ロシア・ウクライナ情勢下における在欧日系企業アンケート調査結果(2022年9月) ―エネルギー価格の上昇などで8割近くがマイナスの影響―

2022年11月07日

ジェトロは2022年9月1日~26日、欧州に所在する日系企業1,445社に対し、ロシアのウクライナ軍事侵攻に関連して、事業への影響、対応策、懸念点に関するアンケート調査を実施しました。調査結果の詳細は以下のとおりです。

調査結果のポイント

  • ロシアのウクライナ侵攻は、77.0%の在欧日系企業の事業に「マイナスの影響」を与えた。その傾向は特に製造業で83.7%と顕著で、9割を超えた業種もあった。
  • 「マイナスの影響」の具体的内容として多く回答されたのは、「エネルギー価格の上昇」(65.1%)、「原材料・資源価格の上昇」(55.9%)、「物流の混乱・停滞」(54.0%)だった。
  • 調査実施時点での対応策として、在欧日系企業の50.5%が「販売先への価格転嫁」を行っていた。これに「調達先の多様化」(27.5%)、「販売先の開拓」(25.1%)が続いた。製造業では「在庫の積み増し」の対応策をとる割合(29.4%)が高かった。

本調査について

  • 本調査は、2022年度海外進出日系企業実態調査(欧州編)の一部結果を速報としてとりまとめたものである。
  • ジェトロは2022年9月1日~26日、在欧日系企業1,445社を対象にアンケート調査を実施。857社より有効回答を得た(有効回答率59.3%)。
  • 設問項目:1.自社事業への影響(直接的、間接的影響を含む) 2.マイナスの影響の具体的内容 3.現時点での対応策 4.懸念点(自由記述)

調査の結果概要

1.自社事業への影響

  • ロシアのウクライナ侵攻は77.0%の在欧日系企業の事業に「マイナスの影響」を与えた。その影響は、特に製造業で83.7%と顕著だった(図1)。
  • 「マイナスの影響」の回答割合が高かった日系企業の所在国は、ベルギー(92.5%)、フランス(87.5%)、スペイン(86.2%)だった(図2)。
  • 「マイナスの影響」は、製造業を中心に回答の割合が9割を超えた業種もあった。ウクライナからの穀物輸出減少に伴う原材料価格の上昇などの影響があった「食品/農水産加工品」、エネルギーや原材料・部品のコスト高やロシア事業の縮小・停止の影響を受けた「自動車/二輪車」が含まれた(表1)。

2.マイナスの影響の具体的内容

  • ウクライナ侵攻が事業に与えた「マイナスの影響」の具体的内容の上位は、欧州全体、西欧、中・東欧に共通して「エネルギー価格の上昇」、「原材料・資源価格の上昇」、「物流の混乱・停滞」(表2)。

3.現時点での対応策

  • ウクライナ侵攻をふまえた調査実施時点での対応策は、「販売先への価格転嫁」(50.5%)、「調達先の多様化」(27.5%)が上位だった。製造業に絞れば、「在庫の積み増し」の対応策をとる割合(29.4%)が、「販売先の開拓」(18.2%)を上回った(表3)。
  • 業種別にみると、「販売先への価格転嫁」を選んだ割合は、「窯業/土石」が100.0%と最高で、高騰する石油を原材料とする「プラスチック製品」(85.7%)と「ゴム製品」(75.0%)でも高かった。

4.懸念点(自由記述)

  • 懸念点として最も多く挙がったのは、事業に与えた「マイナスの影響」の具体的内容と同じく、「エネルギー価格をはじめとする各種コストの上昇・高どまり」だった。
  • そのほか、戦争の終結時期や対ロシアビジネスの再開可能時期などの目途が立たないといった「長期化、先行き不透明」、および「戦線の拡大、核兵器使用や原発への攻撃」などの懸念が示された。

図表 

図1:ウクライナ侵攻が事業に与えた影響(業種別)

