ 69.3
米国 18.1 6.8 0.9 △ 62.4
オーストラリア 6.4 3.1 0.4 △ 51.6
ケイマン諸島 22.4 0.8 0.1 △ 96.4
シンガポール 13.1 △ 3.8
タイ 2.1 △ 5.9
合計(その他含む) 831.9 760.7 100.0 △ 8.6

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表8 香港の業種別対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
投資持ち株会社・不動産・専門家・商業サービス 591.5 470.8 61.9 △ 20.4
貿易・卸・小売り 111.2 121.6 16.0 9.4
銀行 37.0 46.7 6.1 26.2
保険 22.2 40.6 5.3 82.9
輸送・保管・郵便・宅配便サービス 61.6 39.5 5.2 △ 35.9
製造業 32.8 23.7 3.1 △ 27.7
建設 6.5 19.4 2.6 198.5
その他 △ 6.6 16.5 2.2
ホテル・飲食 5.2 5.5 0.7 5.8
情報・通信 △ 18.1 4.2 0.6
金融(銀行・投資持ち株会社を除く) △ 11.4 △ 27.9
合計(その他含む) 831.9 760.7 100.0 △ 8.6

〔注〕四捨五入のため、数字の合計が一致しない場合がある。
〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表9 香港の主な対外直接投資案件(2023年)
業種 企業名 投資国・地域 時期 投資額 概要
不動産 領展房地産投資信託基金
(Link Real Estate Investment Trust)
シンガポール 2023年3月 約21億6,100万シンガポールドル シンガポールの郊外型商業施設であるジュロンポイントとスイングバイ・トムソンプラザの2つの物件をNTUCエンタープライズ協同組合の子会社マーカタス・コーペラティブ・リミテッドから取得。
基滙資本 (Gaw Capital Partners) 日本 2023年3月 約600億円 米国投資会社KKRと共同でハイアットリージェンシー東京を小田急電鉄より取得することで合意。
基滙資本 (Gaw Capital Partners) 中国
広東省広州市
2023年4月 n.a. 広州市にあるアウトレットモール「広州佛羅倫斯小鎮(Florentia Village Guangzhou)」の買収を完了。
太古地産(Swire Properties) タイ
バンコク
2023年2月 約5億7,000万香港ドル バンコクの中心業務地区であるパトゥムワン地区のワイヤレスロードに位置する土地権益の40%を取得。地元デベロッパーと共同開発予定。
物流 領展房地産投資信託基金
(Link Real Estate Investment Trust)
中国
江蘇省常熟市
2023年4月および5月 n.a. 上海やその他周辺都市からの物流需要に対応可能な常熟市の常熟南倉庫と常熟北倉庫の取得を完了。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

投資環境・外資誘致政策 
積極的な投資環境の整備、人材誘致に向け要件緩和

2023年に引き続き、2024年も香港政府は投資、人材誘致、企業誘致に注力した。 香港政府は2024年10月の施政報告(施政方針演説)で、主に、「国際金融・海運・貿易センターとしての地位の確固・強化」、「現地に合わせた『新たな質の生産力(注)』の開発」、「国際人材ハブへ」についての演説を行っている。

〔注〕
中国中央電視台の解説では、技術の革命的なブレークスルー、生産要素のイノベーティブな配置、産業の深い転換・レベルアップにより生み出される先進生産力とされる。

投資環境については、国際的な科学技術センターとして研究費の増額、投資拡大を行い、生命・健康技術、人工知能(AI)・ロボット、半導体・スマートデバイス、先端材料、新エネルギー分野に100億香港ドルのファンド・オブ・ファンズを設立するとした。また、低空経済発展のため、ドローンを活用した配送、調査、ビルメンテナンス、空撮、救助などへの応用や関連規制の改正、中国本土間との飛行ルートの共同開設や出入境管理、税関・検疫手続きなどの出入境手続きを一括して行うとした。

高度人材誘致については、「トップタレント・パススキーム」の適用範囲を拡大(対象大学を198大学に拡大、同スキームの最初のビザ期間を2年から3年に延長)するとし、投資促進を目的とした投資移民制度「新資本投資参入者スキーム」において、5,000万香港ドル以上の物件であれば住宅用不動産も投資対象として許可するとし、従来の条件を緩和した。

香港政府統計処が2024年12月に発表した「2024年の香港域外企業の在香港拠点に関する調査報告」によると、香港域外に親会社を有する香港域外企業が香港に設置している拠点数は、同年6月時点で前年比10.2%増の9,960社と過去最多(2023年は9,039社)になった。「地域統括本部(香港およびその他1カ所以上の地域の拠点を管轄する権限を有する)」、「地域拠点(香港およびその他1カ所以上の地域の拠点を運営または調整する機能を有する)」、「現地拠点(香港のみの業務を担当する)」のいずれも増加しており、香港政府の企業誘致が進んでいることがうかがわれる。しかし、域外企業からは、家賃や人件費などの上昇による事業費コストの増加を指摘する声は引き続き多い。ジェトロなどが現地進出日系企業に対して実施した「香港を取り巻くビジネス環境にかかるアンケート調査(第15回、2025年1月実施)」でも、1年前と比較した香港のビジネス環境について「事業コスト」と「人材確保」の面で「悪化した」との回答割合がそれぞれ41.1%、28.1%に上った。

