「イラン最新情勢セミナー」開催

2016年5月

ジェトロは、イランの最新政治経済情勢について解説するセミナーを、2016年5月19日、東京で開催しました。経済制裁の解除によって注目を集めるイランについて、研究者および弁護士の専門家2名が、経済制裁緩和のポイントなどを中心とする講演を行った本セミナーには、190名の参加者がありました。

190名と多数の参加者

国民への利益分配と指導者層の世代交代が課題

ジェトロの平野理事による冒頭の挨拶に続き、一般財団法人・日本エネルギー経済研究所中東研究センターの坂梨祥研究主幹が、イラン政治経済動向について解説しました。
国内政治エリート層が「核合意に基づく制裁解除と開国は必須」という共通認識を持ち、2016年2月の第10期国会選挙でも政府支持派が躍進したイランについて、坂梨氏は、現体制を維持しつつ国民に利益を分配し、同時に指導者層の世代交代を進めることが課題である、としました。また制裁解除の効果として、(1)世界各国からの経済使節団多数がイランを訪問した、(2)原油生産量が回復した、(3)原油輸出量が回復した、ことを挙げました。
他方、制裁が解除されたにも関わらず、(1)欧州の大手金融機関は依然としてイランとの取引に慎重、(2)原油代金として凍結されていたイランの在外資産返還が進んでいないなどの事情もあり、思ったようにビジネスが進展しない現状に対し、イラン国内には保守強硬派を中心とする反発が強い、としました。ただし、輸入代替と輸出拡大による経済的自立・回復を目指すイラン政府としては、外資による投資(合弁会社設立、雇用創出、技術移転など)に期待しているところから、今後も核合意を遵守せざるを得ないだろうと分析しました。さらに、米国大統領選挙の影響は未知数だが、イランが核合意を守る限り、米国側から合意事項を一方的に破棄する根拠は希薄だろう、と述べました。

平野理事の挨拶

坂梨講師の講演

経済制裁のビジネス上の注意点を説明

続いて登壇したモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所(ワシントンDC事務所)の伊藤嘉秀弁護士は、イランとのビジネスを行う上で注意すべき事項について解説しました。まず、経済制裁とは対外政策・安全保障のために貿易・金融・投資・渡航等の経済活動を禁止・制限・規制するものと定義した伊藤弁護士は、制裁に違反することには、企業にとって、罰金、市場からの追放、米国での異議申し立て不能、風評被害をはじめとする桁違いに大きな代償を伴う、と述べました。
また米国の制裁に関しては、「財務省イラン制裁法」と「商務省輸出管理規則(EAR)」の2つを押さえるべきとした上で、連邦政府の規制だけでなく州レベルの制裁法も存在するので注意が必要、としました。さらに伊藤氏は、対U.S. Personの「一次制裁」と対non-U.S. personの「二次制裁」があり、U.S. Personには米国人だけでなく在外の二重国籍者や米国法に基づいて設立された法人も含まれることと、二次制裁(non-U.S. personによる取引)に関しては、原則緩和されてはいるもののSDNリスト掲載者との取引は禁止であるとし、50%ルール(リスト掲載者が合計で50%以上を所有する団体も対象となる)についても要注意、としました。

伊藤講師の講演

また、例外はあるものの、米国原産品等のイランへの再輸出も原則禁止であり、金融機関によるドル取引も継続して禁止である旨、説明しました。加えて、イラン渡航経験者には電子渡航認証システム(ESTA)によるビザ・ウェーバー(免除)制度が適用されず、米国渡航にあたって事前のビザ取得が必要になる、と述べました。他方、米国制裁より適用範囲が狭い欧州制裁については、原則米国制裁に準じていればまず問題とはならないが、EUのブラックリストは米SDNリストと異なるので、別途把握する必要があるとしました。

最後に、スナップバック(制裁復活)のリスクに触れた伊藤氏は、EUは制裁解除・緩和期間中の契約・取引等を尊重するものの、米国はこれについても制裁対象とし得ると表明しているので、イランとの取引契約にはスナップバック時の解除条項等も含めておくべき、としました。

セミナーの最後には、30分にわたって参加者から多数の質問が寄せられました。ジェトロでは今後も、セミナー等を通じて企業の皆様の対イラン・ビジネスを支援するための情報提供を行ってまいります。

「イラン最新情勢セミナー」概要

概要
開催日時 2016年5月19日(木曜) 14時00分~16時30分
会場 ジェトロ本部(東京) 5階 展示場
主催 ジェトロ
セミナー次第
14時00分-14時05分 主催者挨拶
ジェトロ 理事 平野克己
14時05分-14時55分 講演(1)「イランの最新政治経済情勢について」
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 中東研究センター
研究主幹 坂梨祥氏
14時55分-15時00分 休憩
15時00分-16時00分 講演(2)「経済制裁解除のポイント整理とリスク」
モルガン・ルイス&バッキアス法律事務所(ワシントンDC事務所)
弁護士 伊藤嘉秀氏
16時00分-16時30分 質疑応答