図1 ウクライナ侵攻が事業に与えた影響(業種別)について。欧州全体の全業種(回答者799名)で、「マイナスの影響」は77.0%、「影響なし」は11.5%、「プラスの影響」は3.5%、「わからない」は8.0%。製造業(回答者375人)で、「マイナスの影響」は83.7%、「影響なし」は8.5%、「プラスの影響」は2.4%、「わからない」は5.3%。非製造業(回答者424人)で、「マイナスの影響」は71.0%、「影響なし」は14.2%、「プラスの影響」は4.5%、「わからない」は10.4%。 西欧の全業種(回答者669名)で、「マイナスの影響」は77.0%、「影響なし」は11.8%、「プラスの影響」は3.1%、「わからない」は8.1%。製造業(回答者298人)で、「マイナスの影響」は83.6%、「影響なし」は9.4%、「プラスの影響」は1.7%、「わからない」は5.4%。非製造業(回答者371人)で、「マイナスの影響」は71.7%、「影響なし」は13.7%、「プラスの影響」は4.3%、「わからない」は10.2%。 中・東欧の全業種(回答者130名)で、「マイナスの影響」は76.9%、「影響なし」は10.0%、「プラスの影響」は5.4%、「わからない」は7.7%。製造業(回答者77人)で、「マイナスの影響」は84.4%、「影響なし」は5.2%、「プラスの影響」は5.2%、「わからない」は5.2%。非製造業(回答者53人)で、「マイナスの影響」は66.0%、「影響なし」は17.0%、「プラスの影響」は5.7%、「わからない」は11.3%。

図2:ウクライナ侵攻が事業に与えた影響(国別)

図2 ウクライナ侵攻が事業に与えた影響(国別)について。ベルギー(回答者40名)で、「マイナスの影響」は92.5%、「影響なし」は5.0%、「プラスの影響」は0%、「わからない」は2.5%。フランス(回答者56名)で、「マイナスの影響」は87.5%、「影響なし」は1.8%、「プラスの影響」は1.8%、「わからない」は8.9%。スペイン(回答者29名)で、「マイナスの影響」は86.2%、「影響なし」は10.3%、「プラスの影響」は3.4%、「わからない」は0%。アイルランド(回答者17名)で、「マイナスの影響」は82.4%、「影響なし」は0%、「プラスの影響」は0%、「わからない」は17.6%。チェコ(回答者46名)で、「マイナスの影響」は80.4%、「影響なし」は4.3%、「プラスの影響」は10.9%、「わからない」は4.3%。ドイツ(回答者265名)で、「マイナスの影響」は80.0%、「影響なし」は12.5%、「プラスの影響」は1.5%、「わからない」は6.0%。ハンガリー(回答者30名)で、「マイナスの影響」は80.0%、「影響なし」は10.0%、「プラスの影響」は0%、「わからない」は10.0%。ポーランド(回答者28名)で、「マイナスの影響」は78.6%、「影響なし」は7.1%、「プラスの影響」は7.1%、「わからない」は7.1%。オーストリア(回答者18名)で、「マイナスの影響」は77.8%、「影響なし」は5.6%、「プラスの影響」は5.6%、「わからない」は11.1%。フィンランド(回答者10名)で、「マイナスの影響」は70.0%、「影響なし」は20.0%、「プラスの影響」は10.0%、「わからない」は0%。英国(回答者96名)で、「マイナスの影響」は68.8%、「影響なし」は12.5%、「プラスの影響」は5.2%、「わからない」は13.5%。オランダ(回答者87名)で、「マイナスの影響」は67.8%、「影響なし」は17.2%、「プラスの影響」は5.7%、「わからない」は9.2%。ルーマニア(回答者20名)で、「マイナスの影響」は65.0%、「影響なし」は25.0%、「プラスの影響」は0%、「わからない」は10.0%。イタリア(回答者25名)で、「マイナスの影響」は64.0%、「影響なし」は20.0%、「プラスの影響」は4.0%、「わからない」は12.0%。

(注)スイス、スウェーデン、デンマーク、ポルトガルなどは、回答企業数が10未満であったため非表示。

表1:マイナスの影響 回答率が多かった業種
マイナスの影響(n=615) (単位:社、%)
回答数 割合
1 食品/農水産加工品 23 92.0
2 自動車/二輪車 10 90.9
3 電気・電子機器 18 90.0
4 その他製造業 14 87.5
5 一般機械 44 84.6
5 化学品/石油製品 33 84.6