対日関係 
日本の農林水産物・食品の輸出額は2年ぶりに減少

香港政府統計処のデータによると、2024年の対日貿易は輸出が前年比4.4%減の807億香港ドル、輸入は2.5%増の2,270億香港ドル、対日貿易収支は1,463億香港ドルの赤字となった。

品目別でみると、輸出は電気機器・同部品が前年比14.3%減の178億香港ドル(構成比22.0%)、通信・音響機器が1.6%減の143億香港ドル(17.8%)、事務用機器・データ処理機は25.1%減の91億香港ドル(11.3%)と、上位3品目でいずれも2023年に引き続き減少した。輸入では全体の4割超を占める電機機器・同部品が14.6%増の995億香港ドル、次にシェアが大きい撮影器具・光学機器・時計など(6.8%)が1.7%減の155億香港ドルであった。2023年は2位であった通信・音響機器(6.5%)は3位に後退し、13.9%減の148億香港ドルだった。

農林水産省が公表した「2024年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」によると、2024年の日本の農林水産物・食品の香港向け輸出額は、前年比6.6%減の2,210億円(構成比15.7%)と減少した。上位10品目のうち前年から増加したのは、3位のアルコール飲料(9.6%増、103億円)、6位の清涼飲料水(20%増、84億円)など。アルコール飲料は、香港政府が2024年10月に、アルコール度数30%超の酒類1本当たりの輸入額が200香港ドルを超える部分の物品税引き下げを行ったことから、高アルコール度数飲料の輸出が増加したと考えられる。また、清涼飲料水では同品目に占める緑茶の構成比が増加しており、日本食への関心や健康志向の高まりが輸出を後押ししていると考えられる。

香港は、2020年まで16年連続で日本にとって最大の農林水産物・食品の輸出先だったが、その後は2位で推移しており、2024年も米国に次ぐ2位となった。

香港政府は2023年8月23日、日本が東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の放出を24日から開始することに伴い、規制対象となる10都県(東京都、福島県、千葉県、栃木県、茨城県、群馬県、宮城県、新潟県、長野県、埼玉県)の水産物の輸入禁止措置を24日から開始すると発表した。2025年6月時点で、本規制は解除されていない。

直接投資については、日本側統計では、2024年の日本から香港向けの直接投資額(対外直接投資額)は前年比2.6倍の2,169億円、香港の対日直接投資額(対内直接投資額)は53.5%増の4,375億円となった。

対外直接投資額を業種別でみると、卸売・小売業が前年比14.8倍の442億円で、前年に続き増加した。日系企業の香港ビジネスの展開事例でも卸売・小売業の出店が活発である。飲食では2024年8月に「牛めし・定食の松屋」1号店、12月に「鳥貴族」1号店が開店したほか、小売では11月に「金子眼鏡店」1号店が営業を開始した。

表10-1 香港の対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 20,743 17,781 22.0 △ 14.3
通信・音響機器 14,548 14,319 17.8 △ 1.6
事務用機器・データ処理機 12,177 9,124 11.3 △ 25.1
その他の雑製品 7,231 7,843 9.7 8.5
撮影器具・光学機器・時計など 5,376 5,541 6.9 3.1
電動機 4,388 4,914 6.1 12.0
非金属鉱物製品 4,164 3,758 4.7 △ 9.7
専門・科学・制御機器 3,412 3,045 3.8 △ 10.8
衣類・同付属品 1,643 1,824 2.3 11.0
非鉄金属 1,549 1,534 1.9 △ 1.0
合計(その他含む) 84,398 80,656 100.0 △ 4.4

〔出所〕 香港特別行政区政府統計処

表10-2 香港の対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 86,877 99,532 43.9 14.6
撮影器具・光学機器・時計など 15,768 15,494 6.8 △ 1.7
通信・音響機器 17,240 14,849 6.5 △ 13.9
その他の雑製品 15,406 11,047 4.9 △ 28.3
事務用機器・データ処理機 7,465 8,047 3.5 7.8
電動機 7,740 7,882 3.5 1.8
非金属鉱物製品 9,236 6,108 2.7 △ 33.9
専門・科学・制御機器 5,982 5,121 2.3 △ 14.4
非鉄金属 3,734 4,040 1.8 8.2
石油、石油製品および関連物 1,254 1,265 0.6 0.9
合計(その他含む) 221,499 226,970 100.0 2.5

