EPA活用で国産蜂蜜を日本に輸出

(モンゴル)

中国北アジア課

2017年08月30日

日本とモンゴルの経済連携協定(EPA)が2016年6月に発効してから1年が経過した。モンゴルの養蜂・蜂蜜製造業者であるMihachiは、日・モンゴルEPAを利用し、2017年に天然蜂蜜の対日輸出を開始した。ウランバートルで同社を経営する衣袋智子氏に、糖分析のための検査や各種許可証の取得など、日本市場参入に不可欠な実務手続きなどの経験を聞いた(8月28日)。

「FOODEX JAPAN 2017」のジェトロゾーン出展が契機

(問)事業の概要は。

(答)当社は2014年に設立したモンゴル資本100%の企業だ。現在、モンゴルのセレンゲ県およびトゥブ県で合計約200群を養蜂している。セレンゲ県は、モンゴルで最大の養蜂地域だ。当社の2016年の収穫量は、セレンゲ県が約3トン、トゥブ県が約2.5トンだった。2017年は両県とも干ばつの影響を受け、特にトゥブ県には蜂を持っていけないほどの状況になった。現在のところ、2017年の収穫見通しは約5トンだ。

(問)日本市場が求める蜂蜜とは。

(答)当社は「FOODEX JAPAN 2017」のジェトロゾーン出展などの機会を利用して、日本企業との商談や日本市場調査をした結果、日本の蜂蜜輸入業者には主に次のようなニーズがあることが分かった。

第1に、品質などの基準を満たしていること。例えば、a.糖度が80以上ある、b.糖分析でショ糖、ブドウ糖、果糖の割合が基準を満たしている、c.衛生基準を満たしている、d.農薬が検出されない、など。第2に、単花蜜であること。第3に、数量が安定的に確保できること。日本の蜂蜜需要は数百トン単位というので、当社としては当面、コンテナ1本(約20トン相当)の供給を目指したい。第4に、価格が手頃なこと。第5に、蜜源に物語性や個性があること。

(問)「手頃な価格」の目安とはどの程度か。

(答)取引先は1キロ当たり6~7ドルを想定しているようだ。世界的な蜂蜜の市場取引価格は、中国産が1~2ドル程度、欧州産が7~8ドル程度と承知している。モンゴル国内の価格は約10ドルだ。

(問)モンゴル産蜂蜜の現状は。

(答)第1に、蜂蜜の品質基準はモンゴルの養蜂家に周知されているとはいえない。第2に、蜂蜜の蜜源をうたうことが一般的に行われておらず、モンゴル国内販売時でも明記されていない。第3に、モンゴル全体の蜂蜜生産量は200トン前後で、大規模の輸出数量を安定的に確保することが困難だ。第4に、モンゴル国内の蜂蜜の価格は、国際的な市場取引価格より割高になっている。

これらは、これからモンゴル産蜂蜜の輸出を拡大する過程で、必ず解決しなければならない課題だ。

(問)養蜂業に対する支援はあるか。

(答)国際農林業協働協会(JAICAF)による草の根支援で、セレンゲシャーマルで養蜂技術向上を目指すプロジェクトが行われている。さらに、養蜂業は、国際協力NGOワールド・ビジョン、国際食糧農業機関(FAO)、アジア開発銀行(ADB)など各方面からの支援が充実している分野でもある。

これらのプロジェクトを活用し、品質の向上、蜜源の確保など、養蜂業界全体の底上げが行われることを期待している。

検査と輸出許可の取得に相当のコストと時間

(問)蜂蜜の対日輸出で苦労した点は何か。

(答)最も苦労したのは、各種検査実施などのために相当の時間と費用を要したことだ。日本で天然蜂蜜として輸入されるためには、糖分析が不可欠だ。しかし、国内の私立の検査機関は軒並み、分析できないという回答だった。また、科学技術大学の検査ラボは、多忙で検査料金も不明瞭だった。獣医学研究所は、設備はあるが試薬がなかった。これらの事情により、米国の検査機関に検査を依頼した。所要経費は検査が1ロット当たり150ドル(3ロット分を検査)で、別途送料がかかった。

その後、日本の取引先の要求に基づき、モンゴル商工会議所で、米国から送られた検査結果の承認を受け、原産地証明を取得した。EPAに基づく蜂蜜の関税割当を受けるため、モンゴル農牧省に検査結果を提出し、EPAの証書を取得した。

さらに、国家監査局から輸出許可証を発給してもらうため、獣医学研究所での検査も受けた(25ドル×3ロット=75ドル)。糖分析の検査から輸出許可証の取得までに3カ月を要したが、さらに別の問題にも直面した。

日本の取引先から、「厚生労働省のマニュアルでは問題がないと解されても、第三国での検査結果は日本の税関では認められない」との連絡を受けた。モンゴルでさらに検査機関を探したが、状況は当初と変わらず対応できる検査機関が見当たらなかった。結局1ロット当たり5万円をかけて日本の港で検査を受けることになった。

モンゴル国内での検査機関整備を要望

(問)初めて対日輸出を経験した感想は。

(答)1ロットの量が50~60キロと小さかったため、1キロ当たりの検査料金が割高になった。また、輸出に必要な書類の量が多く、時間がかかりすぎる。モンゴルの検査機関で糖分析が完全にできないと、輸出への道は険しいと実感した。農牧省には、至急(できるだけ2017年秋までに)試薬を獣医学研究所に支給してほしいと思っている。日本に対する要望としては、第三国での検査を認めてほしい。

(問)日本向け輸出拡大に当たっての当面の重点目標は。

(答)蜜源のバリエーションを広げることに、最も重点を置いている。2017年は干ばつで養蜂にとって大変厳しい局面だが、日本にない蜂蜜の逸品が作れるように努力している。

(加藤康二)

(モンゴル)

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