ASEANの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年の東南アジアの経済成長率は5.6%で新型コロナからの回復傾向が顕著。
  • ASEANの対内直接投資は伸長。2021年に引き続き2,000億ドル超を記録。
  • カナダとのFTA交渉が進展、2025年交渉完了を目指す。
  • 日本との貿易は前年比増、日本の対ASEAN投資は前年比減少。

更新日:2023年12月18日

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マクロ経済 
2022年の東南アジア経済は5.6%成長

アジア開発銀行(ADB)によると、2022年の東南アジア地域の経済成長率は5.6%となり、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染症が拡大した2020年~2021年からの回復傾向が鮮明となった。2021年中は、東南アジア各国では7月から9月にかけて新型コロナの感染が拡大し、国によっては事業活動を停止せざるを得ないなど影響があった。しかし、2022年になると各国で移動制限措置が緩和されるなど、市民生活や事業活動において正常化が進み、消費活動も活発化した。

IMFによる各国の経済成長率をみると、マレーシアが8.7%、ベトナムが8.0%、フィリピンが7.6%と、特に高成長がみられた。これらの国では、前年からの反動もあり、民間消費、設備投資とも活発化した。マレーシアやベトナムでは、電気・電子部品の輸出増や、関連産業による直接投資がみられた。また、インドネシア(5.3%)とカンボジア(5.3%)も好調であった。

他方、シンガポール(3.7%)、タイ(2.6%)、ラオス(4.4%)、ミャンマー(3.5%)は、上記の国々に比べて低成長にとどまった。シンガポールは2022年下期から製造業をはじめ成長に陰りがみられた。タイについても内需・外需とも振るわず、見通しを下回る結果となった。ラオスは物価の高騰、通貨安などにより購買力が低下し、農業・工業とも減速した。ミャンマーは2021年2月の国軍による権力掌握以降、外資企業の撤退や経済活動の低調さがみられている。

表1 ASEANの実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
ASEAN5 4.0 5.5
階層レベル2の項目インドネシア 3.7 5.3 5.0 5.5 5.7 5.0 5.0 5.2
階層レベル2の項目マレーシア 3.3 8.7 4.8 8.8 14.1 7.1 5.6 2.9
階層レベル2の項目フィリピン 5.7 7.6 8.0 7.5 7.7 7.1 6.4 4.3
階層レベル2の項目シンガポール 8.9 3.7 4.0 4.5 4.0 2.1 0.4 0.5
階層レベル2の項目タイ 1.5 2.6 2.2 2.5 4.6 1.4 2.6 1.8
ブルネイ △ 1.6 △ 1.6 △ 3.5 △ 3.2 1.9 △ 1.6 0.8
カンボジア 3.0 5.3
ラオス 3.5 4.4
ミャンマー △ 2.9 3.5 3.5 3.1 3.7 3.5
ベトナム 2.6 8.0 5.1 7.8 13.7 5.9 3.3 4.1

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕国際通貨基金(IMF)、CEIC

2023年の東南アジア経済は当初見通しよりもネガティブに

2023年の東南アジア経済については、各国で成長の減速がみられる。主要国の統計から、四半期ごとの経済成長率(前年同期比)をみると、タイは2023年第1四半期が2.6%、第2四半期は1.8%、第3四半期は1.5%と、当初期待していた3%台を下回っている。また、ベトナムも目標は6%成長であったが、第1四半期は3.3%、第2四半期は4.1%、第3四半期は5.3%となった。通年で4.8%を目標としていたマレーシアは、第1四半期は5.6%と好調であったが、第2四半期は2.9%、第3四半期は3.3%とブレーキがかかっている。

2023年の東南アジア経済の見通しについては、ADBは同年 4 月時点で4.7%としていたが、 9 月の改定版では4.6%へと引き下げた。ADBは、インフレ率の上昇と金融引き締め、物品の主要輸出市場における需要の減退により、ほとんどの国で経済が減速していると指摘している。他方、堅調な内需、観光業を中心とするサービス産業の回復が、雇用・所得の見通しを改善させ、成長率の維持に貢献していることを指摘している。

