モザンビークの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年の成長率は1.9%、総選挙後の国内情勢混乱により経済成長が減速。
  • 輸出は横ばい、輸入の減少により貿易赤字は改善。
  • 対内直接投資は例年同様に天然ガス、石炭などの採掘産業向けが大半。
  • 日本からの輸出は前年比9.1%増、日系企業も天然ガス開発や医薬品市場へ参入。

公開日:2025年10月17日

マクロ経済 
総選挙後の混乱が経済にも影響、成長率は1.9%に留まる

モザンビークの2024年の実質GDP成長率は1.9%と、政府が同年度の国家予算計画策定時に予測した5.5%を大きく下回った。成長率は第1~第3四半期にかけて前年同期比でそれぞれ3.2%、4.5%、3.7%と好調に推移していたが、第4四半期は一転しマイナス4.9%となった。内政不安が経済に大きく影響を与えたことによる。

モザンビークでは2024年10月9日に5年に一度の総選挙(大統領・国会議員・州議会議員選挙)の投票が行われ、その後、国内情勢が大きく混乱した。大統領選は、独立以来の政権与党である「モザンビーク解放戦線(FRELIMO)」が擁立するダニエル・チャポ候補と、野党系のべナンシオ・モンドラーネ候補による、事実上の一騎打ちとなった。結果的にチャポ候補が勝利し、2025年1月に新政権が発足した(2025年1月14日付ビジネス短信参照)。

しかし、最終結果確定前の10月から12月に至るまでモンドラーネ候補と支持者は、FRELIMOによる得票操作疑惑などを糾弾する全国的な抗議活動を展開した。抗議活動は物理的な道路封鎖やゼネスト、群衆によるデモを伴うもので、物流や人の往来が大きく阻害された。このため、同国経済は第4四半期に大幅な減速を余儀なくされ、通年での低成長につながった。(2025年3月17日付ビジネス短信参照)。

なお、第4四半期の内政混乱にもかかわらず、インフレ率と対ドル為替レート、外貨準備は安定していた。モザンビーク統計局による各月のインフレ率(前年同月比)の推移をみると、最高が4.2%(2024年1月)、最低が2.5%(9月)の幅で変動した。為替レートは年間を通して1ドル=63.9メティカル台、また外貨準備高の輸入カバー率は3.8カ月から4.0カ月分でそれぞれ推移した。

貿易 
輸出は前年からほぼ横ばい、貿易赤字は改善

2024年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比0.8%減の82億1,100万ドル、輸入は8.8%減の83億7,500万ドルだった。貿易収支の赤字額は輸入減少を反映し、2023年の9億300万ドルから1億6,400万ドルに縮小した。

輸入を品目別にみると、上位の機械(構成比16.6%)は前年比14.7%減、ディーゼルやガソリンなど燃料(14.3%)は15.5%減、建築資材(7.5%)は16.8%減と、いずれも前年を大きく下回った。用途別では、石炭・天然ガス開発など外資主導のメガプロジェクト関連の輸入が20.1%増の15億7,010万ドルとなった一方、メガプロジェクト以外の内需向け輸入は13.6%減の68億510万ドルだった。輸入の減少は総選挙後の内政混乱による国内経済の停滞などに起因する。第4四半期の輸入額をみると、第1~第3四半期の平均金額から9.5%減少した。用途別で増減が分かれたのも、内需に依存する国内企業の活動に選挙後情勢が大きく影響したためと考えられる。国・地域別では、電力、自動車、鉄鋼、穀物などの輸入元である南アフリカ共和国(以下、南ア)が20億9,400万ドル(構成比25%)で1位となり、2位の中国(13億6,000万ドル、17%)からはトラクター、重機、農薬などを調達している。燃料、コメ、医薬品などを輸入するインドが5億6,900万ドルで両国に続いた。

次に輸出を品目別にみると、石炭、天然ガス、アルミニウム製品が6割以上を占める構造に変化はない。このうち石炭(構成比24.4%)は、国際価格が下落した影響で前年比約1割減となった。2位の天然ガス(24.0%)は、エリア4コーラル・サウスで生産される液化天然ガス(LNG)の生産量が2024年は約1,736億立方フィートと前年比2割以上の増産となり、輸出を押し上げた(13.9%増)。農業生産物の輸出も増加しており、カシューナッツ(51.1%増)とタバコ(40.9%増)などが高い伸びを示した。国別では石炭、天然ガスの輸出先であるインドが14億6,900万ドル(構成比18.0%)で1位となり、中国が13億4,900万ドル、南アが12億1,000万ドルで続いた。

表1-1 モザンビークの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
石炭 2,226 2,006 24.4 △9.9
天然ガス 1,726 1,967 24.0 13.9
アルミニウム製品 1,262 1,287 15.7 2.0
電力 658 689 8.4 4.6
農業生産物 503 573 7.0 13.9
階層レベル2の項目タバコ 154 217 2.6 40.9
階層レベル2の項目野菜 150 167 2.0 11.7
階層レベル2の項目カシューナッツ 78 117 1.4 51.1
重砂 515 468 5.7 △9.1
合計(その他含む) 8,276 8,211 100.0 △0.8

〔出所〕 モザンビーク中央銀行

表1-2 モザンビークの主要品目別輸入(FOB) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
機械 1,632 1,392 16.6 △14.7
燃料 1,417 1,198 14.3 △15.5
階層レベル2の項目ディーゼル 942 799 9.5 △15.2
階層レベル2の項目ガソリン 348 339 4.1 △2.4
建築資材(セメントを除く) 759 632 7.5 △16.8
コメ 318 441 5.3 38.8
自動車 421 387 4.6 △8.1
医薬品及び試薬 354 255 3.0 △28.1
食用油 266 220 2.6 △17.4
合計(その他含む) 9,180 8,375 100.0 △8.8

