EUによる一般特恵関税の優遇制度が復活-輸出で6,000品目以上の関税が免除に-

(スリランカ、EU)

コロンボ発

2017年07月20日

EUによる一般特恵関税の優遇制度(GSPプラス)が5月19日に復活し、スリランカの産業界では主要輸出産業であるアパレル分野を中心に、輸出増加や投資の呼び込みへの期待が高まっている。一方で、中高所得国入りを間近に控えるスリランカは、GSPからの卒業も見据えながら、中長期的には輸出産業の多角化や新たな自由貿易協定(FTA)締結といった政策実施も求められている。

輸出や投資の増加に期待

GSPプラスとは、EUが開発途上国に提供している特恵関税制度の1つだ。途上国の中でも持続可能な開発や人権保障などに関連する一連の国際条約を批准・準拠している国に対して付与される措置で(注1)、一般特恵関税制度(GSP)より幅広い品目が免除対象となる。スリランカは以前にもGSPプラスの適用を受けていたが、内戦中の人権侵害を理由として2010年に適用が停止されていた。その後、シリセナ現政権による人権問題への取り組みや、GSPプラス適用条件である27の国際条約を批准したことが認められ、2017年5月19日から再適用に至った。これにより、対EU輸出で6,000品目以上の関税が免除となる(注2)。EUはスリランカにとって輸出総額の3割超を占める最大の輸出先で(2016年実績)、政府や企業は輸出拡大の大きなチャンスと捉えている。

またアパレル部門では、GSPプラスの復活が対内直接投資の拡大にも寄与するとみられている。スリランカの最大輸出品目は繊維製品・衣料品であり、2016年には輸出総額のうち47.4%を占めた(表1参照)。衣料品のうち、41.4%がEU向けだ(表2参照)。EU市場向け商品の増産に伴い、製造ライン増設などの設備投資が拡大する可能性がある。

表1 スリランカの主要品目別輸出(2016年、暫定値)(単位:100万ドル、%)
品目 金額 構成比
農水産品 2,326 22.6
レベル2の項目紅茶 1,269 12.3
レベル2の項目その他農産品 888 8.6
レベル2の項目海産品 170 1.6
工業製品 7,940 77.0
レベル2の項目繊維製品・衣料品 4,884 47.4
レベル2の項目その他工業製品 3,056 29.6
鉱業品 29 0.3
その他 15 0.1
合計(その他を含む) 10,310 100.0

(出所)スリランカ中央銀行「Annual Report 2016」

表2 衣料品の国別輸出(2016年、暫定値)(単位:100万ドル、%)
輸出先国 金額 構成比
EU 1,905 41.4
レベル2の項目英国 826 17.9
レベル2の項目イタリア 350 7.6
レベル2の項目ベルギー 204 4.4
レベル2の項目ドイツ 194 4.2
レベル2の項目その他EU諸国 331 7.2
米国 2,104 45.7
その他 593 12.9
合計(その他を含む) 4,603 100.0

(注)衣料品のみのため、表1の繊維製品・衣料品の金額とは合致しない。
(出所)スリランカ中央銀行「Annual Report 2016」

投資拡大の課題は人材確保

一方、人材面で課題もある。スリランカでスポーツウエアや女性用下着を製造する大手企業の担当者によると、現在、自社の工業団地開発計画に着手し、今後数年間で大規模な事業拡大を予定しているが、労働者の採用が追い付いていない。スリランカ繊維業の強みは高付加価値品が製造できる技術力といわれるが、これを支える十分な人材の確保がGSPプラスの好機を捉える上で重要になる。

GSPプラスの復活が歓迎される一方で、これが恒久的な制度ではない点には注意が必要だ。EUの貿易規定によると、3年間にわたって「世界銀行統計の中高所得国〔1人当たり国民総所得(GNI)が4,036ドル~1万2,475ドル〕」と認定されると、GSPから「卒業」となり、同制度の適用が解除される。スリランカは2016年には1人当たりGNIが3,727ドル(注3)と、低中所得国(1人当たりGNIが1,026ドル~4,035ドル)から脱しつつあり、卒業が近い、との見方が主流だ。

GSPと卒業後の貿易構造改革迫られる

GSP卒業までの間に、FTAなどを通じた自由貿易圏の整備を急ぐことが政府には期待される。スリランカは、現時点でインド、パキスタンとFTAを締結済みで、シンガポール、中国とはそれぞれ2017年中の締結を目指して交渉中だ。さらに、多面的技術・経済協力のための「ベンガル湾イニシアチブ(BIMSTEC)」などの新たな多国間協定の枠組みについても交渉が進んでいる。

スリランカ投資委員会(BOI)でアドバイザーを務める堀口英男氏によると、英国のEU離脱(ブレグジット)の影響についても注視する必要があるという。英国はスリランカにとって重要な輸出先の1つで、経済的・文化的な結び付きも強い。EU離脱以降の英国がGSPプラスと同様の枠組みを維持するかは不透明な一方、コモンウェルス(旧英植民地)諸国との連携強化に動く可能性もある。同氏は、このような貿易圏の整備に加えて、輸出産業の多様化も求められる、と指摘する。

輸出を安定的に拡大させるには、現状のアパレル産業への過度な依存から脱却し、輸出品目や輸出先地域の幅を広げていく必要がある。GSPプラスの恩恵を享受できる間に、いかに経済の基礎体力を醸成できるかが、スリランカ経済の今後を占うことになる。

スリランカ外国投資委員会(BOI)投資促進アドバイザー堀口英男氏(ジェトロ撮影)

(注1)GSPプラスの適用国は、アルメニア、ボリビア、カボベルデ、キルギス、パラグアイ、モンゴル、パキスタン、フィリピン、スリランカ。

(注2)EUの輸入関税率データベース:TARIC Consultation外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

(注3)出所:スリランカ中央銀行「Annual Report 2016」(暫定値)。

(山本春奈、ウィラコーン・スバーシニ)

(スリランカ、EU)

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