ADBの見通しでは、ベトナムは6.5%から5.8%へ、マレーシアは4.7%から4.5%、シンガポールは2.0%から1.0%へと引き下げられたほか、カンボジア(5.5%→5.3%)やラオス(4.0%→3.7%) も下方修正された。いずれの国も、米国や中国などの主要輸出先での需要減退が影響しており、各国の電気・電子機器や衣料品といった主要輸出品目の縮小がみられている。

貿易 
2022年のASEANの貿易総額は14.9%増

ASEAN事務局の統計データベースである「ASEAN Stats」によると、2022年のASEANの輸出額は、前年比14.1%増の 1 兆9,624億3,900万ドル、輸入額は15.8%増の 1 兆8,845億7,000万ドルと、前年に引き続き2桁増となった。貿易総額は14.9%増の 3 兆8,470億900万ドルに拡大した。

相手国・地域別にみると、貿易総額の構成比ではASEAN域内(22.3%)、中国(18.8%)、米国(10.9%)、EU27(7.7%)、日本(7.0%)、韓国(5.8%)の順となった。日本はASEANの対話パートナーとして4番目に大きく、国単位では米中に次ぐ3位の貿易相手となっている。

表2-1 ASEANの主要国・地域別輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
ASEAN 371,980 449,734 22.9 20.9
階層レベル2の項目シンガポール 72,827 89,742 4.6 23.2
階層レベル2の項目マレーシア 73,423 89,739 4.6 22.2
米国 256,300 290,964 14.8 13.5
中国 281,813 290,715 14.8 3.2
EU27 152,891 176,463 9.0 15.4
日本 114,820 133,168 6.8 16.0
香港 114,634 114,664 5.8 0.0
韓国 68,868 80,857 4.1 17.4
インド 53,876 70,614 3.6 31.1
合計(その他含む) 1,719,736 1,962,439 100.0 14.1

〔出所〕ASEAN Stats

表2-2 ASEANの主要国・地域別輸入(CIF)(単位:100万ドル、%)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 388,442 431,497 22.9 11.1
ASEAN 339,859 406,844 21.6 19.7
階層レベル2の項目マレーシア 92,306 106,278 5.6 15.1
階層レベル2の項目シンガポール 64,494 80,374 4.3 24.6
階層レベル2の項目タイ 60,985 72,079 3.8 18.2
韓国 120,926 141,941 7.5 17.4
日本 126,519 135,319 7.2 7.0
米国 109,300 129,483 6.9 18.5
台湾 112,403 129,170 6.9 14.9
EU27 116,565 118,775 6.3 1.9
合計(その他含む) 1,627,075 1,884,570 100.0 15.8

〔出所〕ASEAN Stats

輸出を他の相手国・地域別にみると、最大の仕向け地はASEANで、20.9%増の4,497億3,400万ドル(構成比22.9%)であった。域内ではシンガポール向けが23.2%増の897億4,200万ドル、マレーシア向けが22.2%増の897億3,900万ドルと増加した。ASEANに続いて、米国は13.5%増の2,909億6,400万ドル(14.8%)と伸びた一方、中国向けは3.2%増の2,907億1,500万ドル(14.8%)と小幅な伸びにとどまった。日本は構成比で6.8%と、ASEANの輸出市場としてはEUを下回ったが、16.0%増の1,331億6,800万ドルだった。インド向けは31.1%増と前年に引き続き、大幅に拡大した。

