欧州の第4次産業革命への取り組みを紹介-東京で「欧州IoTセミナー」を開催-

(欧州)

欧州ロシアCIS課

2017年04月19日

 ジェトロは3月10日、東京で「欧州IoTセミナー~欧州の第4次産業革命への取り組み~」を開催し、ドイツを中心とする欧州主要国の産業デジタル化への取り組みや欧州を代表する企業のIoT(モノのインターネット)推進への考え方や取り組み事例を紹介した。ドイツの見本市「CeBIT2017」のジャパンパビリオンへの出展企業関係者をはじめ約120人が参加した。

「CeBIT2017」を前に、出展関係者らが参加

3月20~24日にドイツ・ハノーバーで開催された世界最大級の国際情報通信技術見本市「CeBIT2017」には日本がパートナーカントリーとして参加し、ジェトロが設置したジャパンパビリオンに118社が出展した(2017年4月12日記事参照)。ジェトロは、CeBIT開幕を前に欧州のIoTの最新事情を紹介するため、「欧州IoTセミナー」を開催した。

セミナーの冒頭に、ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課の田中晋課長が「EUおよび欧州主要国の産業デジタル化への取り組み」のテーマで講演した。欧州委員会は2020年までの経済成長戦略をまとめた「欧州2020」戦略を2010年に発表し、研究開発(R&D)投資とイノベーションの促進を5大目標の1つに設定した。具体的には、R&D投資額を2020年までにGDP比3%まで引き上げることを目標としたが、2015年のEU平均は2.03%にとどまり、3%を超えているのはスウェーデン、オーストリア、デンマークの3ヵ国のみだった。他方、ドイツの「インダストリー4.0」に代表される産業デジタル化への対応指数と各国のGDPに占める製造業の割合の指数でEU加盟国を分類すると、ドイツ、アイルランド、スウェーデン、オーストリアが最も産業デジタル化への対応が進み、製造業の比率も高い先駆者グループに入る、という欧州委の分析を紹介した。また、欧州委は2015年5月に、加盟国間で異なる規制環境を整備し、国境を越えた商品やサービスの提供を促進することを目的としたデジタル単一市場(DSM)戦略を発表。その背景には、「EU域内デジタル市場のサービス提供の54%を米国企業が占め、EU企業による自国内展開が42%、EU企業の加盟国間をまたぐサービス提供はわずか4%にとどまっているため、加盟国ごとに異なる規制を統合し、欧州企業の国際競争力を向上させる狙いがある」と解説した。

EUのIoT市場の国別規模は英国が最も大きく、ドイツ、フランスが続く。欧州には、ドイツのインダストリー4.0以外にも、英国の産学共同の研究開発プログラム「カタパルトセンター」やフランスの「未来の産業」など、約30の国別・分野別の産業デジタル化のイニシアチブが存在する、と説明した。

続いて、三菱UFJリサーチ&コンサルティング国際営業部の尾木蔵人副部長が、「ドイツを中心とする産業デジタル化への取り組み」と題して講演を行った。ドイツ政府は2011年に国家戦略の1つとしてインダストリー4.0を採択し、2013年にその具体化・実現化を目的に「インダストリー4.0プラットフォーム」を設立した。産官学一体となって進める国家プロジェクトだ。ドイツの主要産業である製造業を取り巻く環境も昨今大きく変わり、(1)生産コストの上昇に伴い、他国と競争するための生産性効率の向上、(2)消費者ニーズの多様化に対応するためのカスタマイズ(多品種を大量/少量生産)を通じた高付加価値の実現、(3)情報通信技術(ICT)ネットワークやインターネットの普及によるビッグデータの活用、IoTへのシフト、人工知能(AI)の活用、などへの対応が必要となっている。とりわけドイツが得意とする自動車産業では、自動運転やカーシェアリングなどの分野で米国が先行している印象があり、ソフト面での開発が急務となっている。インダストリー4.0とはサイバー・フィジカル・システム(CPS)を活用することであり、工場のフィジカル(現場)データをセンサーやRFID(注)などで「デジタルデータ」としてサイバー(IT)上に蓄積していくことだ、と説明した。

