ジェトロ 2022年度 海外進出日系企業実態調査(ロシア編)―ウクライナ情勢の影響色濃く、「赤字」見込みが過去最高に―

2022年12月07日

ジェトロは2022年9月、ロシアに進出する日系企業に対し、現地での活動実態に関するアンケート調査を実施しました。調査結果の概要については下記のとおりです。

調査結果のポイント

  • ウクライナ情勢に影響を受け、在ロシア日系企業の業績は2013年度の調査開始以降、最悪となる見込み。2022年の営業利益見込みを「赤字」と回答した企業の比率は50.0%と、前年の8.3%から大きく悪化した。2023年の見通しについても2022年に比べ「悪化」が57.4%と過半数を超えた。
  • 今後1~2年の事業展開についても「縮小」が48.3%、「第三国(地域)への移転・撤退」が8.3%と、過去最も悲観的な結果になった。
  • 営業利益の悪化、事業の縮小・撤退の主な理由として、西側諸国による対ロ経済制裁、レピュテーションリスクが挙がった。

本調査について

  • ジェトロは2022年9月14~30日、ロシアに進出する日系企業(日本側出資比率10%以上の法人。駐在員事務所、連絡事務所、現地で日本人が起業した法人は対象外)106社を対象に、アンケート調査を実施。62社より有効回答を得ました(有効回答率58.5%)。
  • 設問項目:
    1.営業利益見通し、2.今後1~2年の事業展開、3.経営上の問題点、4.投資環境上のメリットとリスク、5.ロシアで事業を展開する上での問題点

1. 営業利益見通し

  • ロシアによるウクライナへの軍事侵攻による事業環境の変化は、在ロシア日系企業に大きな影響を与えた。2022年の営業利益見込みを「赤字」と回答した在ロシア日系企業の割合は前年比41.7ポイント増の50.0%と過去最高となった(図1)。「軍事侵攻により事業が停止している」といったコメントがみられた。
  • 「黒字」と回答した企業の割合は38.3ポイント減の35.5%と過去最低。
  • 2022年の営業利益見込みについて、「悪化」を見込む企業は前年比62.7ポイント増の71.0%と過去最高となった(図2)。理由を尋ねたところ、「ウクライナ情勢に起因する売り上げ減」が86.4%で最大であった。次いで、「自国・他国政府の貿易制限措置による影響」を挙げた企業が多かった(45.5%)(図3)。
  • 2023年の営業利益見通しは「悪化」の割合が前年比45.5ポイント増の57.4%と過半数を超えた。

2. 今後の事業展開

  • 今後1~2年の事業展開について「縮小」と回答した企業が48.3%(前年比44.7ポイント増)、「第三国(地域)へ移転・撤退」と回答した企業が8.3%(7.1ポイント増)といずれも過去最高。理由を尋ねたところ、5割近い企業が「自国・他国政府の貿易制限措置による影響」と回答。「日本からロシアへの輸出規制対象品目が拡大し、自社製品をロシアに輸出することが難しくなる」といったコメントがみられた。

3. 経営上の問題点

  • 販売・営業面における問題点について、「取引先からの発注量の減少」(31.1%)が最多(13.2ポイント増)。財務・金融・為替面では「対外送金に関わる規制」(63.3%)が最多(49.5ポイント増)となった。「ロシア側の規制により、現地法人から親会社への配当金の送金が困難になった」などのコメントがみられた。雇用・労働面では「解雇・人員削減に対する規制」(35.0%)が最多(18.3ポイント増)。「事業縮小または拠点閉鎖により解雇費用がかさんでいる」といったコメントがみられた。

4. 投資環境上のメリットとリスク

  • 西側諸国による対ロ経済制裁およびそれに対するロシアの対抗措置の影響を受けていると回答した企業は96.8%にのぼった。「現地市場での売り上げ減少」や「日本本社でのロシアビジネスのプライオリティ低下」、「新規投資の取りやめ」などの事象が生じている。
  • 西側諸国による対ロ経済制裁およびそれに対するロシアの対抗措置の影響を受け、「事業縮小を検討」とする企業が4割を超えた。「両国の輸出入の規制により事業活動へ障害が発生している」といったコメントがみられた。