(注)「ゴム製品」、「窯業/土石」、「プラスチック製品」、「情報通信機器/事務機器」、「非鉄金属」などは、回答企業数が10未満であったため非表示。

表2:ウクライナ侵攻が事業に与えた「マイナスの影響」具体的内容(複数回答、9と10は自由記述)(単位:%)
欧州 西欧 中・東欧
全業種
(n=605)
製造業
(n=311)
非製造業
(n=294)
全業種
(n=507)
製造業
(n=246)
非製造業
(n=261)
全業種
(n=98)
製造業
(n=65)
非製造業
(n=33)
1 エネルギー価格の上昇 65.1 74.6 55.1 63.1 72.4 54.4 75.5 83.1 60.6
2 原材料・資源価格の上昇 55.9 64.6 46.6 54.6 63.8 46.0 62.2 67.7 51.5
3 物流の混乱・停滞 54.0 55.0 53.1 54.8 54.9 54.8 50.0 55.4 39.4
4 ロシアとの輸出入の縮小・停止 45.5 49.5 41.2 47.7 54.5 41.4 33.7 30.8 39.4
5 欧州の景気後退による需要減 34.0 33.8 34.4 33.1 32.5 33.7 38.8 38.5 39.4
6 原材料・部品の調達難 27.3 33.8 20.4 26.4 33.7 19.5 31.6 33.8 27.3
7 ウクライナとの輸出入の縮小・停止 19.7 18.6 20.7 20.5 21.5 19.5 15.3 7.7 30.3
8 経済制裁に伴う決済、代金回収の困難 15.0 13.2 17.0 17.4 16.7 18.0 3.1 0.0 9.1
9 その他 7.1 4.2 10.2 7.1 3.3 10.7 7.1 7.7 6.1
10 ワーカー確保の困難 4.5 3.9 5.1 3.6 2.4 4.6 9.2 9.2 9.1

(注1)赤字は、地域別・業種別の上位3項目。
(注2)「9 その他」:ロシア事業の縮小・停止・撤退、顧客がウクライナ侵攻の影響を受けたことによる受注減、商品・サービスの提供停止またはそれらの質の低下やコスト上昇など。
(注3)「10 ワーカー確保の困難」:ウクライナへの帰国や入国遅延に伴うウクライナ人ワーカーの不足、トラック運転手の不足など

表3:ウクライナ情勢をふまえた現時点での対応策(複数回答、7は自由記述)(単位:%)
欧州 西欧 中・東欧
全業種
(n=501)
製造業
(n=269)
非製造業
(n=232)
全業種
(n=415)
製造業
(n=211)
非製造業
(n=204)
全業種
(n=86)
製造業
(n=58)
非製造業
(n=28)
1 販売先への価格転嫁 50.5 52.8 47.8 50.4 53.6 47.1 51.2 50.0 53.6
2 調達先の多様化 27.5 33.5 20.7 25.3 33.2 17.2 38.4 34.5 46.4
3 販売先の開拓 25.1 18.2 33.2 26.7 20.9 32.8 17.4 8.6 35.7
4 在庫の積み増し 23.8 29.4 17.2 21.7 26.5 16.7 33.7 39.7 21.4
5 代替原材料・代替部品の調達 20.4 28.6 10.8 19.0 28.4 9.3 26.7 29.3 21.4
6 決済・代金回収方法の見直し 13.0 11.2 15.1 14.2 12.8 15.7 7.0 5.2 10.7
7 その他 8.6 5.6 12.1 8.2 3.3 13.2 10.5 13.8 3.6

(注1)赤字は、地域別・業種別の上位3項目。
(注2)「7 その他」:物流ルートの変更、コスト削減など。

※留意点
図表上のn数は、各設問の有効回答数を示す。各選択肢の回答企業数の分母が10社に満たない業種や国、選択肢は、表示対象から外した。
図表等の構成比は、四捨五入して表記したため、必ずしも合計が100%にならない場合がある。また、複数回答可能な設問は必ずしも合計が100%にならない。

ジェトロ欧州ロシアCIS課(担当:上田、臼井)
Tel:03-3582-5569
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