〔出所〕 香港特別行政区政府統計処

表11 日本から主な香港向け対内直接投資案件(2024年)
業種 企業名 国籍 時期 概要
飲食 松屋フーズホールディングス 日本 2024年8月 「牛めし・定食の松屋」の香港1号店を開店
RDCグループ 日本 2024年9月 回転寿司店「がってん寿司」の香港1号店を開店
ダスキン 日本 2024年10月 「ミスタードーナツ」の香港1号店を開店(テイクアウト専門)
物語コーポレーション 日本 2024年10月 ハンバーグ専門店「肉肉大米」の香港1号店を開店
パッションギークス 日本 2024年12月 「うなぎ四代目菊川」の香港1号店を開店。
エターナルホスピタリティグループ 日本 2024年12月 焼鳥「鳥貴族」の香港1号店を開店
小売り コメ兵ホールディングス 日本 2024年4月 香港の連結子会社である BRAND OFF LIMITEDと KOMEHYO HONG KONG LIMITEDを吸収合併し、新統合会社「KOMEHYO BRAND OFF ASIA LIMITED」を設立。
ジャパン・アイウエア・ホールディングス・ホンコン(Japan Eyewear Holdings Hong Kong) 日本 2024年11月 「金子眼鏡店」の香港1号店を開店

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

その他 
中国本土との連携はさらに緊密化、香港の発展にも追い風

香港と中国本土の連携は緊密化が促進される方向である。深セン市と接する元朗区と北区を中心とする「北部都会区」の建設に関しては、2023年10月末に、エリアごとに戦略的な位置づけを設定したと公表されたが、2024年11月に香港政府は深セン市と共同で開発を進める「河套深港(深セン・香港)科学技術イノベーション協力区」の香港園区発展要綱を発表した。同要綱では、香港園区を世界クラスの産学研究開発とパイロット生産拠点、イノベーションとテクノロジー(I&T)リソースのハブに発展させ、香港園区内の円滑な人の移動やドローンを活用した中国本土とのクロスボーダーの物流、資金の移動、データの移動などを深セン市側と検討していく。2025年3月に開かれた中国の第14期全国人民代表大会(全人代)第3回会議で李強首相が行った政府活動報告では、前年と同様に香港政府に対して中国の発展と連携して香港の強みを生かした役割を果たすよう求めたうえで、国際交流・協力を深めることを後押しすると強調した。2025年1月に米国で第2次トランプ政権が発足し、米中対立の先鋭化が懸念される中、中国の対外開放を推進するうえでの国際プラットフォームとしての香港の役割への期待の表れと考えられる。

対外関係では、2024年9月に香港で開催された「一帯一路サミット」で、東南アジアや中東との連携強化が討議されたほか、「一帯一路」構想参画国によるブース出展やビジネスマッチングのイベントも開催された。同サミットで李家超(ジョン・リー)行政長官は、香港が中国と世界を結ぶ「スーパーコネクター」として同構想の実現に積極的な役割を果たすことを強調した。2025年5月には李行政長官が香港および中国本土の企業関係者らを率い、中東諸国を訪問した。香港の国際プラットフォームとしての強みとビジネス機会を各国の政府やビジネス界にPRし、金融、貿易、投資、I&Tなどにおいて中東地域からの投資誘致を図るとともに、中国企業の中東地域への展開を後押しする立場を示した。

米国の相互関税措置に対し、香港政府は改めて香港証券取引所の活用を訴え、より多くの国際資本の呼び込みと国際金融センターとしての香港の強みを高めることを宣言した。2025年に入り、中国の新エネルギー自動車(NEV)大手のBYDによる香港証券取引所での新株発行や中国の車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)の香港証券取引所株式上場(IPO)など、資金調達の場としての香港の役割が発揮され始めた。また、香港政府は、米国に対する報復関税は行わず自由貿易政策を実施し、自由貿易港としての地位を維持することやその重要性を強調した。厳しい外部環境にあっても、中国本土と海外を結ぶ自らの役割を活用しつつ、その優位性を維持し、さらに発展させようとする香港政府の動きに今後も注目したい。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) △ 3.7 3.2 2.5
1人当たりGDP (1,000米ドル) 48.00 50.62 54.03
消費者物価上昇率 (%) 1.9 2.1 1.7
失業率 (%) 4.3 2.9 3.0
貿易収支 (100万香港ドル) △ 395,818 △ 467,585 △ 379,731
経常収支 (100万香港ドル) 286,089 253,103 410,054
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 423,904 425,416
対外債務残高(グロス) (100万香港ドル) 13,893,501 14,420,623 14,830,021
為替レート (1米ドルにつき、香港・ドル、期中平均) 7.83 7.83 7.80


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
経常収支:2023年および2024年は暫定値。
対外債務残高(グロス):2024年は暫定値。
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):香港特別行政区政府統計処
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF