「2019年度 (第30回)カナダ進出日系企業実態調査」結果について

2020年02月06日

在カナダ日系企業の黒字比率は高水準も、景況感はマイナスに

ジェトロは2019年10~11月、カナダに進出する日系企業に対し、現地での活動実態に関するアンケート調査を実施しました。その結果を以下のとおり発表します。

調査概要

実施方法 アンケート調査
実施時期 2019年(令和元年) 10月29日~11月29日
アンケート送付先 カナダに進出する日系企業178社(有効回答は146社、有効回答率は82.0%)。
設問項目
  1. 営業利益見通し
  2. 今後の事業展開
  3. 原材料の調達先および製品・サービスの販売先
  4. 経営上の課題
  5. トルドー政権の政策
  6. 通商環境の変化の影響

調査結果のポイント

  1. 日系企業の黒字比率は2012年度調査から8年連続で7割台を維持したが、景況感を示すDIは2011年度調査以来8年ぶりにマイナスに。
  2. 今回初めて賃金と福利厚生の状況を調査したところ、賃金(基本給月額)の中央値は4,000~7,000カナダ・ドル(職種による)だった。福利厚生では傷病手当金や社内研修制度を半数以上の企業が提供している。
  3. 追加関税など通商環境の変化については米国・カナダ間の追加関税の掛け合いの影響もあり、マイナスの影響を受ける企業は2割に上った。具体的には「米国による鉄鋼・アルミニウムへの追加関税」と「米国に対するカナダの報復関税」の影響を受ける企業が多い。

(注1)調査結果の構成比は、小数点第2位を四捨五入しているため、必ずしも合計は100とはならない。
(注2)回答比率は、各設問の回答者数を基数として算出した。
※添付資料:「2019年度 カナダ進出日系企業実態調査」

調査結果概要

ジェトロが2019年10~11月に在カナダ日系企業にアンケート調査を行ったところ(有効回答数146社)、カナダ経済が堅調に推移する中で、日系企業の黒字比率は8年連続で7割台を維持したが、景況感を示すDIは8年ぶりにマイナスとなった。失業率が低位で推移する中、日系企業の賃金も上昇しており2019年は中央値で2.5%の伸びとなった。また、追加関税など通商環境の変化によりマイナスの影響を受けた企業は2割に上った。

1. 在カナダ日系企業の黒字比率と景況感DI

日系企業の黒字比率は77.1%となり、2000年以来の高水準となった。2012年度調査から8年連続で7割台を維持した。一方で、景況感を示すDIは△2.1となり、2011年度調査以来8年ぶりにマイナスに落ち込んだ。

  • 2019年は回答企業の77.1%が営業利益の黒字を見込む(p.8)。カナダ経済の堅調を背景に、黒字と回答した企業の比率(黒字比率)は前年(74.8%)より2.3ポイント増加した。 2012年度調査から8年連続で7割台を維持し、2000年(81.6%)以来の高水準となった。 業種別では食品/農水産加工やプラスチック製品(100%)、販売会社(88.0%)で黒字比率が高かった。

    図1 在カナダ日系企業の黒字比率と景況感DIの推移(1998~2020年)

    図1は、1998年から2020年までの在カナダ日系企業の黒字比率と景況感DIの推移を示しています。 2012年度調査以降、黒字比率は8年連続で7割台を維持しており、2019年は回答企業の77.1%が営業黒字を見込みました。一方、景況感を示すDIはマイナス2.1となり、2011年度調査以来8年ぶりにマイナスに落ち込みました。

    (注)2004年は調査を実施しなかったため、DIは2003年調査時点の見通しの数値。

    ジェトロ作成

  • 一方、2019年の景況感を示すDI(営業利益が前年比で「改善」した企業の割合から「悪化」した企業の割合を引いた数値)は△2.1となり、前年(16.8)から大幅に悪化した(p.9)。業種別では、電気・電子機器やプラスチック製品でDIが△80.0と大きくマイナスとなった。
  • 2019年の営業利益見込みが悪化する要因としては、「現地市場での売上減少」(55.1%)のほか、「人件費の上昇」(36.7%)や「調達コストの上昇」(30.6%)などのコスト増が上位に並んだ。

