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アジア日系企業の景況感が低水準に、事業拡大意欲も低下 ―「2019年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」結果について―

2019年11月21日

ジェトロは2019年8~9月、北東アジア、東南アジア、南西アジア、オセアニア20ヵ国・地域に進出する日系企業に対し、現地での活動実態に関するアンケート調査を実施しました。その結果を以下のとおり発表します。

調査概要:

実施方法
:アンケート調査
実施時期
:2019年8月26日~9月24日
アンケート送付先
北東アジア5ヵ国・地域、東南アジア9ヵ国、南西アジア4ヵ国、オセアニア2ヵ国の20ヵ国・地域に進出する日系企業(有効回答は5,697社、有効回答率は42.3%)。
設問項目
  1. 営業利益見通し
  2. 今後の事業展開
  3. 経営上の問題点
  4. 原材料・部品の調達
  5. 輸出入の状況
  6. 通商環境の変化の影響
  7. 生産性・イノベーション
  8. 個人・企業データの利活用
  9. 現地市場開拓への取り組み
  10. 賃金

調査結果のポイント

  1. 現地市場での売上減少などから、ほぼすべての国・地域で日系企業の景況感が悪化、事業拡大意欲も低下。景況感では、北東アジア(中国、韓国、台湾、香港)が10年ぶりに全ての国・地域でマイナスに。
  2. 米中貿易摩擦など通商環境の変化のマイナスの影響は北東アジアで相対的に高い。実際に生産地・調達先・販売先を変更した企業は1割にとどまる。
  3. FTA・EPA活用率が初の「50%台」に向上。

調査結果概要:

米中貿易摩擦の激化と世界的な景気減速懸念の中で、通商環境の変化が与える我が国の海外ビジネス活動へのネガティブな影響が予想された。ジェトロが今年8~9月にアジア・オセアニアの日系企業約6,000社にアンケート調査を行ったところ、予想を上回ってほぼすべての国・地域で足許の景況感が悪化し、事業拡大意欲が低下していることが分かった。特に、北東アジアでの落ち込みが顕著だった。

1.日系企業の景況感はほぼすべての国・地域で悪化し、事業拡大意欲も低下。理由は「現地市場 での売上減少」の影響を上げる企業が多い。景況感では、北東アジア(中国、韓国、台湾、香港(香港にはマカオを含む))が10年ぶりに全ての国・地域でマイナスとなった。一方、2020年の景況感では、(韓国、香港 などを除き)改善するとみる企業が多い。

