企業に代金支払い報告を義務付け、4月から年2回

(英国)

ロンドン発

2017年01月23日

 マーゴット・ジェームス小企業担当相は、従業員250人を上回る企業に対し、取引業者への代金支払い状況を年2回報告することを義務付ける制度を2017年4月に導入すると発表した。背景には、英国企業の3割が支払期日を守らないことが経営基盤の弱い中小企業の破綻要因になっていることがあり、制度の導入で企業慣習の改善を目指す。

<従業員250人を超える企業が対象>

 ジェームス小企業担当相(ビジネス・エネルギー・産業戦略省付)は2016122日、250人を超す従業員を抱える企業に対し、年に2回、納入業者に対する代金支払いに関する報告を義務付ける制度の最終案を発表した。同制度は201746日に導入され、同日以降に会計年度が始まる企業から報告義務が生じる。

 

 英国企業は、請求書受領から支払いまでの期間が長くなる傾向があり、支払いの遅延は経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)な小企業の経営圧迫の大きな要因となっている。支払い遅延の解消は、メイ政権が進めるコーポレートガバナンス強化の重要なテーマの1つだ。

 

 英国小規模企業連盟(FSB)が20161116日に発表した報告では、アンケート調査を実施した約1,000社の約30%から、取引先の支払いが遅れている、との回答があった。同調査によると、2014年に支払い遅延が原因で倒産した企業は5万社に達し、それによる損失は25億ポンド(約3,550億円、1ポンド=約142円)に上る。また、英国企業がドイツ企業と同じくらい速く支払っていれば、25,000社は倒産を免れることができただろう、としている。

 

 報告義務の対象となるのは、原則として250人を超える従業員を抱える比較的規模の大きい企業。従業員がこれより少なくても、年間売上高が3,600万ポンドを超えるか、総資産が1,800万ポンドを超える企業も対象となる。

 

 20151月に英国産業連盟(CBI)が発表した制度導入に関する政府への答申によると、CBIは企業の支払い慣行の改善につながるとして、制度導入に賛成を表明している。同時に、約18,000社が報告義務の対象となり、報告には1社当たり177ポンド、英国全体で320万ポンドのコストが発生する、と試算している。

 

<報告は政府のポータルサイトに掲載>

 報告では、企業の支払いに対する基本的な方針(請求書受領から支払いまでの一般的な期間や遅れる場合の最長期間、支払うための条件などの情報)や、支払いに対するクレームなどへの対応に関する社内の体制について説明することを求めている。

 

 また、(1)請求書受領から支払いまでの平均的な時間、(2)請求書受領からa.30日以内、b.31日以上60日以内、c.61日以上の期間に支払われた比率、(3)請求書受領後、契約で定められた期間内の支払比率と期間を超過した支払比率を数値で公表すること、などが規定されている。

 

 このほか、(4)電子請求書(einvoicing)を導入しているか、(5)サプライチェーンファイナンス(調達・生産・販売などの企業活動に必要な資金を融資するような金融の仕組み)を導入しているか、(6)取引企業リストに残る条件として一定の割引を強要するような企業方針があるか、また当該期間に実際にそのような割引を受けているか、(7)速やかな支払いに関する規則(例えば、英国政府が公共調達に参加する企業に推奨している即時支払規定:Prompt Payment Code)などの方針を持っているかどうかについて、報告することを求めている。

 

 報告は、会計年度の最初の6ヵ月(上半期)終了後から30日以内、年度(下半期)終了後から30日以内の年2回の作成が義務付けられており、取締役(Director)の承認を得て、政府が用意するポータルサイトに掲載する必要がある。報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合は取締役の責任となり、取締役や企業に罰金を含む罰則が科せられることとなる。

 

(岩井晴美)

(英国)

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