自社利用目的の輸入でも公式規格適合が必要に-「NOM省令」の改正草案を公表-

(メキシコ)

米州課

2017年11月06日

メキシコにおける輸入手続きでは、メキシコ公式規格(NOM)の対象品目であっても、輸入者自らが利用することなどを条件に、規格の適合証明書がない製品の輸入を認める例外措置があるが、経済省は9月25日、同例外措置を認めないNOMを特定する経済省令(経済省貿易細則)改正草案を連邦規制改革委員会(COFEMER)のウェブサイトに掲載した。今後は品目によって、NOM適合が例外なく求められる可能性が出てきた。日本からの輸入で特に影響がありそうなのが、高効率モーター(かご形三層誘導モーター)規格の対象品目だ。

例外事由に相当すれば、NOM適合は免除

NOMは、製品やサービスの安全性、衛生、労働、省エネ、環境保護、測定方法、情報表示(商品ラベル)など幅広い分野について履行を義務付ける強制規格で、その幾つかは対象品目の輸入時にNOMへの適合を義務付けている。輸入時にNOM適合が義務付けられる品目については、貿易に関する一般規則と判断基準を定める経済省令(通称「経済省貿易細則」)の別添2.4.1(通称「NOM省令」)に、関税分類(HS)コード別に適合が義務付けられるNOMのコードなどが記載されている。

NOM対象品目を輸入する場合、管轄政府当局や認証機関が発行するNOMの適合証明書を輸入申告書に添付する必要があるが(NOM省令第5則)、以下の場合のように輸入者が輸入後に第三者に販売しないようなケースでは、証明書の添付が免除される(同第10則)。なお、下記を理由にNOM適合なしで輸入する場合、事前に輸入者が特定の識別コードで輸入申告し、必要に応じて宣誓書などを輸入申告書に添付する必要がある。

  1. 旅具として通関する場合
  2. 引っ越し荷物として通関する場合
  3. 見本品やサンプルなど、商品と見なされない場合
  4. 国境地帯の住民が自らの消費用として通関する場合
  5. 大使館や国際機関が外交特権を用いて輸入する場合
  6. 研究・教育機関や大蔵公債省に認められた寄付の受益団体
  7. 輸入者(自然人)自らが利用するために輸入する場合(自動車やライターを除く)
  8. 輸入者が自らの専門サービスに用いる、輸入者が自らの製造プロセス過程で部品・原材料や機械設備の補修部品として用いる、他の専門業者が自らのサービスや製造プロセスで利用する、輸入後に小売りのために再包装する(この事由は情報表示規格のみ)など、一般消費者向けに輸入された状態で販売されない場合
  9. 輸入申告額が1,000ドル以下で、同じ輸入者によって7日以内に2回以上輸入されることがない場合
  10. 一時輸入品、国際展示会出展品(非買目的)、免税店販売用品、保税転送品、保税区において加工・製造・修理されるもの、戦略的保税区域(RFE)向け貨物
  11. NOM履行を証明するための試験用サンプル輸入の場合
  12. 専門性が極度に高い情報処理機械の場合
  13. 一時輸出品を再輸入する場合
  14. バルク商品の場合
  15. 国境地帯の居住者による輸入品で国境地帯にとどまる場合
  16. 製品安全規格対象の電気・電子機器のうち、使用電圧が24ボルト以下の場合

合計62のNOMについて自社利用などの例外措置を認めない改正

経済省が9月25日にCOFEMERのウェブサイトに掲載した経済省令の改正草案は、別添文書である「NOM省令」を改正する内容だ。同改正の中で輸入者に与える影響が大きいのは、第10則に規定されている輸入時にNOM適合証明書を税関に提示する義務を免除される前述の16の例外措置のうち、(7)と(8)の例外事由をいかなる場合でも認めないNOMの特定だ。

経済省は、合計で62のNOMを特定した。当該NOMの対象品目については、たとえ輸入者の自社利用が目的で一般向けに販売することがなく、輸入者がその旨を輸入申告書に記載(実際は電子入力)したとしても、NOM適合証明書がない限り、輸入が認められないことになる。62のNOMの名称と対象品目については、添付資料の表1を参照。

経済省は同改正の理由として、例外事由(7)および(8)を利用したオペレーションの査察を行ったところ、輸入者による同規則の乱用が確認されたとし、輸入されるNOM対象品目が定められた安全基準を満たして消費者の保護を確保するため、例外スキームの改正が必要としている(9月25日付経済省令改正草案の前文)。

