労働組合法を新しく制定

(カンボジア)

プノンペン発

2016年09月06日

 労働組合法が6月28日に公布、施行された。カンボジアではそれまで労働法や省令などで規定されていた労働組合に関して、17章、100条から成る新法の形式で規定している。

<労使関係の改善と投資の活性化が目的>

 イット・サムヘン労働相は法令施行の通知の中で、「同法は、従業員側と雇用者側が団体交渉を行う権利と自由を確保することで、良好な労使関係とディーセント・ワーク(注)の発展を促し、生産性向上と投資の増加による雇用創出のためのものだ」と述べた。

 

 カンボジア縫製製造業協会(GMAC)によると、会員から報告されている2015年のストライキの件数は118件と前年の108件より10件増加した。カンボジア経営者協会(CAMFEBA)のサンドラ・ダミコ副代表は「この法律により、工場内の労使関係が改善し、安定するだろう」とし、投資家、特に縫製業の経営者にとっては歓迎すべき法律だ、としている。(「クメール・タイムズ」紙76日)

 

<労働組合に対する統制強まる傾向>

 同法により、新たに「労働組合は企業・組織内の労働者10人以上、労働組合連合は現地労働組合7組合以上、労働組合総連合は労働組合連合の5連合以上により構成される」と規定された。労働組合による財務記録の保管も義務付けられた。2016年度ジェトロ中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業の永田有吾コーディネーターによると、同法は「法令に基づき正式に運営されている組合に限って権利行使ができる」とする姿勢をあらためて示すとともに、労働省が最終的な資金面の監督を行うことや、労働相が労働組合の承認だけでなく登録取り消し・活動停止をすることが可能とされているなど、労働組合に対する統制が強まった傾向を見て取れるという。

 

<不十分な労働者の権利確保にILOも懸念>

 一方、20164月に法案が国会で審議された際、抗議する100人近くが国会近くに集結し、警備隊に排除される事件が起きた。CUMWのパブ・シナ代表は遺憾の意を表明し、「同法は労働者の権利と自由を尊重しておらず、国会は市民の意見を反映していない」と述べた。2008年から、同法の草案づくりの段階でカンボジア政府を支援してきたILOも、労働省が最終的な資金面の監督を行うことや、労働相が労働組合の承認だけでなく、取り消しや活動停止をすることが可能とされているなどからも、当初より労働者の権利が十分に守られていない法案となっていることに懸念を示し、特に労働組合や労働者団体との対話を求めていた。

 

<縫製業の受注減少につながる恐れも>

 労働者の権利擁護団体のモウン・トラ氏は、同法が完全に憲法違反だとし、消費者が労働問題をますます意識するようになっている中、カンボジアの縫製業の受注減少につながるのではないか、と将来を危惧している(「プノンペン・ポスト」紙45日)。

 

 カンボジア労働組合総連合(NTUC)のファ・サリー代表は「政府の決定に従うよう務めるが、順守が難しい条項に関しては、修正を要望するつもりだ」(「クメール・タイムズ」紙730日)と、今後の論議の可能性を示唆している。

 

 なお、ジェトロはウェブイトでこの法令の概要を公開している。

 

(注)ディーセント・ワーク(Decent work)とは、1999年からILOが用いている「働きがいのある人間らしい仕事」の概念を示す言葉。

 

(岸有里子)

(カンボジア)

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