輸入を国・地域別にみると、最大の輸入相手は構成比で22.9%を占める中国で、11.1%増の4,314億9,700万ドルだった。続いて21.6%を占めるASEANも、19.7%増の4,068億4,400万ドルと拡大した。マレーシアは15.1%増の1,062億7,800万ドル、シンガポールは24.6%増の803億7,400万ドル、タイは18.2%増の720億7,900万ドルと拡大基調が鮮明となった。韓国からの輸入は17.4%増と堅調で、構成比で7.5%とASEAN Statsで確認できる2003円以降、初めて日本を上回った。日本は7.0%増の1,353億1,900万ドルと小幅な伸びで、構成比は7.2%となった。

通商政策 
カナダとのFTAのほか、改正ACFTAも交渉入り

ASEANが2023年9月現在、締結している自由貿易協定(FTA)としては8協定がある。ASEAN加盟国間のFTAであるASEAN物品貿易協定(ATIGA)のほか、ASEANの対話パートナー(Dialogue Partners)と呼ばれる国や地域とのFTAが存在し、中国、韓国、日本、オーストラリア・ニュージーランド、インド、香港との間で締結している(通称:ASEAN+1 FTA)。これに加えて、中国、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランドを含む形で、2022年1月から地域的で包括的な経済連携(RCEP)協定が発効した。

新たな協定として、カナダ・ASEAN自由貿易協定(ACAFTA)が交渉入りしている。2023年9月25日から29日にかけて、第5回交渉がインドネシアのバリ島で実施された。同年11月に第6回交渉を行う予定であるほか、2024年中にも5回にわたって交渉を行い、2025年に交渉プロセスを完了させる計画となっている。

表3 ASEANのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
状況 FTA 発効日 ASEANの貿易に占める構成比(2022年)
往復 輸出 輸入
発効済み ASEAN物品貿易協定(ATIGA) (旧:ASEAN自由貿易地域(AFTA)形成のための共通効果特恵関税(CEPT)協定) 1993年1月 22.3 22.9 21.6
中国・ASEAN自由貿易協定(ACFTA) 2005年7月 18.8 14.8 22.9
韓国・ASEAN自由貿易協定(AKFTA) 2007年6月 5.8 4.1 7.5
日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP) 2008年12月 7.0 6.8 7.2
ASEANオーストラリア・ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA) 2010年1月 3.0 3.1 2.9
ASEANインド自由貿易協定(AIFTA) 2010年1月 2.9 3.6 2.3
ASEAN香港自由貿易協定(AHKFTA) 2019年6月 3.5 5.8 1.0
地域的で包括的経済連携(RCEP)協定 2022年1月 56.9 51.7 62.1
合計 63.3 61.1 65.4
交渉中 カナダ・ASEAN自由貿易協定(ACAFTA) 0.6 0.7 0.5

〔出所〕ジェトロ作成

ASEANとして締結している多くの協定は、発効からすでに年数を経ており、改定交渉を進めているものが複数ある。ASEANオーストラリア・ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA)については、2022年11月に改正第2議定書が実質的に合意され、2023年8月の第28回ASEAN経済相・オーストラリア・ニュージーランド経済緊密化協定(AEM-CER)会合において、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドが署名した。第2議定書は、オーストラリア、ニュージーランドと、少なくとも4カ国のASEAN加盟国が批准した日の60日後に発効する。締約国で署名や批准書の寄託に向けた国内手続き(国会での承認手続きを含む)を進め、発効は2024年中となる見通しである。改正AANZFTAでは、政府調達、零細・中小企業(MSMEs)、貿易および持続可能な開発に関する3つの章を新たに導入する。

中国・ASEAN自由貿易協定(ACFTA)についても、改正により「ACFTA 3.0」へのアップグレードが予定されている。第2回交渉が2023年4月にバンコクで実施され、2024年中の交渉妥結を目指している。目的としては、市場アクセス阻害措置の解決を含む、さらなる市場自由化や、貿易・投資の促進、ビジネス円滑化などでACFTAのルールを最新の内容に更新するという。また、「サプライチェーン連結性の強化」、「グリーン経済の開発」、「電子形式での貿易・経済の拡大」などといった新たな分野での協力についても、協定内に盛り込まれる見込みだ。