日本製のかご形三層誘導モーターの輸入に影響か

今回の改正で自社利用目的などの例外事由が使えなくなるNOMのうち、日本からの輸入が比較的多い(2016年に300万ドル以上の輸入実績がある)品目を対象とするNOMを表に示した。また、添付資料の表2に具体的なNOM対象品目(HSコード、品名)と過去3年間の日本製の輸入額をまとめた。

表 自社利用などを理由とするNOM適合例外が認められなくなるNOMの一例
(日本からの輸入が多い品目を対象とするNOMを選定)
コード 対象 管轄官庁 種類 品目数
NOM-003-SCFI-2014 電気機器 経済省 製品安全 105
NOM-011-SESH-2012 ガス湯沸かし器 エネルギー省 製品安全 3
NOM-063-SCFI-2001 電気導体 経済省 製品安全 12
NOM-016-SCFI-1993 事務用電子機器 経済省 製品安全 26
NOM-019-SCFI-1998 データ処理機器 経済省 製品安全 40
NOM-196-SCFI-2016 ワイヤレス通信ネットワーク接続端末 経済省 製品安全 30
NOM-001-SCFI-1993 家庭用電子機器 経済省 製品安全 144
NOM-093-SCFI-1994 安全弁 経済省 製品安全 12
NOM-086/1-SCFI-2011 タイヤ 経済省 製品安全 16
NOM-086-SCFI-2010 タイヤ 経済省 製品安全 14
NOM-030-ENER-2012 LED電球 エネルギー省 省エネ 1
NOM-004-ENER-2014 家庭用給水ポンプ エネルギー省 省エネ 6
NOM-032-ENER-2013 待機電力を必要とする機器 エネルギー省 省エネ 48
NOM-016-ENER-2016 かご形三層誘導モーター エネルギー省 省エネ 5

(注)対象品目数は輸入に際しNOMの適合が求められるHSコード(メキシコ側8桁)の数。
(出所)9月25日付NOM省令改定草案、現行NOM省令など

家庭用電子機器を対象とする安全規格NOM-001-SCFI-1993、電気機器を対象とする安全規格NOM-003-SCFI-2014、データ処理機器を対象とする安全規格NOM-019-SCFI-1998、事務用電子機器を対象とする安全規格NOM-016-SCFI-1993、待機用電力を必要とする機器の省エネ規格NOM-032-ENER-2013などは対象品目が多いために日本からの輸入も比較的あるが、一般的に小売りされている種類の製品であるため、NOM適合の例外事由を活用した輸入はそれほど多くないとみられる。

NOM適合の例外事由を活用して日本から輸入している事例が想定されるのは、工場などで用いられる生産設備や部品・原材料などだ。電気導体(銅やアルミニウムの線や配線セットなど)や安全弁、LED電球、かご形三層誘導モーターなどは、例外事由を活用して進出日系企業の工場などが輸入している可能性がある。

今回の改正で特に影響が及ぶと考えられるのは、出力0.746~373キロワット(kW)のかご形三層誘導モーターの省エネ規格であるNOM-016-ENER-2016の対象品目だ。当該NOMは、国際電気標準会議(IEC)が定めるモーターの効率クラスで「IE3」(プレミアム)に相当するモーターの販売を義務付ける最低エネルギー消費効率基準(MEPS)だ。メキシコは2011年以降、米国とカナダに合わせるかたちでモーターの高効率規制をいち早く導入している。

他方、日本ではインバーター技術と組み合わせたモーターシステム全体としての省エネを推進してきたこともあり、高効率モーター自体は数年前まであまり普及していなかった。しかし、米国などが高効率モーターのMEPSを導入していることもあり、2013年11月にエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)のトップランナー制度の対象機器に産業用モーターが追加され、2014年3月には「トップランナーモーター」のJIS規格「JIS C 4213」が制定された(2015年4月施行)。これにより、2015年度からIECでIE3に相当する高効率モーターが日本でも目標値とされているが、日本で製造されている全てのモーターが同基準を満たすわけではない。

今まではNOM省令第10則(8)の適合例外事由(自社工場における生産設備の部品として使用)を理由に、進出日系企業はNOMを履行することなく日本製のモーターを輸入することが可能だったが、今回の経済省令の改正が施行されると、NOMに適合しないモーターの輸入はできなくなる可能性が高い。当該改正により影響を被る可能性のある利害関係者は、COFEMERの行政規則草案検索サイト「経済省令改正草案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」でパブリックコメントを提出することが可能だ。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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