5. ロシアで事業を展開する上での問題点

  • 自由記述形式での回答では、ロシア政府およびロシアを取り巻く外部環境の問題が指摘された。
  • ロシア政府に関する問題について、政情の不安定さや不信感といったコメントがみられた。外部環境の問題について、ウクライナ情勢の先行きの不透明さ、経済制裁による事業への悪影響、ロシア事業の継続によるレピュテーションリスクなどが挙げられた。

図表

図1 営業利益見込みの推移

図1 2022年の営業利益見込みの経年比較について。各年度の有効回答数は2016年度が83社、2017年度が92社、2018年度が114社、2019年度が101社、2020年度が93社、2021年度が84社、2022年度が62社。 「黒字」と回答した企業について、2016年度が62.7%、2017年度が66.3%、2018年度が72.8%、2019年度が68.3%、2020年度が55.9%、2021年度が73.8%、2022年度が35.5%。 「均衡」と回答した企業について、2016年度が13.3%、2017年度が16.3%、2018年度が14.9%、2019年度が20.8%、2020年度が31.2%、2021年度が17.9%、2022年度が14.5%。 「赤字」と回答した企業について、2016年度が24.1%、2017年度が17.4%、2018年度が12.3%、2019年度が10.9%、2020年度が12.9%、2021年度が8.3%、2022年度が50.0%。

図2 営業利益(前年比)見込みの推移

図2 前年と比較した営業利益見込みの変化の経年比較について。各年度の有効回答数は2016年度が83社、2017年度が92社、2018年度が114社、2019年度が102社、2020年度が92社、2021年度が84社、2022年度が62社。 「改善」と回答した企業について、2016年度が41.0%、2017年度が44.6%、2018年度が47.4%、2019年度が37.3%、2020年度が10.9%、2021年度が63.1%、2022年度が14.5%。 「横ばい」と回答した企業について、2016年度が41.0%、2017年度が41.3%、2018年度が35.1%、2019年度が42.2%、2020年度が41.3%、2021年度が28.6%、2022年度が14.5%。 「悪化」と回答した企業について、2016年度が18.1%、2017年度が14.1%、2018年度が17.5%、2019年度が20.6%、2020年度が47.8%、2021年度が8.3%、2022年度が71.0%。

図3 2022年の営業利益見込みが「悪化」する理由(複数回答)

図3 2022年の営業利益見込みが「悪化」する理由(複数回答)について。有効回答数は合計44社。 それぞれの選択肢について、「ウクライナ情勢に起因する売り上げ減」と回答した人は86.4%。「自国・他国政府の貿易制限措置による影響(関税引き上げや輸出数量規制、制裁、輸入代替等の産業政策など)」と回答した人は45.5%。「物流コストの上昇」と回答した人は20.5%。「ウクライナ情勢に起因するコスト増」と回答した人は15.9%。「為替変動」と回答した人は15.9%。「輸出先が減ったこと(販路縮小)による売上減少」と回答した人は11.4%。「稼働率の低下」と回答した人は11.4%。「現地市場での購買力低下に伴う売上減少」と回答した人は9.1%。「原材料・部品調達コストの上昇」と回答した人は9.1%。「輸出量の減少による売上減少」と回答した人は6.8%。「管理費・燃料費の上昇」と回答した人は6.8%。「新型コロナに起因するコスト上昇」と回答した人は2.3%。「新型コロナに起因する行動制限の影響」と回答した人は2.3%。「人件費の上昇」と回答した人は2.3%。「販売価格への不十分な転嫁」と回答した人は2.3%。「その他」と回答した人は、合計が9.1%、製造業では0%、非製造業では10.8%。

*関税引き上げや輸出数量規制、制裁、輸入代替等の産業政策など
※「悪化」と回答した企業のみ回答。
※「新型コロナに起因する反動減」、「輸出価格(単価)の引き下げによる売り上げ減少」、「現地での生産能力の縮小による、現地市場での売上減少」、「強力な競合他社の出現」と回答した企業はなし。

ジェトロ海外調査部(担当:下社、浅元)
Tel:03-3582-1890