〔出所〕 モザンビーク中央銀行

対内直接投資 
天然ガス、石炭など採掘産業向けローンや商業融資が9割弱

2024年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比41.6%増の35億5,270万ドルだった。天然ガス、石炭などの採掘産業への投資が前年比37.0%増の30億9,790万ドル(構成比87.2%)に増加したことが、全体の投資額を底上げした。なお、対内投資総額のうち82.0%にあたる29億1,290万ドルが、採掘産業に代表されるメガプロジェクト向けの「その他の投資」(ローンや商業融資)となっている。国別投資額では、構成比29.0%で南アがトップとなり、オランダが27.8%、モーリシャスが21.0%で続いた。これら上位国の投資分野をみると、採掘産業のほか、製造業(南ア、オランダ)、発電・送電(南ア)、金融(オランダ)、小売・卸売業(モーリシャス)が主な対象業種となっている。

対日関係 
天然ガス開発、医薬品市場参入で日系企業が存在感を示す

2024年の日本の対モザンビーク輸出は前年比9.1%増の1億2,326万ドル、輸入は46.8%減の9,993万ドルとなった。日本からの輸出は、約2割の電気機器が前年比2.7倍と大幅に増加したものの、約45%を占める自動車は10.3%減と振るわなかった。輸入の大幅減は、2023年に輸入品目に加わり全体の半分近くを占めたLNGが、2024年は前年比6割超の減少となったことが主因だが、石炭や非鉄金属鉱、魚介類など幅広い品目で輸入が減少した。

2024年のモザンビークにおける日系企業の事業活動としては、天然ガス開発と医薬品市場への新規参入に注目が集まった。天然ガス開発では、米国エクソンモービル(Exxon Mobil)が主導するエリア4ロブマ鉱区のための陸上LNGプラント建設が動き出し、日揮ホールディングスとフランスのテクニップエナジーズ(Technip Energies)から成るコンソーシアムが、プラント設計や工事に係る見積役務を受注した(2024年10月3日付ビジネス短信参照)。本役務は米国のエンジニアリング会社マクダーモット(McDermott)らによるコンソーシアムも受注しており、2コンソーシアムが競合している。ロブマ鉱区のLNG開発の決定は2026年の最終投資決定発表を待つこととなる。

モザンビークの医薬品市場には、日系商社のグループ企業も参入した。豊田通商の子会社のフランス商社CFAOは2024年11月、ポルトガル製薬大手ビアル(Bial)が保有するモザンビークの医薬品卸会社メドインポート(Medimport)を買収すると発表した。メドインポートはモザンビーク国内約1,200の薬局に対するサービス網を有している。豊田通商はCFAOを通じて2021年からモザンビークの新車市場に進出しており、今回の企業買収により医薬品市場にも参入する。

表2-1 日本の対モザンビーク主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 61,681 55,814 45.3 △ 9.5
階層レベル2の項目自動車 61,408 55,073 44.7 △ 10.3
階層レベル3の項目乗用車 35,661 32,696 26.5 △ 8.3
階層レベル3の項目バス・トラック 25,747 22,376 18.2 △ 13.1
電気機器 8,873 24,083 19.5 171.4
階層レベル2の項目重電機器 18 8,640 7.0 47,900.0
原料品 12,574 17,625 14.3 40.2
原料別製品 18,599 14,910 12.1 △ 19.8
階層レベル2の項目鉄鋼 10,404 9,903 8.0 △ 4.8
階層レベル2の項目ゴム製品 7,609 4,896 4.0 △ 35.7
合計(その他含む) 112,925 123,255 100.0 9.1

〔出所〕 財務省「貿易統計」

表2-2 日本の対モザンビーク主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 113,522 48,332 48.4 △ 57.4
階層レベル2の項目液化天然ガス 88,066 34,057 34.1 △ 61.3
階層レベル2の項目石炭 25,456 14,274 14.3 △ 43.9
原料品 60,224 41,092 41.1 △ 31.8
階層レベル2の項目非鉄金属鉱 14,882 11,781 11.8 △ 20.8
原料別製品 11,727 8,212 8.2 △ 30.0
階層レベル2の項目非金属鉱物製品 8,989 6,255 6.3 △ 30.4
階層レベル2の項目非鉄金属 2,736 1,957 2.0 △ 28.5
食料品 2,340 2,206 2.2 △ 5.7
階層レベル2の項目魚介類 2,180 1,700 1.7 △ 22.0
合計(その他含む) 187,973 99,933 100.0 △ 46.8

〔出所〕 財務省「貿易統計」

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 4.4 5.4 1.9
1人当たりGDP (米ドル) 573 618 630
消費者物価上昇率 (%) 10.4 7.0 3.2
失業率 (%) 3.6 3.5 3.5
貿易収支 (100万米ドル) △ 5,056 △ 903 △ 164
経常収支 (100万米ドル) △ 6,367 △ 2,207 △ 2,498
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 2,709 3,376 3,513
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 10,060 10,227 9,960
為替レート (1米ドルにつき、モザンビーク・メティカル、期中平均) 63.85 63.89 63.91


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、1人当たりGDP、消費者物価上昇率、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
失業率:世界銀行
貿易収支、経常収支:モザンビーク中央銀行
対外債務残高:モザンビーク経済財務省