各企業の講師が導入事例を交えて説明

また、欧州企業のIoT推進取り組み事例の紹介があった。ドイツのソフトウエア最大手で、インダストリー4.0の中核企業であるSAPの日本法人SAPジャパンのインダストリークラウド事業統括本部IoT/Big dataビジネスアーキテクトの五十嵐剛氏によると、SAPは企業の基幹システム(ERP)のソフトウエア専業の会社だったが、2010年ごろから非ERP事業を強化し始め、2015年には非ERPの売上高が全体の60%を占めるまでになった。その主軸がIoT関連で、今後も2020年にかけて約2,300億円の投資を計画している。IoTはただ「つながる」だけでは十分ではなく、「つながる」ことを前提としたビジネスプロセスを再構築することで、製品品質や顧客サービスの向上などビジネス価値が生まれる、と説明した。さらに、SAPが取り組んだIoT活用事例を幾つか紹介。ドイツのスポーツ用品大手アディダスが提供する、シューズやウエアなどを消費者の好みの色やパーツにカスタマイズできるサービス「mi adidas」は、eコマースと最終工程の工場をつなげる仕組みとして興味を引いた。

次に、英国に本社を置く世界最大級の通信事業会社ボーダフォンの日本法人であるボーダフォン・グローバル・エンタープライズIoTジャパンのカントリーマネージャーの阿久津茂郎氏が講演した。同社の調査では、IoTが必要不可欠と考える企業は約90%。IoT自体が目的ではなく、問題解決の手段として使われるべきであり、IoTに関連する投資は優れた投資収益率(ROI)が確保できている企業に多いとの調査結果も披露した。ユーザーは製造装置を購入するという感覚ではなく、製品の使用量や保守サービス内容により費用を支払う。また、工場を資産として保有せず、生産に使用した分だけ費用を支払う、といった方法がIoTでの考えだ。同社のグローバルな通信ネットワークや独自プラットフォームの管理機能を活用し、1つの窓口でグローバルに展開できるメリットが説明された。

最後に登壇したのは、ドイツのインダストリー4.0の中核であるグローバル複合企業シーメンスの日本法人のデジタルファクトリー事業本部プロセス&ドライブ事業本部の島田太郎専務執行役員事業本部長だ。インダストリー4.0が必要な理由として、製品を市場へより早く出すこと、顧客の好みに合わせた製品(マス・カスタマイゼーション)を最小限の費用(コストミニマム)で提供することで、競争力を強化できる点を挙げた。シーメンスでは、これまで別々だった製品設計、製造準備、製造設備設計、製造、サービスを一貫管理する「デジタルエンタープライズ」を提供している。さらに、製品の企画、設計、試験や工程・設備設計をする製品ライフサイクル管理(PLM)ソフトウエア、製造オペレーション管理/製造実行システム(MES/MOM)ソフトウエアと、製造工程における各種制御やセキュリティー機能などの統合自動化製品を統合してデータ管理することで、各工程の壁がなくなり、設計が終わってから5分で生産ラインに投入することが可能になってくる、と説明した。また、IoTとは汎用(はんよう)技術が専用技術を置き換えていくことであるため、「標準技術の活用」と「セキュリティーの確保」が特に重要になると指摘した。

各講演者は自社のIoT技術の導入事例も多く紹介し、来場者の注目を集めた。質疑応答では、「ドイツと日本のIoTへの取り組み姿勢の違いは」との質問に対して、島田氏は「ドイツでは生産工程のモジュラー化への取り組みが重視され、その組み合わせを変えることにより柔軟な生産対応が可能になるが、日本では対応が遅れている。日本企業の品質は高いが、標準インターフェイスのように技術を他社と共有することが重要になる」と回答した。セミナー終了後も、参加者が講演者に多くの質問を投げ掛けており、IoTに対する関心の高さがうかがわれた。

(注)ID情報を記録した微小な電子チップ(RFIDタグ)を、電波によってリーダー・ライターと非接触で交信し、識別情報を交換するシステム。

(我妻真、深谷薫)

(欧州)

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