2. 賃金、福利厚生

今回、初めて賃金と福利厚生の提供状況について調査を行った。基本給(月額、中央値)は4,000~7,000カナダ・ドル、全職種平均の賃金上昇率は2.5%だった。

  • 2019年の職種別の基本給(月額、各職種の中央値)は、工場ではプロダクション・マネージャー(生産管理部門の課長クラス)が7,000カナダ・ドル(Cドル)、メカニカル・エンジニア(機械および設備の設計・製作・管理などを行う技術職)は5,267Cドル、オペレーター(製造工程における機械の操作に従事する職種)は4,000Cドルだった(p.20)。事務職では、ジェネラル・アドミニストレーション・セクション・チーフ(総務部門の課長クラス)は6,500Cドル、ジェネラル・クラーク(一般事務職)は4,000Cドルだった。

    図2 賃金(基本給月額)中央値

    図2は、カナダの基本給月額中央値を職種別で示しています。プロダクション・マネージャーの基本給月額の中央値は7,000カナダ・ドル、ジェネラル・アドミニストレーション・セクション・チーフは6,500カナダ・ドル、メカニカル・エンジニアは5,267カナダ・ドル、オペレーターは4,000カナダ・ドル、ジェネラル・クラークは4,000カナダ・ドルでした。プロダクション・マネージャー、メカニカル・エンジニア、オペレーターは製造業企業が回答しました。

    (注)プロダクション・マネージャー、メカニカル・エンジニア、オペレーターは製造業企業が回答。

    ジェトロ作成

  • 従業員の2019年度の全職種平均の昇給率(中央値)は2.5%で、2020年度の昇給率も2.5%が見込まれている。
  • 企業が用意している福利厚生については「傷病手当金」(59.0%)、「社内研修制度」(56.7%)、「出産・育児休暇」(47.8%)が上位に挙がった(p.19)。

3. 通商環境の変化の影響

「マイナスの影響がある」企業は2割に上った。マイナスの影響が及ぶ主な対象としては、半数以上が「調達・輸入コスト」を挙げた。具体的に影響を受ける主な政策は、「米国の鉄鋼・アルミニウムを対象とした追加関税賦課(通商拡大法232条)」と、「米国の追加関税に対するカナダの報復関税」だった。在カナダ日系企業にとっては、米中間よりも米国・カナダ間の追加関税の応酬の影響が大きい。

  • 通商環境の変化が与える現時点の影響について、「影響はない」が38.1%で最も多く、「わからない」が29.1%だが、「マイナスの影響がある」は22.4%と2割に上った(p.28)。 マイナスの影響が及ぶ主な対象としては、「調達・輸入コスト」が53.3%、「国内(カナダ市場での)売上」が33.3%、「生産コスト」が20.0%だった。

    図3 通商環境の変化が与える現時点の影響

    図3は、通商環境の変化がカナダの企業に与える現時点の影響を示しています。「影響はない」とした企業が38.1%、「わからない」とした企業が29.1%、「マイナスの影響がある」とした企業は22.4%と2割に上りました。

    (注)有効回答5社以上の業種のみ掲載。

    ジェトロ作成

  • 具体的に影響を受ける政策としては「米国の鉄鋼・アルミニウムを対象とした追加関税賦課(通商拡大法232条)」が57.7%で最も多く、「米国の追加関税に対するカナダの報復関税」が34.6%で続き、米中間の追加関税応酬よりも米・カナダ間の追加関税の影響が大きい(p.29)。

    (注)米国は通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウムへの追加関税をカナダに対しては2018年6月1日から2019年5月19日まで課し、カナダは米国への報復関税を2018年7月1日から2019年5月19日まで課していた。

調査結果から見えるそのほかの目立った動き

  1. 経営上の課題: 従業員の賃金(給与・賞与)がコスト上昇要因の筆頭要因に

    経営上の課題(コスト上昇要因)については、「賃金(給与・賞与)」が60.9%と前年(54.9%)から6.0ポイント増えて筆頭要因となり、「労働者(一般社員、技術者)の確保」が53.6%と続いた(p.17)。カナダでは、失業率が低水準で推移(2018年9月以来5%台を維持)しており、日系企業にとっても人材確保が難しい状況が続いている。

  2. 日本を中心にアジアからの調達が拡大

    原材料・部品の調達先については、カナダ(調達率31.5%)、米国(23.2%)、メキシコ(1.4%)を合わせたNAFTA域内からの調達は56.1%と前年(66.1%)から減少した一方、アジアからの調達が増加した(p.15)。特に日本からは22.6%と前年(18.0%)から4.6ポイント増加した。このほか中国が8.2%、ASEANが4.4%、韓国・香港・台湾が4.3%となり、いずれも前年から増加した。

ジェトロ海外調査部 米州課 (担当:藤井、中溝、野口、甲斐野)
Tel:03-3582-5545