ATIGAについても、12年ぶりとなる改定交渉が始まっており、2024年中に妥結を目指している。ATIGA改定交渉のための第6回貿易交渉委員会(ATIGA-TNC)が、10月3日から6日にかけて、インドネシアのジャカルタで開催されたほか、同委員会に並行して、第4回ATIGA改正交渉も実施された。同交渉では、規格、技術規則、適合性評価手続きに関する作業部会が実施された。その他、韓国・ASEAN自由貿易協定改定に向けた共同研究、ASEANインドFTA改定交渉に向けた準備も進んでいる。

日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)では、原産地証明書の電子化が進展している。2023年7月からマレーシア向けの原産地証明書(フォームAJ)では、専用紙での発給が廃止され、PDFによる電子発給に切り替えが行われた。また、ベトナム向けのフォームAJについても、同年9月から同様にPDF発給に切り替わった。日本とASEANの間では、電子的な形式でのデータ交換(電子原産地証明書:e-CO)についても議論が進展しており、2023年8月にインドネシアのスマランで開催された第29回日ASEAN経済相会合では、取り組みの重要性が確認された。

RCEP協定については、2023年6月2日にフィリピンで発効したことにより、全ての締約国で利用が可能となった。フィリピンでは、RCEP協定が農業部門にマイナスの影響を与えるとの懸念があり、発効までの手続きに必要な上院での合意形成・採決までに時間がかかった。そのため、2020年11月の署名から2年以上を経て発効に至った。タイ商務省によると、同年8月21日にインドネシアのスマランで開催された第2回RCEP閣僚会合は、全ての締約国でRCEP協定が発効して以降、初めての閣僚会合となった(タイ政府の見解による。ASEANのRCEP加盟国はミャンマーに関するRCEP協定発効については各国で判断して決定することとなっている)。会合では、RCEP協定で用いる関税分類の移行(HS2022)や、新たなRCEP加盟国の受け入れプロセスについて話し合われた。現在、香港、スリランカなどがRCEPに参加する意向を正式に表明している。また、「RCEP支援ユニット(RSU)」の設置規定(TOR)や予算が承認された。RSUはASEAN事務局内に設置され、RCEP締約国に協定の確実な履行を促すための支援などを行う予定だ。

ASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)が交渉開始へ

デジタル分野に係る新たな協定として、ASEANは「ASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)」の締結を目指している。ASEANは、DEFAによって、ASEAN域内におけるデジタル貿易のルール・規則を調和させ、域内の電子商取引(EC)市場を2020年の1,050億ドルから2025年には3,000億ドルへ拡大させる一助とするとしている。

DEFAの交渉開始は2023年9月3日の第23回ASEAN経済共同体(AEC)評議会で合意され、9月5日から7日にかけて実施された第43回ASEANサミットにおいて、各国首脳がこれを追認・歓迎した。DEFAの交渉範囲は、デジタル貿易や越境EC、支払いと電子インボイス、デジタルIDと認証、オンライン安全性とサイバーセキュリティー、越境データフローとデータ保護、競争政策、人工知能(AI)など新たなテーマの技術革新や規格・規制の協力や、デジタル人材の流動性と協力などとなっている。

対内直接投資 
2022年のASEANの対内直接投資、日本が2位に浮上

「ASEAN Stats」によると、2022年のASEANへの対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比5.5%増の2,242 億200万ドルとなった。2021年に引き続き、2,000億ドルを超えており、世界のASEANへの投資は伸長している。新型コロナがまん延する前の2010年代の平均(1,266億5,000万ドル)と比べても、約8割増である。

産業別にみると、最大だったのは金融・保険業(構成比28.1%)で、続いて、製造業(27.5%)、卸売・小売業(14.9%)、運輸・倉庫業(10.0%)、情報通信業(4.8%)、不動産業(4.5%)、専門・科学・技術サービス(2.9%)の順だった。