  • 19年の景況感を示すDI値(営業利益が前年比で「改善」した企業の割合から「悪化」した企業の割合を引いた数値)は3.3ポイントとなり、18年調査の23.6ポイントから大幅に低下した(p.16)。2019年の営業利益見込みが悪化する理由として「現地市場での売上減少」を挙げた企業が61.4%(前年比15.7ポイント増)と最も多かった(p.19)。
  • とりわけ、北東アジア地域では10年ぶりに全ての国・地域がマイナスに落ち込んだ。韓国(▲15.7ポイント)の落ち込みが大きく、台湾(▲8.9ポイント)、香港(▲8.4ポイント)、中国(▲3.8ポイント)が続いた(p.16)。米中貿易摩擦を背景とした中国経済減速などを受けた「現地市場での売り上げ減少」が主に影響したと みられる(香港、韓国については後述も参照)。
  • 在ASEANの日系企業においても、18年調査と比べ、大部分の国で悪化した。中でも、マレーシアが▲10.5 ポイントと減速感が強く、タイ(▲3.6ポイント)、 シンガポール(▲0.8ポイント)が続く。マレーシア では電気機器が▲25.9ポイントと落ち込み、同国の 電気機器の営業利益見込みが悪化する理由として72.0%が「輸出低迷による売り上げの減少」を挙げた。同国からは中国へのPC部品やPC向け記憶装置などの電気・電子部品の輸出が減少している。
  • タイでは輸送機器の景況感が▲23.8ポイントとなった。悪化の理由としては「現地市場での売り上げ減少」が79.3%を占める。タイの自動車生産台数は、18年が前年比9.0%増の217万台と伸びたが、19年1~9月では前年同期比2.0%減と前年割れした。ASEAN全体でも輸送機器、電気機器の2産業で悪化が目立ち、域内市場の影響が大きいシンガポールでは輸送機器が▲16.7ポイント、電気機器が▲15.6ポイントとなっている。
  • 18年調査に比べて最も景況感が悪化したのはインドで、前年比41.0ポイント減の▲1.1ポイントとなった。業種によって明暗が分かれ、電気機器は58.8ポイント、一般機械は33.3ポイントと 好調だが、輸送機器が▲46.3ポイントと際立って悪かった。同国の自動車販売は19年10月まで12カ月連続で前年割れが続き、同月には前年割れを脱したメーカーもあるが、業界全体として 本格的な回復の見込みは立っていない。昨今の原油・燃料価格の上昇、国内でのローンの引き締め、自動車保険料の値上げ、20年4月から導入される環境規制をにらんだ買い控えなど、複合的な 要因が影響している。
  • 今後1~2年の事業展開の方向性についてみると、全体では「拡大」とする企業の割合は48.9% となり、18年(55.1%)から6.2ポイント低下し、初めて5割を切った(p.21)。インドネシアを除くすべての国・地域で、前年に比べ拡大意欲が低下した。中国では「拡大」が4年ぶりに低下 (5.5ポイント)し、43.2%となった。ASEANでも「拡大」が5.9ポイント低下し51.5%となるなど、5割を割り込んだ09年以来の低さとなった。
  • 一方、20年の景況感を占うDI値は29.5ポイントと19年(3.3ポイント)よりも改善する見込みとなっている(p.16)。ただし、韓国では1.5ポイント、香港では11.6ポイントと、相対的に厳しい景況感見通しとなっている。

図1.各国・地域のDI値(景況感)

19年の景況感を示すDI値(営業利益が前年比で「改善」した企業の割合から「悪化」した企業の割合を引いた数値)は 3.3ポイントとなり、18年調査の23.6ポイントから大幅に低下した。東アジア地域、マレーシア、タイ、シンガポールで落ち込みが目立つ。

ジェトロ作成

香港 ―デモの混乱続く、日系企業の景況感も悪化―

19年3月、政府による「逃亡犯罪人条例」改正案の立法会提出を契機とした抗議活動やデモが継続している香港では、19年のDI値は▲8.4ポイントと、最も低かった09年(▲26.9ポイント)に次ぐ結果となった。営業利益見込み悪化の理由としては「現地市場での売り上げ減少」、また経営上の問題点においても「主要販売市場の低迷(消費低迷)」が急浮上しており、中国経済の減速や デモなどによる現地の混乱を背景とした消費の冷え込みがうかがえる。

韓国 ―景況感はここ10年で最大の落ち込み

韓国の19年のDI値は▲15.7ポイントと、世界的に景気が後退した09年(▲12.5ポイント)を 下回り、この10年で最も低い結果となった。営業利益見込み悪化の理由として「現地市場での 売上減少」、また経営上の問題点として「主要販売市場の低迷(消費低迷)」などが挙がった。 最大の輸出先である中国経済の減速、最大の輸出品目である半導体市況の悪化、不買運動など 日韓関係の冷え込みが複合的に作用している。

2.米中貿易摩擦など通商環境の変化の影響は中国など北東アジアで相対的に高い。具体的対応をとった企業はわずか1割。在アジア・オセアニア日系企業は、全体として中国、米国からの調達、両国向け輸出の割合が小さい(注)。影響を受けたと回答した企業のうち、実際に「生産地の移管」、「調達先の変更」、「販売先の変更」をした(予定含む)企業は1割に過ぎず、多くの企業は対応策について「変更なし」と回答している。 マイナスの影響では、中国などの北東アジアが3割以上と相対的に高く、ASEANなどの企業では2割以下。マイナスの影響の主な要因は、(1)米国向けに輸出する中国の外資企業や地場企業への販売不振、(2)中国向けの輸出企業への販売の落ち込み、(3)中国経済減速の影響の広がりなどと考えられる。