対内直接投資の受け入れ国別にみると、全体の63%をシンガポールが占めた。同国への投資は前年比7.7%増の1,411億8,700万ドルとなった。続いて、インドネシア(構成比9.8%)が4.0%増の219億6,800 万ドルと拡大した。ベトナム(8.0%)は14.3%増の179億ドルで、前年と順位に変化はなかった。マレーシアは40.8%増の170億9,600万ドルと前年に続き大幅に拡大した。他方、タイは 32.1%減の99億4,000万ドル、フィリピンは23.2%減の92億ドルと振るわなかった。

表4 ASEANの対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2019年 2020年 2021年 2022年
金額 金額 金額 金額 構成比 伸び率
ASEAN 166,057 119,754 212,426 224,202 100.0 5.5
階層レベル2の項目シンガポール 97,480 72,932 131,101 141,187 63.0 7.7
階層レベル2の項目インドネシア 23,883 18,591 21,131 21,968 9.8 4.0
階層レベル2の項目ベトナム 16,120 15,800 15,660 17,900 8.0 14.3
階層レベル2の項目マレーシア 7,860 3,185 12,144 17,096 7.6 40.8
階層レベル2の項目タイ 5,519 △ 4,951 14,641 9,940 4.4 △ 32.1
階層レベル2の項目フィリピン 8,671 6,822 11,983 9,200 4.1 △ 23.2
階層レベル2の項目カンボジア 3,663 3,625 3,483 3,579 1.6 2.7
階層レベル2の項目ミャンマー 1,730 2,206 1,005 2,981 1.3 196.6
階層レベル2の項目ラオス 756 968 1,072 636 0.3 △ 40.7
階層レベル2の項目ブルネイ 375 577 205 △ 284 △ 0.1 △ 238.9

〔出所〕ASEAN Stats

投資元を国・地域別でみると、最大だったのは米国(構成比16.3%)で、ASEAN(12.3%)、日本(11.9%)、EU(10.7%)、中国(6.9%)、香港(5.9%)、韓国(5.7%)、英国(4.4%)、台湾(3.1%)の順だった。

米国からの直接投資受入額は前年比3.1%増の365億8,400万ドルとなった。金融・保険業と製造業への投資がほとんどで、金融・保険業は24.2%増の198億3,800万ドル、製造業は37.9%増の198億1,800万ドルだった。他方、専門・科学・技術サービスはマイナス39億8,900万ドルと投資が引き揚げられた。

日本からの投資は27.7%増の267億1,600万ドルと2桁増となった。ASEANを除くと、投資国としては米国に次ぐ2位に浮上した。業種は運輸・倉庫業が74.6%を占めるほか、卸売・小売業も12.5%と多かった。

EUからの投資は14.1%減の240億6,100万ドルだった。構成比でみると、卸売・小売業が47.3%、製造業が41.3%と、2業種で大半を占めた。卸売・小売業は10.9%増の113億8,100万ドル、製造業が31.0%増の99億3,900万ドルだった。

中国からの投資は7.2%減の153億9,900万ドルと、前年の急増からマイナスとなった。製造業への投資が3分の1を占め、36.5%増の51億 5,100万ドルと拡大した。その他、不動産業(25億1,500万ドル)や専門・科学・技術サービス(21億6,500万ドル)が多かった。

対日関係 
ASEANの対日輸入は7.0%増

日本との貿易関係をみると、2022年のASEANの対日輸出は前年比16.0%増の1,331億6,800万ドルとなった。品目別では、構成比で21.9%を占める電気機器・同部品(HS85)が6.3%増の292億2,400万ドル、鉱物性燃料(HS27)は84.1%増の213億4,000万ドルと大幅増となった。インドネシア、マレーシアからの輸出が拡大した。その他、木材・同製品(HS44)は21.8%増の37億7,200万ドル、衣類・同付属品(HS62)は25.5%増の34億4,500万ドルと拡大した。他方、輸送機器・同部品(HS87)は12.1%減の34億2,700万ドルだった。タイからの輸出などが減少しており、日本の国内市場の販売減に伴う需要縮小が原因とみられる。