(注)全回答企業の輸出に占める比率は中国向け6.6%、米国向け4.0%、一方、原材料・部材調達は中国から7.3%、米国からは0.9%に留まる。

  • 在アジア・オセアニアの日系企業を全体としてみると、「影響はない(26.2%)」「わからない(39.8%)」と回答した企業が6割以上を占め、「マイナスの影響」があるとした企業は19.7%に留まる(p.73)。影響を受けたと回答した企業のうち、「通商環境の変化に対する対応策」として、実際に「生産地の移管」、「調達先の変更」、「販売先の変更」をした企業(予定含む)は、1割程度(それぞれ7.2%、11.9%、10.0%)で、多くの企業は「変更なし」と回答(p.76‐78)。ただし、変更した企業の動きとしては、生産地、調達先、販売先のいずれの変更においても、中国からベトナム、タイなどASEANへの動きが目立った。

    図2.通商環境の変化が与える現時点の影響(国・地域別、合計が100%)

    米中貿易摩擦など通商環境の変化の影響は中国など北東アジアで相対的に高い。総じて、「影響はない」「わからない」が目立つが、「マイナスの影響」は中国などの北東アジアが3割以上と相対的に高く、ASEANなどの企業では2割以下にとどまった。

    ジェトロ作成

  • 北東アジアにおいては、米中貿易摩擦の当事国である中国を中心に「マイナスの影響」がある とした企業の割合が相対的に高く、香港(37.3%)、中国(35.4%)、韓国(31.8%)で3割を超え、台湾(21.4%)も2割を超えた。「プラスとマイナスの影響がある」を回答した企業も合わせると、中国(46.6%)、香港(44.3%)では4割を超える企業が何かしら影響を受けていることが分かる(p.73)。今後の影響見通しも同じような傾向が出ている(p.74)。
  • 中国で「マイナスの影響」を受けたと回答する企業のうち66.5%が「国内売上」で影響を受けたと回答(p.73)。「国内売上」の影響は、米国向けに輸出する外資企業や地場企業などへの国内販売が難しくなったり、中国経済減速による国内販売不振という間接的な影響を受けたりしたものと みられる(注)。
    (注) 在中国の日系企業の輸出先に占める米国向けの比率は5.5%に留まるため(p.55)、米国の関税引き上げ等の直接的な影響を受ける企業は多くはないとみられる。また、米国から原材料・部材を調達している割合も0.7%(p.46)とごくわずかである。
  • 香港、韓国、台湾の日系企業は、マイナスの影響が各国の国内売上に及んでいる(それぞれ56.0%、63.4%、70.5%)ことに加え、海外売上(輸出での売上)でも影響が出ている(45.0%、34.2%、47.7%)。これらの国・地域での国内売上で影響が強く出ているのは、中国向けに販売(輸出)する企業向けの販売が不振であることや、中国経済の減速などが自国・地域内の経済にも影響を与えているためとみられる。
  • ASEAN日系企業へのマイナスの影響は、シンガポールでの19.5%が最多で、タイ(18.1%)、 マレーシア(17.9%)などと続く。「プラスとマイナスの影響がある」を含めると、マレーシア(33.6%)、シンガポール(29.3%)、タイ(29.2%)で3割前後。マイナスの影響では、タイやマレーシアでは国内売上の影響(それぞれ70.5%、67.5%)が高いのに対し、シンガポールでは海外売上での 影響(56.6%)の回答が多い。一方、ベトナムやフィリピンでは「プラスの影響がある」との 回答率が比較的高い(それぞれ7.1%、5.7%)。

3.アジア日系企業のFTA・EPA活用率は52.4%と前年に比べて4.1ポイント拡大。初めて50%台に達した。企業規模別では大企業の活用率(55.8%)が中小企業(47.2%)を上回るが、中小企業は11.0%(大企業は8.1%)が「活用を検討中」としており、FTA・EPAの理解が深まりつつあることが垣間見える。中小企業を中心にFTA・EPAの利用率を一層高めていくための継続的な支援が求められる。

  • FTA・EPA活用率は52.4%と18年に比べて4.1ポイント拡大し、初めて50%台に達した(p.63‐64)。輸出・輸入を行っている日系企業では、FTA・EPAを活用する企業が活用しない企業を上回るようになった。企業規模別にみると、大企業の活用率が55.8%、中小企業は47.2%と大企業での利用が多い中、中小企業では11.0%が検討中と回答し、潜在的利用拡大が期待できる。アジアの日系企業はFTA・EPAを活用した域内のサプライ チェーンを構築し、域内・各国市場向けの販売をより志向する傾向にあることが読み取れる。
  • また、在ASEAN日系企業のFTA・EPA活用率は、輸出(50.2%)、輸入(53.4%)ともに初めて5割を超えた。

図3.アジア日系企業のFTA・EPAの活用率の推移 (2011~2019年)

在アジア日系企業のFTA活用率を2011年から2019年の間でみると、2011年の40.3%から2019年は過去最高の52.4%まで上昇した。

ジェトロ作成

調査結果から見えるそのほかの目立った動き

  1. 従業員の賃金上昇、引き続き、最大の経営上の問題

    18年調査に引き続き、経営上の問題として「従業員の賃金上昇」を挙げる企業が最多だった。国別では、84.0%の企業が同問題を指摘したインドネシアが最多で、カンボジア(75.7%)、中国(73.7%)が続いた(p.37 - 38)。また、業種別でみると製造業(74.6%)の方が、非製造業(59.1%)よりも賃金上昇を問題とみていることがわかった。ただし、製造業と非製造業とを比べると、非製造業の方が給与は高い傾向にあることは留意すべき点である。今年度調査の基本給(月額)を基準に各国の「製造業・作業員」と「非製造業・スタッフ」を比べてみると、すべての国・地域で後者の方が高く、特に前者の基本給が1,000ドル未満の国では、後者の方が約2~4倍も高いところが多い(p.117)。

  2. 生産性からみた最低賃金の妥当性、フィリピンがトップ

    今年度新たに設けた「生産性」を聞いた質問では、生産性からみた所在国・地域の最低賃金を妥当であると回答した企業の割合はフィリピン(74.2%)、ラオス(66.7%)、ミャンマー(60.9%)の順で高く、インドネシア(23.7%)、カンボジア(24.2%)、オーストラリア(27.3%)の順で低かった(p.80)。

  3. 貿易円滑化措置、7割以上の企業が必要性を認識

    今年度新たに設けた「貿易円滑化措置の必要性」を聞いた質問では、75.9%の企業が「ある」と 回答した(p.71‐72)。その割合は、パキスタン(96.0%)やインドネシア(88.5%)など9カ国で8割を超えた。措置別では、「貿易制度や手続き情報の充実」(42.1%)のほか、「関税分類評価などに関する解釈の統一」(33.0%)、「事前教示制度の導入と利用可能な運用」(32.8%)などを求める声が多かった。

  4. 200社以上の企業が現地スタートアップと連携

    今年度新たに項目を設けた「現地スタートアップの連携」については、203社がすでに連携済み、152社が連携予定と回答した(p.92‐94)。連携済・連携予定と回答した企業では、ベトナム (56社)、インド(55社)、シンガポール(46社)の順で多かった。また、業種別では、卸売・ 小売業(83社)、金融・保険業(32社)、通信・ソフトウェア業(31社)の順で多かった。

  5. 大企業を中心に、個人情報や製造関連データの利活用が進む

    自社が有する個人情報の共有割合については、「自社のみ」が48.5%、「日本本社との間で共有している」が45.6%と高い割合となった(p.95‐100)。一方、製造関連データについては、「日本本社との間で共有している」割合が49.2%と、「自社のみ」の43.5%を上回った。また、少数だが、 進出先国や域内の関連企業との共有もみられた。

ジェトロ海外調査部 アジア大洋州課 新田、北見 (TEL:03-3582-5179)
ジェトロ海外調査部 中国北アジア課 友田、清水 (TEL:03-3582-5181)