ASEANの対日輸入は、7.0%増の1,353億1,900万ドルと拡大した。電気機器・同部品が5.0%増の344億4,600万ドル、一般機械が4.0%増の215億3,500万ドルだった。輸送機器・同部品は10.0%増(107億3,600万ドル)で、インドネシア(37.4%増の27億9,100万ドル)やマレーシア(25.0%増の16億1,000万ドル)の輸入が増えた。貴石・貴金属(HS71)は33.6%増の52億8,100万ドルと伸びており、シンガポール(39.7%増の30億9,100万ドル)、タイ(2.5倍の8億5,900万ドル)の輸入増が押し上げた。

表5-1 ASEANの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 27,487 29,224 21.9 6.3
鉱物性燃料 11,589 21,340 16.0 84.1
一般機械 10,362 11,303 8.5 9.1
プラスチック製品 4,663 4,793 3.6 2.8
精密機器 3,778 3,908 2.9 3.5
木材・同製品 3,097 3,772 2.8 21.8
衣類・同付属品 2,745 3,445 2.6 25.5
輸送機器・同部品 3,900 3,427 2.6 △ 12.1
ニット製品 2,919 3,394 2.5 16.3
肉・魚の調整品 2,899 3,151 2.4 8.7
合計(その他含む) 114,820 133,168 100.0 16.0

〔出所〕 ASEANstats

表5-2 ASEANの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 32,794 34,446 25.5 5.0
一般機械 20,714 21,535 15.9 4.0
鉄・鉄鋼 12,668 12,538 9.3 △ 1.0
輸送機器・同部品 9,757 10,736 7.9 10.0
プラスチック製品 6,524 6,292 4.6 △ 3.6
貴石・貴金属 3,951 5,281 3.9 33.6
精密機器 5,005 5,277 3.9 5.4
鉱物性燃料 2,445 5,146 3.8 110.5
鉄鋼製品 3,443 3,475 2.6 0.9
銅・同製品 3,245 3,366 2.5 3.7
合計(その他含む) 126,519 135,319 100.0 7.0

〔出所〕 ASEANstats

日本銀行の2022年の日本の対外直接投資統計によると、同年における日本の対ASEAN直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比9.9%減の2兆6,539億円だった。日本の対外直接投資(世界全体)が31.8%増の21兆2,330億円と増加基調にある中、ASEANへの投資は一服した格好となった。日本の対外直接投資全体に占める構成比では、ASEANは11.7%と最大の米国(36.9%)に比べて3分の1程度だったが、中国(5.2%)の2.4倍の規模となった。

ASEAN各国別でみると、最大の直接投資先となったのはタイで、前年比約2.3倍の7,757億円だった。次いで、シンガポールが58.9%減の7,035億円、ベトナムが9.4%減の3,769億円の順となった。インドネシアは2.3倍の3,344億円、フィリピンは2.5倍の2,094億ドルと大幅に増加した一方、マレーシアは1.3%増の2,233億円とほぼ横ばいだった。ミャンマーへの投資はマイナス9億円と、引き揚げ超過に転じた。

業種別でみると、ASEAN全体では非製造業への投資が66%を占めた。卸売・小売業はシンガポール向けを中心に増加し、前年比4.5倍の6,255億円となった。また、金融・保険業はタイを中心に拡大し、53.2%増の5,543億円だった。製造業では、電気機器が93.2%増の2,011億円と多く、鉄・非鉄・金属(2.4倍、1,649億円)、化学・医薬(86.5%減、1,518億円)などが続いた。